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第44話 家族と家族です
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「ミーアちゃん?!」
舞台袖の方で妙な物音がした・・・あれはミーアが駆けて行った辺りだ・・・マユミは妙に胸騒ぎを覚える。
「どうしたのマユミ?」
「今変な物音が・・・」
「別に何も聞こえなかったけど・・・ゲオルグはどう?」
「いえ、私も特に・・・」
どうやら周囲の喧騒で他の誰も気付いていないようだった。
(気のせい・・・だと良いんだけど・・・)
しかし胸騒ぎは収まらない・・・やはりミーアに何かあったのではないか・・・
マユミが舞台の方に向かおうとしたその時・・・舞台袖からミーアが顔を出した。
「ミーアちゃん!・・・よかった」
やはり気のせいだったようだ。
ミーアは何事もなかった様子でマユミ達の元へとやって来る。
「はい、チケット・・・」
「ありがとう、ええと全部で4枚、かな?」
マユミ、エレスナーデ、ゲオルグ、そしてエプレの分を銀貨8枚で購入する。
「ありがとう・・・」
「どういたしまして、明日も期待してるからがんばってね」
こくり。
(ふふっ、かわいいなー)
無言で頷く彼女の様子が可愛らしくて、ついその頭を撫でてしまうマユミだったが・・・
「ぅ・・・」
「あ、ごめん、嫌だった?」
ミーアの妙な反応に、慌てて手を引っ込める。
「大丈夫・・・ちょっと疲れただけ」
「ああ、そっか・・・」
「あれだけの熱演をしたのだから、疲れるのも無理はないわね」
「そろそろ我々も帰りましょう」
・・・まだ子供のミーアだ、疲れもするだろう。
このまま自分達の相手をさせているのも申し訳なく思ったマユミ達は、その場を去る事にした。
「そうだね・・・ミーアちゃん、今夜はゆっくり休むんだよ」
「また明日・・・待ってる」
「うん、また明日」
マユミ達が会場を出るまで、ミーアは手を振り続けていた。
そして・・・マユミ達が去ったのを確認したミーアは、その場に崩れ落ちた・・・
「おいミーア?!」
「大丈夫か?」
「う・・・ぅ・・・」
近くの団員達が慌てて駆け寄る・・・ミーアは苦しそうに呻いていた。
・・・・・・
・・・
その頃座長は、今日の売上金を数えていた・・・目標額を超えた売上に彼はご機嫌だった。
舞台でミーアが愛嬌のない芝居をやらかしてくれた事については腹が立たなかったわけではないが・・・
(まぁプラチナチケットを3枚も売りさばいたので今回は不問にしよう・・・私は心が広いからな)
意外に舞台の評判は良く、明日の売り上げも期待出来そうだ・・・この街でいい奴隷商人のあてが出来たばかりだったが、ミーアもこのまま稼ぎ続けてくれるなら一座に残すのも吝かではない。
彼がそんな事を考えていたその時、団員の一人が血相を変えて駆けてきたのである。
「座長!ミーアが倒れました!」
「ん?ああ・・・今日の公演で疲れたんだろう、誰か部屋に運んでやれ」
「え・・・いや・・・」
「ん?どうした?いちいち大げさな奴め、早く行け」
「は、はい・・・」
(まぁあいつは体力がないからな・・・手のかかる奴だ)
ミーアを残すなら、今後を見据えて体力トレーニングをさせるべきか・・・そんな事を考えながら彼は再び売上金を数え直すのだった。
「座長に言われた通り、部屋に運んだはいいが・・・大丈夫かこれ・・・」
部屋に運んだミーアをベッドに寝かせ・・・その身体の状態に、団員達は顔を歪めた。
「おい、お前、傷の手当とかわかるか?」
「いいや、わからんが・・・とりあえず包帯でも巻いとけばいいんじゃないか?」
「まぁ、何もしないよりはマシか・・・」
「・・・ぐぅっ!」
慣れない手つきで傷口に包帯を巻きつける・・・強く巻き過ぎたのか、ミーアがうめき声を発した。
