[完結]幼馴染みが失恋したところを狙い撃ちしようとするヒロインのラブコメ!

深山ナオ

文字の大きさ
12 / 39

12 小糸とエンカウント

しおりを挟む
 夜霧の家から離れた祐一が帰途を歩いていると、前方から運動着の女子小学生が走ってきた――近づいたら、小学生ではなく、小糸だとわかる。
 半袖ハーフパンツ。黒地に水色のラインやロゴが入った、上下お揃いのデザインだ。
 そこから伸びる手足はほとんど日焼けしていない。バスケは屋内だが、陸上は外。まだ五月とはいえ、日差しが強い日もある。しっかり日焼け止めを使っているのだろう。

「およ? 祐一くんじゃないですか」

 小糸が祐一に気付き、そのまま祐一に向かって走ってくる。短いボブカットの髪が、一歩踏み出すごとにふわりと揺れた。
 真正面で足を止めて、祐一を見上げるようにして口を開いた。 

「こんなとこで会うなんて、奇遇ですね」
「有明さん、ランニング中?」
「はい、今日は部活が休みでしたので」

 返事とともに人懐っこい笑みを浮かべる小糸。走っていた直後なので多少息が弾んでいるものの、涼しい表情だ。

「へえ、頑張ってるんだ。偉いね」
「いえいえ、日課ですので。今日の祐一くん、なんだか機嫌が良さそうかも?」
 小糸が小首を傾げる。
「なにか良いことありましたか?」
「ああ、あったかも」
「そうなんですか。あ、立ち話もなんですし、公園にでも寄っていきませんか?」
「そうするか。あ、何か飲み物飲むか? 奢るよ」
「いいんですか? ありがとうございますっ」

 自販機で、飲み物を買う。小糸は小さいサイズのスポーツドリンク、祐一は缶コーヒーを選んだ。
 そしてオレンジ色の空の下、公園のベンチに二人並んで座る。

 小糸がペットボトルの蓋を捻る。パリっと開封音が鳴った。祐一もコーヒーを開ける。

「それで、何があったんですか?」
「いや、さっき景村さんと会ったんだけどさ、俺の言葉にちゃんと返事してくれたり、話題振ってくれたり……少しは打ち解けてきたのかなって」
「へえ、あの夜霧ちゃんが……。それは確かにすごい進歩ですね」

 小糸がペットボトルに口をつけて喉を鳴らす。
 祐一もつられてコーヒーを口に含んだ。

「でも、夜霧ちゃんと仲良くなったーって喜んでたら、あやかぽん嫉妬しちゃうんじゃないですか?」
「いや、綾香に頼まれてるんだ。夜霧と仲良くしてって。男子が苦手なのを克服させたいらしい」

 祐一の言葉を受けて、小糸は小さな呟きを漏らした。
 
「まったく……あやかぽんのお人好し……。自分からライバル作ってどうするのさ……」
「ん? 何だ?」

 小糸の言葉を聞き取れなかった祐一が訊き返す。

「いえいえ、なんでもないです」

 小糸が誤魔化すように首を横に振った。

「夜霧ちゃん、人見知りなだけじゃなくて、男子苦手なんですね。私てっきり、祐一くんがなにかやらかして、それで祐一くんとは話しにくいのかと思ってました」
「なっ、心外な。何もしてねーよ」
「そうですか? でも、祐一くん、結構天然といいますか、思わせぶりなところありますから」
「は、天然?」
「こうやって女の子にジュース奢ってるところとか」

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、下から祐一を見上げる小糸。
 そんな小糸を祐一はジト目で見た。

「まあ、祐一くんの心の中はあやかぽんが占領してますからねー」
「な、そんなこと……」
「あ、やっぱりこういう発言には動揺するんですねっ」

 小糸がクスクスと可愛らしい笑い声をあげる。
 からかわれた祐一は顔が赤くなったのを誤魔化すように、手元の缶コーヒーに視線を落とした。
 そして、話題を無理矢理転換させた。

「そう言えば、有明さんってバスケ部と陸上部の掛け持ちだったよな? 大変だろ?」
「んー、大変かと訊かれれば、まあ大変ですけど。でも、どちらも好きなので、楽しんでますよっ」

 小糸は晴れやかな顔で空を見上げた。真っ赤な夕焼けが瞳を輝かせた。
 数秒そうした後、視線を祐一に戻す。 

「祐一くんは部活やらないんですか?」
「ああ。今はバイトしてるし」
「バイトですかー。どこでバイトですか?」
「CDショップ」
「へえ……私も、もし部活にはいってなかったら、ウエイトレスさんとかやってみたいですね」
「メイド喫茶か?」
「お帰りなさいませ、ご主人様……って、違いますよ、ファミレスとかです」
「どっちにしろ、きっと看板娘になるな」
「ここでも一番! 大繁盛間違いなしですねっ」

 軽口を叩いてひと笑いした後、小糸はペットボトルを勢いよく煽る。中身が空になった。
 
「でもまあ、高校生の内は部活三昧ですかねー」
「業界の損失だ」
「かもですね」

 笑って小糸が立ち上がった。
 数回、屈伸運動をした後。

「それじゃ、私、そろそろ行きますね」
「ああ。頑張れよ」
「はい! ジュース、ありがとうございましたー!」

 祐一に手を振って、小糸は再び走り始めた。頑張る後ろ姿は、それでもやっぱり小さかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...