英雄じゃなくて声優です!

榛名

文字の大きさ
45 / 90

第45話 どこかで聞いたあの台詞です

しおりを挟む
椋鳥一座の公演二日目。

エプレを加えたマユミ達は昨日と同じ最前列中央の席へ真っ直ぐ向かう。

「え、一番前の席なの?」
「うん、ひょっとしてエプレさんは後ろの方が良かった?」

場合によっては最前列より少し後ろくらいが良いという人もいる。
一瞬エプレもそういうタイプなのかと思ったが、単にいい席で驚いていただけのようだった。

「そんな事はないけど・・・こんな良い席もらっていいのかなって・・・」
「わざわざお店の仕事を抜けてもらって来てもらっているのだから、その辺りは気にしないでいいわ」
「ありがとう・・・それにしてもすごい数ね・・・」

座席から後ろを振り返り、客席の様子を見ながらエプレが呟く。
前日の評判が良かったからだろうか・・・客の数が増えているように見える、この分では立ち見も溢れてしまうのではないだろうか。

「まるで、街中の人間が集まってきたかのようですね」
「実際そうかも知れないわ、うちのお店とか今頃は閑古鳥が鳴いているかも・・・」
「だとしたら、少しは気が楽になるわね」
「いっそ店を閉めてもらって店長さんも来てもらえばよかったかな」
「ふふっ、そうね・・・お父さん退屈してそう」

そうこうしているうちに開演の時間になったようだ、昨日と同じように座長が舞台に上がって挨拶を始めた。

「オホン、えー皆様、本日はお集まりくださり、ありがとうございます・・・本日はまさに満員御礼と申しましょうか・・・」

この話の長さも昨日と同じだ・・・いつ始まるのかとそわそわしているエプレにマユミはそっと耳打ちする。

「・・・このお話、もうちょっと掛かるから楽にしてて・・・」
「ああ、そうなのね・・・」

その来客数に気分を良くしたのか、座長の話は昨日よりも少し長かった。


舞台袖でミーアは開演に備え待機していた。

幸いなことに傷は衣装で隠すことが出来た・・・傷の方も昨夜の団員が薬を持って来てくれたおかげで具合が良かった。

(大丈夫・・・私はやれる・・・見てて、マユミ・・・)

そして舞台が始まった・・・今の自分はミーアじゃない、妖精の姫フィーリアだ。

「殿下、そんなに慌てて進まれては、兵が着いてこれませぬ」
「ああ、そうだな、すまない・・・私としたことが功を焦っていたようだ・・・しかしこの森のなんと広大な事よ・・・」

場面は王の命を受けた王子達が森に入ってくるシーン・・・そろそろミーアの出番だ。

「王に命じられたまま森を進む王子・・・彼はそこで運命的な出会いをするのです!」

道化が観客の注意を引き付ける・・・
その隙にミーアは気配を殺して配置についた、第一声に意識を集中する・・・

「誰か・・・そこにいるのですか?」

(ミーアちゃんの出番だ・・・)

その声を聴いたマユミが舞台に注目する・・・相変わらず綺麗な声をしていて羨ましい。
だが、その声には何か違和感があった・・・

(ちょっと硬い?・・・緊張してるのかな・・・)

だがマユミはその違和感を気にしなかった。
そもそも、まったく同じ芝居をするというのは普通に難しい、マユミも養成所のレッスンの時講師に「さっきと同じ芝居をしろ」と言われて全然出来なかった経験があった。
本当に良い芝居というのは「その瞬間」にしか存在できないのだろう・・・

(ベテランの方々はそれをやってのけるからすごいんだけどね・・・)

・・・残念ながらマユミも、ミーアも、まだその域に達してはいない。
今はただ日々の努力を積み重ねるだけだ。


物語はそろそろ佳境、反旗を翻す決意をした王子が姫を幽閉先から連れ出す所だ。

「お願いです・・・私などの為にあなたが傷つくところをもう見たくないのです」

精一杯姫を演じるミーア・・・薬の効き目が切れてきたのか痛みを感じるが、それを表に出したりはしない。
だが、王子が姫を抱きかかえるべく、その身体を引き寄せた時・・・