「ああ、痛かったか・・・悪い・・・」
「大丈夫・・・」
「これで・・・よしっと・・・包帯を巻くってのも難しいもんだな」
「ありが・・・とう・・・」
「しかし・・・これじゃ明日からの公演は厳しいな・・・誰か代役を用意しないと・・・」
「無難なのは・・・ビレッタか、あいつあの役やりたがってたし・・・」
おとなしく横になっていたミーアだったが、代役と聞いて反応する。
「だ、だめ!・・・うっ・・・」
「おい動くなよ」
「代役は・・・いらない・・・私が・・・がんばるから・・・」
「で、でもよ・・・お前・・・」
「代役は、いらない・・・」
「・・・」
有無を言わさぬミーアのその気迫を感じて、団員は何も言い返す事が出来なくなった。
「わかったから、もう動くな・・・明日やるって言うなら、今は少しでも回復するんだ」
「おいお前、いいのか・・・どう見ても・・・」
「本人がやるって言ってんだ、止められるかよ・・・俺にだって役者魂ってもんはわかる」
「・・・そうだな、俺も、もし主役もらったら絶対降りねーわ・・・」
「行こうぜ・・・今ならまだやってる薬屋があるかも知れないしな」
そう言って彼らは去っていった・・・おそらく薬を求めて街中を駆け回るのだろう。
彼らは気付いているだろうか・・・今ミーアを初めて一人前の役者仲間として扱ったという事に・・・
「大丈夫・・・私がんばる・・・マユミ・・・」
ベッドの中、ミーアはうわ言のように・・・そう呟くのだった。
そして迎えた翌日。
マユミ達は『エプレ』に来ていた。
「いらっしゃいま・・・あれ、マユミちゃん?・・・今日は早いのね」
「うん、ちょっとお願いしたい事があって・・・」
「?」
出迎えた看板娘のエプレにマユミ達は事情を説明する。
「お芝居?そういえばパレードとかやってたわね・・・」
「そうそれ、私の友達が出てて、すごく面白いからエプレさんにも一緒に見てほしいんだけど・・・」
「やっぱり・・・お店があるから難しいかしら?」
「うん、誘ってくれたのは嬉しいし、私もお芝居を見てみたいのはやまやまなんだけど・・・ごめんね」
申し訳なさそうに謝るエプレ・・・あんまり申し訳なさそうにされるので、マユミ達の方も申し訳ない気分になる。
「気にしないで・・・こっちもダメで元々ってつもりで誘ったんだし・・・」
「ううん、私の方こそマユミちゃん達のおかげでお店が助かってるのに・・・」
互いに謝り合っていると・・・不意に店の奥の方から声がした、店長のエウロンだ。
「エプレ、行ってきなさい」
「お父さん?!」
「店の手伝いばかりでせっかくの友達の誘いを断るなんて、まるで私が悪者みたいじゃないか」
「いや、決してそんなことは・・・」
「それにこんな時間にわざわざ来たってことは、君達も店を手伝ってくれるつもりなんだろう?」
「あ・・・」
エウロンのその言葉にエプレが目を丸くする。
どうやらマユミ達の考えはお見通しだったようだ。
「はい、さすがですね」
「ふふっ・・・店長も伊達じゃないってことさ・・・エプレ、着替えを手伝ってあげなさい」
「はい、じゃあナーデさん、こっちへ・・・」
エレスナーデが着替えている間、マユミは用意を済ませる。
ここは比較的新しい住民の多い新市街だ・・・マユミは昨日聞いた『海の乙女』をここで試そうと思っていた。
しばらくしてエプレと同じ赤いエプロンドレスを着たエレスナーデが店に出てきた。
同じ服を着た二人はまるで姉妹のようだった。
どうやら、そう思ったのは家族である店長も同じらしい。
「いやー、娘が増えた気分だよ」
「せっかくだからお父様とお呼びしましょうか?」
「さすがにそれは遠慮するよ、君の父上に申し訳ないからね」
(あんな父に遠慮することはないと思うけれど・・・)
むしろこの店長のような真面目な父が欲しかった・・・そんな事を思うエレスナーデだった。
