英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第46話 絶対安静です

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「命に係わるかもしれないんです!お願いします!ミーアちゃんを助けて・・・」

マユミの悲痛な叫び声が会場に響く・・・

「ひょっとしてその女の子ってさっきの子じゃないか?」
「でもあれはお芝居じゃないの?」
「いや、俺は昨日も見たんだが、昨日はもっと後に倒れてたぞ」
「そういえば途中、なんか妙に動きが硬かったな・・・」
「じゃああの子は怪我したまま舞台に立ってたのか!」

会場は騒然となっていた。

「皆様、落ち着いてください、決してそのような事はありません」
「助けて!お願い!ミーアちゃんをはやく・・・」

慌てて座長が収めようとするが、その声はすぐそばで声を張り上げるマユミにかき消されてしまっていた。

「く・・・お前は一体なんなんだ」
「ミーアちゃんを助けて・・・助けて・・・」

座長のことなど見えていないかのようにただそう繰り返すマユミ・・・その肩にそっと触れる者がいた。

「私でよろしければ見ましょう・・・患者はどちらに?」
「お医者様?!」

その人物・・・たまたま近くを通りかかった医者がマユミの声を聞いて駆け付けたのだ・・・彼はマユミを安心させるように頷いて応えた。

「一刻を争うのでしょう?さぁ、はやく・・・」
「はい、こっちです!」

医者の手を引いてミーアの元へと向かうマユミ。
その様子を何事かと気になった客達の一部も舞台袖の方へとついてきた。

「ぶ、部外者は立ち入り禁止だぞ、お前ら止まらんか!」

・・・その後ろの方から座長の声がむなしく響くのだった。


「お医者様を連れてきたよ、ミーアちゃん」

医者はすぐにミーアの状態を確認する・・・雑に巻かれていた包帯を容赦なく解き傷を診察する。

「傷口を洗いたいので、お湯を用意してもらえますか?」
「お湯ですね、すぐに持ってきま・・・」

お湯を求めて駆けだそうとするマユミだったが、その手を掴む者がいた。
こんな時に誰が・・・そう思いながらマユミが振り返った先にいたのは、エレスナーデだった。

「ナーデ?!」
「お湯がいるんでしょう?私に任せてもらえるかしら」

見るとゲオルグやエプレも心配そうに見ていた・・・先程のマユミの様子を見て追ってきていたのだ。
エレスナーデは水の魔術を使える・・・たしかお湯を出すことも出来たはずだ。

「ええと、お湯って魔法で出した物でも大丈夫ですか?」

念のため医者に確認をする・・・医者は驚いたような表情を浮かべた。

「水の魔術師がいるのですか?なら話が早い、こちらに来て手伝っていただけますか?」
「はい、お湯はどれくれいの温度で?」
「では人肌程度のお湯で傷口とその周りの洗浄をお願いします」

エレスナーデは医者の指示に従い魔術を調整して行使する。
その間に用意した綺麗になった傷口に手当を行う・・・手際よく処置が終わると、医者は近くにいた団員達にミーアを運び出させた。

「後の治療はうちで行いましょう、適当な布で担架を作ってください」
「はい」

さすがに一座だけあって布はすぐ調達できた、中央にミーアを乗せ男達で担ぎ出す。
彼らの為に道を空けようと出口までの人だかりが真っ二つに割れた。
しかし・・・

「おいお前ら、勝手なことをするんじゃない!」

せっかく空けられた空間に座長が仁王立ちして道を阻む。

「どいてください、このままじゃミーアちゃんが」
「別にたいした傷じゃないだろう」
「いいえ、彼女の状態は放置できるようなものでは・・・」
「うるさい、うちの一座の事は私が決める、関係ない奴は引っ込んでいろ」

医者の説明も聞く耳を持たないといった様子で突っぱねる座長だったが・・・

「引っ込むのはお前だ!」
「そうだ、引っ込めー!」

周りにいた客達のブーイングが座長に浴びせられた。

「あんな傷のまま舞台に立たせるとか、アンタ鬼だろ!」
「まだ小さい子供なのに、かわいそう・・・」
「ひょっとして怪我の原因もこいつが無理させたからじゃね?」

そんな疑惑の声が広がっていく・・・
このままでは自分が怪我をさせた事になってしまう・・・焦った座長は弁解しようとするが・・・

「そんなわけあるか!この馬鹿が勝手に怪我したんだ!だいたいこいつはいつもどんくさくて・・・」

つい口から出たその言葉は、客達にとっては逆効果となった。

「うわ、虐待してるわこれ」
「普段の虐待が当たり前になってて自覚がないのね」
「最悪だな、あの子はがんばって良い演技してたのに・・・」
「こんな舞台なんざ、もう二度と見ねーわ」

「あ、いや、それはだな・・・なんと言うか・・・」
「ほら、どいてったら!このぉ・・・」

座長はすっかり狼狽していた・・・その様子を見たマユミは彼をどかしにかかる。
しかし体格差が大きく、非力なマユミが押したくらいでは動かない。
だが近くにいた者達が加勢してくれた、空いた空間を通ってミーアが運び出されていく・・・
それを見送った客達も、それぞれの帰路について行った・・・おそらく、もう二度とここには来ないだろう。

