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27 勉強会①
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先日から僕の頭の中は、好きとか付き合うとか、告白とかそういうことばかりでいっぱいだ。
けれど、もうすぐ期末試験。
そして、今日はまひるさんたちとの勉強会。
春色の思考は一旦置いておいて、勉強に専念すべきだろう。
意識を切り替えながら、昼食をとり、鞄に荷物を詰め、家を出る――勉強会はまひるさんの家で開かれるのだ。
外に出ると、眩しい日差しが目に入った。
青い空に高々と昇る太陽。
梅雨に入り、ここ最近は太陽を拝めていなかった分だけ、より清々しい天気に思えた。
何か手土産でも持って行った方がいいかな?
自転車をこいでいる最中、そんなことに思い当たった。
甘い物とか買っていったら、喜んでくれるかな? まひるさんも、熊谷さんも甘い物好きだし。
うん。休憩時間に食べられそうなものを買っておこう。
洋菓子店へと寄り道し――。
ショーケースの前で数分迷ったのちに、イチゴのシャルロットを購入した。
そして、再びまひるさんの家に向かって自転車をこぎ始める。
♢
大空書店に到着し、店の裏へとまわる。
そこから階段を使って二階に上がった。
表札には大空と書かれている。
緊張しながらも、インターフォンへと手を伸ばし、ボタンを押した。
チャイムが鳴ってしばらくした後――扉が開いた。
「りょーすけ、いらっしゃい」
出迎えてくれたのはまひるさん。
少し丈の短めなスカートと涼し気な白のブラウスを着ている。
まひるさんの私服姿を見るのは、ショッピングモールで一緒にドーナッツを食べたとき以来だ。
そのときよりオシャレをしている気がして、少し鼓動が早くなる。
「どーぞ、あがってー」
そんな僕を招き入れるまひるさんの口調はいつも通りのんびりとしていた。
僕だけが意識していると思うと、気恥ずかしくなってきた――悟られぬよう、平然とした態度で振る舞うことにする。
「お邪魔します」
靴を脱いで、家の中へ。
まひるさんの後ろに続いて、廊下を進む。
そうして、奥の方にある部屋の一室に辿り着いた。
まひるさんがドアを開ける。
そこはよくある子ども部屋の一室。
学習机とベッドがそれぞれ部屋の角に設置され、適当な箇所に小さい本棚やぬいぐるみが置かれており、中央には正方形のテーブルが設けられていた。そのテーブルには問題集が広げられていて、そこに正座していた熊谷さんが顔をあげて僕の方を見ていた。
「いらっしゃい、小路くん」
「こんにちは、熊谷さん」
軽く挨拶を交わし終えると、そこ座って、とまひるさんに促された。
座ったところでまひるさんにケーキの箱を差し出した。
「これ、おやつにどうかなーって思って買ってきたんだ」
「おー。わざわざありがとー。休憩の時、食べよっかー」
むふーっとまひるさんの表情が緩む。
「りょーすけ、麦茶飲む?」
「うん」
「わかったー。ちょっと待ってて―」
まひるさんが席を立ち、部屋を出た。
熊谷さんは難しい顔をして、問題集を睨んでいる。
僕は女の子の部屋の匂いに緊張しつつ、鞄を開けて道具を取り出し、勉強を始めた。
少しして、まひるさんが戻ってきた。お盆にコップを乗せている。
「はい、どうぞ」
まひるさんが麦茶の入ったコップを僕の傍に置く。氷がカランと音を立てた。
「ありがと」
お礼を言って一口飲んだ。冷えていてさっぱりする。
それからまひるさんは熊谷さんの隣へと向かう。
「どう? できたー?」
まひるさんの問いかけに、熊谷さんは難しい顔のままで答える。
「うーん……。途中までは出来たんだけど……」
「そっか、どれどれ?」まひるさんが熊谷さんのノートを覗き込む。
「えっとね、これは、ここで求めた値を代入して……」
そのまま解説を始めるまひるさん。
普段は熊谷さんがまひるさんの面倒を見ているけれど、今日は逆。
なんか新鮮だなぁと思いながら、僕も勉強を進めていった。
けれど、もうすぐ期末試験。
そして、今日はまひるさんたちとの勉強会。
春色の思考は一旦置いておいて、勉強に専念すべきだろう。
意識を切り替えながら、昼食をとり、鞄に荷物を詰め、家を出る――勉強会はまひるさんの家で開かれるのだ。
外に出ると、眩しい日差しが目に入った。
青い空に高々と昇る太陽。
梅雨に入り、ここ最近は太陽を拝めていなかった分だけ、より清々しい天気に思えた。
何か手土産でも持って行った方がいいかな?