「ナーデさん、こういうお仕事をするのは初めてみたいだけど・・・大丈夫かしら?」
「大丈夫よ、この時に備えてエプレさんの仕事ぶりをよく見させてもらってたから・・・」
別に見てたからと言ってそれが出来るとも限らないのだが、エレスナーデの場合は本当にやれてしまうのだから恐ろしい。
だが、エプレはそんな事とは全然違うことを思ったらしい。
「うーん・・・そんなに見られてたって思うと、ちょっと恥ずかしいな・・・」
「というわけだからマユミ、遠慮なく始めていいわよ」
「うん、じゃあ始めるね・・・」
ポロロン・・・マユミの奏でる竪琴の音、そしてマユミのよく通る声が道行く客の心を射止めていく・・・
「いやー、今日はだいぶ稼がせて貰ったよ、ありがとう」
「一日分稼げました?」
「うん、充分稼げたよ・・・これで安心して娘を送り出せるってものさ」
「もう、お父さんったら変な事言わないの」
今日も大成功だった、早い時間から始めた分、新規の客も獲得できたようで店長は満足げだ。
マユミも今回はがんばって二話やる事が出来た。
『海の乙女』はなかなか好評だった、これなら侯爵領に戻った時『女神の酒樽亭』の客達へのいい土産になる事だろう。
エレスナーデも見様見真似とは思えない仕事ぶりで効率よく客を捌く事が出来た。
マユミ達同様に二人を姉妹だと思った客も多く、中にはエレスナーデとエプレを間違える客までいた。
「2枚看板というのも悪くないね、いやマユミちゃんを入れたら3枚か・・・」
「仕事のコツもわかってきたわ、次もよろしくお願いします」
「ああ、いつでも歓迎するよ」
「お父さん、そろそろお芝居の時間が・・・」
「ああそうだね、楽しんでおいで」
「はい、行ってきます」
エプロンドレスから着替えたエプレがマユミ達と共に店から出ていく・・・そういえば娘の普段着姿を見るのも久しぶりだ。
(本当に苦労をかけているな・・・)
返済を済ませたら定休日を作って自由に遊ばせてあげよう・・・そう決意する父であった。
舞台袖の方で妙な物音がした・・・あれはミーアが駆けて行った辺りだ・・・マユミは妙に胸騒ぎを覚える。
「どうしたのマユミ?」
「今変な物音が・・・」
「別に何も聞こえなかったけど・・・ゲオルグはどう?」
「いえ、私も特に・・・」
どうやら周囲の喧騒で他の誰も気付いていないようだった。
(気のせい・・・だと良いんだけど・・・)
しかし胸騒ぎは収まらない・・・やはりミーアに何かあったのではないか・・・
マユミが舞台の方に向かおうとしたその時・・・舞台袖からミーアが顔を出した。
「ミーアちゃん!・・・よかった」
やはり気のせいだったようだ。
ミーアは何事もなかった様子でマユミ達の元へとやって来る。
「はい、チケット・・・」
「ありがとう、ええと全部で4枚、かな?」
マユミ、エレスナーデ、ゲオルグ、そしてエプレの分を銀貨8枚で購入する。
「ありがとう・・・」
「どういたしまして、明日も期待してるからがんばってね」
こくり。
(ふふっ、かわいいなー)
無言で頷く彼女の様子が可愛らしくて、ついその頭を撫でてしまうマユミだったが・・・
「ぅ・・・」
「あ、ごめん、嫌だった?」
ミーアの妙な反応に、慌てて手を引っ込める。
「大丈夫・・・ちょっと疲れただけ」
「ああ、そっか・・・」
「あれだけの熱演をしたのだから、疲れるのも無理はないわね」
「そろそろ我々も帰りましょう」
・・・まだ子供のミーアだ、疲れもするだろう。
このまま自分達の相手をさせているのも申し訳なく思ったマユミ達は、その場を去る事にした。
「そうだね・・・ミーアちゃん、今夜はゆっくり休むんだよ」
「また明日・・・待ってる」
「うん、また明日」
マユミ達が会場を出るまで、ミーアは手を振り続けていた。
そして・・・マユミ達が去ったのを確認したミーアは、その場に崩れ落ちた・・・