(こ、こんなはずでは・・・)

・・・後には、呆然と立ち尽くす座長だけが残されたのだった。

「元気出してくださいよ~座長~、あんな小娘いなくたって大丈夫ですって~」

そんな座長を励まそうとビレッタが甘い声を出す。
心配そうな顔をした団員達も集まって来ていた。

「でもあの様子じゃ、もうここでの公演は・・・座長、これからどうしますか?」

もうすっかり悪評が広まってしまっただろう・・・明日からの集客は望めそうになかった。

(この街で稼ぐのは無理か・・・なら・・・)

そうと決まれば・・・座長の決断は早かった。

「よし・・・ここを撤収する・・・お前ら、片付けを急げ、明日の朝にはこの街を出るぞ」
「でもそれじゃあいつは・・・」
「・・・あんなガキの事は忘れろ」
「そうよね~別にいらないわよ、そういう事だからみんな、さっさと片づけましょ」

ミーアを置いていく事になるのは仕方ない・・・どのみち、あの怪我では使い物にならないだろう。
その座長の決定に上機嫌のビレッタ・・・ミーアを心配する主演の男とは対照的だ。
釈然としないものを感じながらも、団員達は撤収作業に取り掛かった。


一方ミーアは無事に診療所へと運ばれていた。
医者による一通りの処置が終わった彼女は寝台に寝かされ、今は安らかな寝息を立てている。

「先生、ミーアちゃんは・・・」
「なんとか間に合ったといったところです・・・ひとまず安心していいでしょう・・・ただ、しばらくはここで安静にしていてもらう必要があります」

心配するマユミ達に医者が告げる、とりえずは助かったらしい。
ほっと胸を撫で下ろすマユミ達だった。

「よかった・・・お願いします」
「それと・・・マユミさんというのは、あなたですかな?」
「はい?そうですけど・・・」
「いえ、彼女がうわごとでその名前を口にしていたので・・・ご家族・・・ではないようですが」
「はい、私は友達で・・・」
「では、ご家族の方は?」

その問いかけにマユミ達は団員の方を見る・・・ミーアを運ぶのを手伝ってくれた彼らはしばらく迷った後に、口を開いた・・・

「あいつに家族はいません・・・たぶん、孤児だと思います」
「いつだか座長が拾ってきたって言ってたんですが、おそらくは・・・金で・・・」
「・・・」

座長の様子から、なんとなくそんな気がしていたが・・・重たい沈黙が流れる。
その沈黙を破り、医者は話を続けた。

「しかし、そうなると少々面倒なことになりますね・・・」
「ち、治療費だったら私が払います!」
「それはありがたいです、私も患者を見捨てるつもりはないですから・・・ですが、問題はそこではなく・・・今後の彼女の事です、その一座はいつまでこの街に滞在する予定ですか?」
「公演があと4日あって・・・その翌日には・・・」
「それまでに回復すれば良いのですが・・・あの怪我ではそう簡単には・・・」

一朝一夕で治るようなものではない事くらいは素人でもわかる。
残念なことにこの世界に怪我が一瞬で治るような回復魔法は存在しないようだった。

「たとえ彼女が動けるくらいに回復したとしても、完治するまでは出来る限り安静にしてほしいのですが・・・」
「・・・」

とても安静にできる環境ではないようだ・・・団員達の表情を見れば明らかだった。

「・・・それは明日にでもあの座長と話をつける、ということでいいかしら?」
「うん、そうだね・・・」

どのみちあの一座にはミーアを任せられそうにない。
最悪、お金を払ってでもミーアを引き取るつもりだった。

「では今日はもう遅いので、皆様はお帰りください」

・・・もうすっかり夜も更けてきていた・・・医者が皆に帰るよう促すが・・・

「ここにいちゃダメですか?ミーアちゃんの傍にいてあげたいんです」
「・・・そうですね、その方が彼女も喜ぶでしょう」
「ありがとうございます」
「では、あちらには私の方から伝えておくわ」
「うん、ありがとうナーデ・・・明日の朝には戻るね」
「では明日の朝、私が迎えに行きましょう」
「エプレさんもごめんね、こんなことになっちゃって・・・」
「気にしないで・・・マユミちゃんも、あまり無理はしないでね」
「うん大丈夫」

エレスナーデとゲオルグの二人はエプレを送り届けた後、城へと戻っていった。
団員達も宿に戻ったようだ。

「では彼女のことを任せます・・・もし何かあれば、私はあちらの部屋にいるので呼んでください」
「はい、お願いします」

医者も自室で休むようだ。
部屋にはマユミとミーアの二人が残された。

「ミーアちゃん、私がついてるからね・・・」

薬が効いているのだろう・・・ミーアは穏やかな表情で寝息を立てている・・・
マユミは、その小さな手を握り締めた。
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