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16 縁日①
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縁日当日。集合時刻である午後五時ちょうどに、神社の手前、出店が並び始めている地点に着いた。
日は傾いてきたが、今日から六月。まだまだ明るい。
待ち合わせしてる二人を捜そうと、視線を巡らせる。
神社に向かって歩いていく人の群れ。
道の脇でおしゃべりをするカップル。
浴衣を着た若い女子のグループ。
それらに視線を移していくが、まひるさんの姿も、熊谷さんの姿も見当たらない。まだ来ていないのかな?
そう思ったとき、女子グループの影から背の小さい女の子が顔を出した。その女の子が僕の方へと歩み寄ってくる。着物や下駄に慣れていないのだろう、少し覚束ない足取りだ。
「りょーすけ」
声をかけられるまで、その少女がまひるさんだと確信できなかったのは、普段の眠たげな様子ではなかったからか、それとも彼女が浴衣姿だったからか。
藤色の花模様があしらわれた、少し大人びた浴衣を、彼女はしっかりと着こなしていて――普段と違うしっとりとした雰囲気の少女に、思わず目を奪われてしまう。
「……りょーすけ?」
まひるさんにもう一度名前を呼ばれて我に返った。まひるさんのぱっちりと開かれた真ん丸の目が、見上げるようにして僕の顔を窺っている。見惚れていたと悟られてしまっただろうか? なんだか顔が熱くなってきた。
「あ、えっと……待たせちゃったかな?」
若干しどろもどろになりながら、言葉を紡ぐ。それに対し、まひるさんはゆっくりと首を横に振った。
「だいじょーぶ。わたしたちも、ついさっき着いたところ」
それよりも、とまひるさんは一旦言葉を区切って――それから、ちょこん、と浴衣の袖をあげた。
「……どうかな?」
少し恥じらうような表情で尋ねてきた。
そんな彼女の浴衣姿に、再び見惚れてしまう。
「似合ってる。すごく綺麗だ」
「そうかな……えへへっ」
まひるさんは口元を少し綻ばせ――視線を横に流し、照れ隠しするように少し癖のあるミディアムヘアを撫でつけた。
その仕草にドキッとして、僕も彼女から視線をそらす。
「そう言えば、まひるさん一人で来たの?」
自分の中に芽生え始めた緊張感をごまかそうと、まひるさんに話しかける。
「うぅん、メグと一緒に来たよー」
「あ、やっぱりそうなんだ。それで、熊谷さんはどこにいるのかな?」
「メグなら、あそこー」
まひるさんが、先程抜け出てきた女子グループを指差す。
その先にいる四人の内の一人。
腰まで届こうかという長い黒髪。白地の浴衣を纏った、比較的背の高い女性。
僕の位置からは後ろ姿しか見えないが、どうやらあれが熊谷さんのようだ。
お取込み中のようなので、待つことにする。
…………。
今、まひるさんと二人きりなんだよな。
沈黙していると、どうしても意識してしまう。
……変に意識しないためにも、いつもの調子で話しかけよう。
「そう言えば、この神社ってどんなご利益があるのかな?」
「えっと、妙見菩薩を祀ってるから、眼病平癒、長寿、開運、厄除け、諸願成就、天災除去などなど……ってかんじだよー」
「ふーん、結構いろいろあるんだね」
妙見菩薩のことは知らないけれど、諸願成就ということは何でも叶えてくれるということらしい。
「あ、メグ」
まひるさんの声に反応して横に目を向けると、熊谷さんが歩み寄ってくるところだった。
「まひる、小路くん、ごめんね、待たせちゃって」
「ううん、へーきだよー」
「大丈夫、そんなに待ってないし」
まひるさんの言葉に、僕も同調する。
「それじゃ、行きましょっか」
「れっつごー」
まひるさんの緩いかけ声で、僕たちは屋台が並んでいる、神社へと続く道を歩き始めた。
日は傾いてきたが、今日から六月。まだまだ明るい。
待ち合わせしてる二人を捜そうと、視線を巡らせる。
神社に向かって歩いていく人の群れ。
道の脇でおしゃべりをするカップル。
浴衣を着た若い女子のグループ。
それらに視線を移していくが、まひるさんの姿も、熊谷さんの姿も見当たらない。まだ来ていないのかな?
そう思ったとき、女子グループの影から背の小さい女の子が顔を出した。その女の子が僕の方へと歩み寄ってくる。着物や下駄に慣れていないのだろう、少し覚束ない足取りだ。
「りょーすけ」
声をかけられるまで、その少女がまひるさんだと確信できなかったのは、普段の眠たげな様子ではなかったからか、それとも彼女が浴衣姿だったからか。
藤色の花模様があしらわれた、少し大人びた浴衣を、彼女はしっかりと着こなしていて――普段と違うしっとりとした雰囲気の少女に、思わず目を奪われてしまう。
「……りょーすけ?」
まひるさんにもう一度名前を呼ばれて我に返った。まひるさんのぱっちりと開かれた真ん丸の目が、見上げるようにして僕の顔を窺っている。見惚れていたと悟られてしまっただろうか? なんだか顔が熱くなってきた。
「あ、えっと……待たせちゃったかな?」
若干しどろもどろになりながら、言葉を紡ぐ。それに対し、まひるさんはゆっくりと首を横に振った。
「だいじょーぶ。わたしたちも、ついさっき着いたところ」
それよりも、とまひるさんは一旦言葉を区切って――それから、ちょこん、と浴衣の袖をあげた。
「……どうかな?」
少し恥じらうような表情で尋ねてきた。
そんな彼女の浴衣姿に、再び見惚れてしまう。
「似合ってる。すごく綺麗だ」
「そうかな……えへへっ」
まひるさんは口元を少し綻ばせ――視線を横に流し、照れ隠しするように少し癖のあるミディアムヘアを撫でつけた。
その仕草にドキッとして、僕も彼女から視線をそらす。
「そう言えば、まひるさん一人で来たの?」
自分の中に芽生え始めた緊張感をごまかそうと、まひるさんに話しかける。
「うぅん、メグと一緒に来たよー」
「あ、やっぱりそうなんだ。それで、熊谷さんはどこにいるのかな?」
「メグなら、あそこー」
まひるさんが、先程抜け出てきた女子グループを指差す。
その先にいる四人の内の一人。
腰まで届こうかという長い黒髪。白地の浴衣を纏った、比較的背の高い女性。
僕の位置からは後ろ姿しか見えないが、どうやらあれが熊谷さんのようだ。
お取込み中のようなので、待つことにする。
…………。
今、まひるさんと二人きりなんだよな。
沈黙していると、どうしても意識してしまう。
……変に意識しないためにも、いつもの調子で話しかけよう。
「そう言えば、この神社ってどんなご利益があるのかな?」
「えっと、妙見菩薩を祀ってるから、眼病平癒、長寿、開運、厄除け、諸願成就、天災除去などなど……ってかんじだよー」
「ふーん、結構いろいろあるんだね」
妙見菩薩のことは知らないけれど、諸願成就ということは何でも叶えてくれるということらしい。
「あ、メグ」
まひるさんの声に反応して横に目を向けると、熊谷さんが歩み寄ってくるところだった。
「まひる、小路くん、ごめんね、待たせちゃって」
「ううん、へーきだよー」
「大丈夫、そんなに待ってないし」
まひるさんの言葉に、僕も同調する。
「それじゃ、行きましょっか」
「れっつごー」
まひるさんの緩いかけ声で、僕たちは屋台が並んでいる、神社へと続く道を歩き始めた。
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