「おいミーア?!」
「大丈夫か?」
「う・・・ぅ・・・」
近くの団員達が慌てて駆け寄る・・・ミーアは苦しそうに呻いていた。
・・・・・・
・・・
その頃座長は、今日の売上金を数えていた・・・目標額を超えた売上に彼はご機嫌だった。
舞台でミーアが愛嬌のない芝居をやらかしてくれた事については腹が立たなかったわけではないが・・・
(まぁプラチナチケットを3枚も売りさばいたので今回は不問にしよう・・・私は心が広いからな)
意外に舞台の評判は良く、明日の売り上げも期待出来そうだ・・・この街でいい奴隷商人のあてが出来たばかりだったが、ミーアもこのまま稼ぎ続けてくれるなら一座に残すのも吝かではない。
彼がそんな事を考えていたその時、団員の一人が血相を変えて駆けてきたのである。
「座長!ミーアが倒れました!」
「ん?ああ・・・今日の公演で疲れたんだろう、誰か部屋に運んでやれ」
「え・・・いや・・・」
「ん?どうした?いちいち大げさな奴め、早く行け」
「は、はい・・・」
(まぁあいつは体力がないからな・・・手のかかる奴だ)
ミーアを残すなら、今後を見据えて体力トレーニングをさせるべきか・・・そんな事を考えながら彼は再び売上金を数え直すのだった。
「座長に言われた通り、部屋に運んだはいいが・・・大丈夫かこれ・・・」
部屋に運んだミーアをベッドに寝かせ・・・その身体の状態に、団員達は顔を歪めた。
「おい、お前、傷の手当とかわかるか?」
「いいや、わからんが・・・とりあえず包帯でも巻いとけばいいんじゃないか?」
「まぁ、何もしないよりはマシか・・・」
「・・・ぐぅっ!」
慣れない手つきで傷口に包帯を巻きつける・・・強く巻き過ぎたのか、ミーアがうめき声を発した。
「ああ、痛かったか・・・悪い・・・」
「大丈夫・・・」
「これで・・・よしっと・・・包帯を巻くってのも難しいもんだな」
「ありが・・・とう・・・」
「しかし・・・これじゃ明日からの公演は厳しいな・・・誰か代役を用意しないと・・・」
「無難なのは・・・ビレッタか、あいつあの役やりたがってたし・・・」
おとなしく横になっていたミーアだったが、代役と聞いて反応する。
「だ、だめ!・・・うっ・・・」
「おい動くなよ」
「代役は・・・いらない・・・私が・・・がんばるから・・・」
「で、でもよ・・・お前・・・」
「代役は、いらない・・・」
「・・・」
有無を言わさぬミーアのその気迫を感じて、団員は何も言い返す事が出来なくなった。
「わかったから、もう動くな・・・明日やるって言うなら、今は少しでも回復するんだ」
「おいお前、いいのか・・・どう見ても・・・」
「本人がやるって言ってんだ、止められるかよ・・・俺にだって役者魂ってもんはわかる」
「・・・そうだな、俺も、もし主役もらったら絶対降りねーわ・・・」
「行こうぜ・・・今ならまだやってる薬屋があるかも知れないしな」
そう言って彼らは去っていった・・・おそらく薬を求めて街中を駆け回るのだろう。
彼らは気付いているだろうか・・・今ミーアを初めて一人前の役者仲間として扱ったという事に・・・
「大丈夫・・・私がんばる・・・マユミ・・・」
ベッドの中、ミーアはうわ言のように・・・そう呟くのだった。
そして迎えた翌日。
マユミ達は『エプレ』に来ていた。
「いらっしゃいま・・・あれ、マユミちゃん?・・・今日は早いのね」
「うん、ちょっとお願いしたい事があって・・・」
「?」
出迎えた看板娘のエプレにマユミ達は事情を説明する。
「お芝居?そういえばパレードとかやってたわね・・・」
「そうそれ、私の友達が出てて、すごく面白いからエプレさんにも一緒に見てほしいんだけど・・・」
「やっぱり・・・お店があるから難しいかしら?」
「うん、誘ってくれたのは嬉しいし、私もお芝居を見てみたいのはやまやまなんだけど・・・ごめんね」