自転車をこいでいる最中、そんなことに思い当たった。
甘い物とか買っていったら、喜んでくれるかな? まひるさんも、熊谷さんも甘い物好きだし。
うん。休憩時間に食べられそうなものを買っておこう。
洋菓子店へと寄り道し――。
ショーケースの前で数分迷ったのちに、イチゴのシャルロットを購入した。
そして、再びまひるさんの家に向かって自転車をこぎ始める。
♢
大空書店に到着し、店の裏へとまわる。
そこから階段を使って二階に上がった。
表札には大空と書かれている。
緊張しながらも、インターフォンへと手を伸ばし、ボタンを押した。
チャイムが鳴ってしばらくした後――扉が開いた。
「りょーすけ、いらっしゃい」
出迎えてくれたのはまひるさん。
少し丈の短めなスカートと涼し気な白のブラウスを着ている。
まひるさんの私服姿を見るのは、ショッピングモールで一緒にドーナッツを食べたとき以来だ。
そのときよりオシャレをしている気がして、少し鼓動が早くなる。
「どーぞ、あがってー」
そんな僕を招き入れるまひるさんの口調はいつも通りのんびりとしていた。
僕だけが意識していると思うと、気恥ずかしくなってきた――悟られぬよう、平然とした態度で振る舞うことにする。
「お邪魔します」
靴を脱いで、家の中へ。
まひるさんの後ろに続いて、廊下を進む。
そうして、奥の方にある部屋の一室に辿り着いた。
まひるさんがドアを開ける。
そこはよくある子ども部屋の一室。
学習机とベッドがそれぞれ部屋の角に設置され、適当な箇所に小さい本棚やぬいぐるみが置かれており、中央には正方形のテーブルが設けられていた。そのテーブルには問題集が広げられていて、そこに正座していた熊谷さんが顔をあげて僕の方を見ていた。
「いらっしゃい、小路くん」
「こんにちは、熊谷さん」
軽く挨拶を交わし終えると、そこ座って、とまひるさんに促された。
座ったところでまひるさんにケーキの箱を差し出した。
「これ、おやつにどうかなーって思って買ってきたんだ」
「おー。わざわざありがとー。休憩の時、食べよっかー」
むふーっとまひるさんの表情が緩む。
「りょーすけ、麦茶飲む?」
「うん」
「わかったー。ちょっと待ってて―」
まひるさんが席を立ち、部屋を出た。
熊谷さんは難しい顔をして、問題集を睨んでいる。
僕は女の子の部屋の匂いに緊張しつつ、鞄を開けて道具を取り出し、勉強を始めた。
少しして、まひるさんが戻ってきた。お盆にコップを乗せている。
「はい、どうぞ」
まひるさんが麦茶の入ったコップを僕の傍に置く。氷がカランと音を立てた。
「ありがと」
お礼を言って一口飲んだ。冷えていてさっぱりする。
それからまひるさんは熊谷さんの隣へと向かう。
「どう? できたー?」
まひるさんの問いかけに、熊谷さんは難しい顔のままで答える。
「うーん……。途中までは出来たんだけど……」
「そっか、どれどれ?」まひるさんが熊谷さんのノートを覗き込む。
「えっとね、これは、ここで求めた値を代入して……」
そのまま解説を始めるまひるさん。
普段は熊谷さんがまひるさんの面倒を見ているけれど、今日は逆。
なんか新鮮だなぁと思いながら、僕も勉強を進めていった。
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