「!・・・くぅ・・・」

身体に走る激痛にミーアは思わず表情を歪めてしまう・・・
だがそれも一瞬の事、ミーアは不屈の精神力で何事もなかったように芝居を続けるのだった。

(あれ、今・・・何かあったのかな・・・)

さすがに最前列のマユミはそれに気付いたが、ほとんどの客は何も気付かずにいた。
仮に何かがあったとしても、もうすぐ舞台は終幕・・・ミーアの出番もあとわずかだ。

(がんばって、ミーアちゃん)

客席で応援する事しか今のマユミには出来なかった。


そして舞台は大詰め、王と王子の一騎打ちのシーンだ。
ミーアの演じる姫が不安そうに二人の戦いを見ている・・・のだがその顔色の悪さは演技だけではなかった。

(大丈夫、あと少し・・・私はやれる・・・)

傷口が開いてしまったようだ・・・衣装越しに包帯に血がにじむのが見える。

王子が王の剣を弾く・・・この後、苦し紛れに王が投げる短剣をキャッチし、まるで刺さったかのように演じるのが彼女の役割だが・・・

「父よ、これで終わりだ!」
「くぅ・・・させるかあっ!」

王が短剣を投げ、王子が剣を振り下ろす・・・その刹那・・・

カシャン・・・

ミーアの方から、そんな金属音がした。
そして予定より早いタイミングで崩れ落ちるミーア・・・そのドレスが赤く染まっていく・・・

「や、やった・・・ぞ・・・フィーリア?」

台詞を呆然と呟く王子・・・だがそれは演技ではなく・・・


「ミーアちゃん?!」

マユミの悲鳴が会場に響いた・・・

その声で我に返ったのか、慌ててミーアに駆け寄る王子役。

「なんということだ・・・フィーリア、私はどうすればいい・・・教えてくれ・・・」

アドリブで話の流れを繋ぎつつ、ミーアを抱えて舞台袖へと足早に消えていく・・・さすがは主役を任される役者といったところか。
マユミも舞台の邪魔をしないように身を屈めてゆっくりと、ミーアが運ばれた方へと向かった・・・


「ミーアちゃん!」

舞台袖の裏側に回ったマユミがそこで見たのは、ぐったりとして意識のないミーアだった。
そのドレスの色は今や黒へと変わっていた・・・決して血糊の色ではない。

「なに・・・これ・・・なんで・・・」
「いや、お俺は何も・・・」

王子役の男も気が動転しているようで、何も出来ずに立っていた。
そこへ昨日の団員達が駆けてくる。

「おい、大丈夫か?」
「とりあえず、包帯を取り換えるぞ」

彼らは慎重に血に染まったドレスを破り・・・中の包帯と、傷口を顕わにした。

「ひどい・・・どうして・・・」
「お前たち、これはどういう・・・」
「詳しい事は俺達も知らねーよ、昨日の公演の終わり際に、こいつがどこかで怪我をしたらしくてな・・・」
「なんでその時にすぐ言わない!」
「いや、それは・・・」
「俺は座長に報告に言ったぞ、でもまともに取り合ってくれないし、こいつも役を降りたくないって言うから・・・」
「なんてことだ・・・」
「もうそんな事どうでもいいよ!今はミーアちゃんを助けないと・・・」

なにか自分に出来ることはないだろうか・・・マユミは必死に考える。
目の前の団員達は特に手慣れているわけでもないようで、包帯を巻く手つきはたどたどしかった。
早く医者に連れていくべきだが、下手に動かすのも危うい・・・であるならば・・・

意を決したマユミはステージへ駆けあがった。

「!!なんだお前は?」

ステージでは座長が終演の挨拶をしている所だった・・・突然現れたマユミに客達の注目が集まった。
マユミは客席を見回しながら前方に進み、大きく息を吸い込む・・・そして・・・

「お客様の中に、お医者様はいらっしゃいませんか?」

ドラマか何かで聞いたその台詞を大きな声で口にするのだった。

「おいお前いい加減に・・・」
「一座の女の子が酷い怪我をしているんです、お願いします!助けてください!」

座長自らマユミを捕まえて舞台上から連れ出そうとするが、気にせずマユミは声を出し続けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...