申し訳なさそうに謝るエプレ・・・あんまり申し訳なさそうにされるので、マユミ達の方も申し訳ない気分になる。
「気にしないで・・・こっちもダメで元々ってつもりで誘ったんだし・・・」
「ううん、私の方こそマユミちゃん達のおかげでお店が助かってるのに・・・」
互いに謝り合っていると・・・不意に店の奥の方から声がした、店長のエウロンだ。
「エプレ、行ってきなさい」
「お父さん?!」
「店の手伝いばかりでせっかくの友達の誘いを断るなんて、まるで私が悪者みたいじゃないか」
「いや、決してそんなことは・・・」
「それにこんな時間にわざわざ来たってことは、君達も店を手伝ってくれるつもりなんだろう?」
「あ・・・」
エウロンのその言葉にエプレが目を丸くする。
どうやらマユミ達の考えはお見通しだったようだ。
「はい、さすがですね」
「ふふっ・・・店長も伊達じゃないってことさ・・・エプレ、着替えを手伝ってあげなさい」
「はい、じゃあナーデさん、こっちへ・・・」
エレスナーデが着替えている間、マユミは用意を済ませる。
ここは比較的新しい住民の多い新市街だ・・・マユミは昨日聞いた『海の乙女』をここで試そうと思っていた。
しばらくしてエプレと同じ赤いエプロンドレスを着たエレスナーデが店に出てきた。
同じ服を着た二人はまるで姉妹のようだった。
どうやら、そう思ったのは家族である店長も同じらしい。
「いやー、娘が増えた気分だよ」
「せっかくだからお父様とお呼びしましょうか?」
「さすがにそれは遠慮するよ、君の父上に申し訳ないからね」
(あんな父に遠慮することはないと思うけれど・・・)
むしろこの店長のような真面目な父が欲しかった・・・そんな事を思うエレスナーデだった。
「ナーデさん、こういうお仕事をするのは初めてみたいだけど・・・大丈夫かしら?」
「大丈夫よ、この時に備えてエプレさんの仕事ぶりをよく見させてもらってたから・・・」
別に見てたからと言ってそれが出来るとも限らないのだが、エレスナーデの場合は本当にやれてしまうのだから恐ろしい。
だが、エプレはそんな事とは全然違うことを思ったらしい。
「うーん・・・そんなに見られてたって思うと、ちょっと恥ずかしいな・・・」
「というわけだからマユミ、遠慮なく始めていいわよ」
「うん、じゃあ始めるね・・・」
ポロロン・・・マユミの奏でる竪琴の音、そしてマユミのよく通る声が道行く客の心を射止めていく・・・
「いやー、今日はだいぶ稼がせて貰ったよ、ありがとう」
「一日分稼げました?」
「うん、充分稼げたよ・・・これで安心して娘を送り出せるってものさ」
「もう、お父さんったら変な事言わないの」
今日も大成功だった、早い時間から始めた分、新規の客も獲得できたようで店長は満足げだ。
マユミも今回はがんばって二話やる事が出来た。
『海の乙女』はなかなか好評だった、これなら侯爵領に戻った時『女神の酒樽亭』の客達へのいい土産になる事だろう。
エレスナーデも見様見真似とは思えない仕事ぶりで効率よく客を捌く事が出来た。
マユミ達同様に二人を姉妹だと思った客も多く、中にはエレスナーデとエプレを間違える客までいた。
「2枚看板というのも悪くないね、いやマユミちゃんを入れたら3枚か・・・」
「仕事のコツもわかってきたわ、次もよろしくお願いします」
「ああ、いつでも歓迎するよ」
「お父さん、そろそろお芝居の時間が・・・」
「ああそうだね、楽しんでおいで」
「はい、行ってきます」
エプロンドレスから着替えたエプレがマユミ達と共に店から出ていく・・・そういえば娘の普段着姿を見るのも久しぶりだ。
(本当に苦労をかけているな・・・)
返済を済ませたら定休日を作って自由に遊ばせてあげよう・・・そう決意する父であった。
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