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25 進むべき未来
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綾香と別れてから少し歩いたところで。
「どうしたんですか? 朝から元気ないですね! 愛しい幼馴染みと登校できなくて力が出ないんですか?」
そんなからかい文句に反応して、祐一が視線を向けると、そこには有明小糸がいた。いたずらっ子の笑みを浮かべた小さな顔で、身長差のある祐一のことを見上げている。
そんな小糸に、祐一はため息で返事をした。
「っていうか、なんであやかぽんと一緒じゃないんですか? 病気とかじゃないですよね?」
「ああ。綾香は先行った」
「では、夫婦喧嘩ですか?」
「いや……」
喧嘩……したのだろうか? 多分違う……違うけど……。祐一の眉間にしわが寄っているのを、小糸は見逃さなかった。
小糸は一瞬で表情を引き締めて、祐一に問いかける。
「もしかして、真面目に悩んでます?」
「どう、なんだろうな……」
祐一は浮かない顔のまま返事をした。
そんな祐一に、小糸は優しく微笑みかける。
「相談、乗りますよ?」
祐一にとって、小糸は女子の中では綾香の次に話しやすい相手だ。
けれど、祐一は言葉に詰まる。
女の子にこういうことを相談するのは……少し恥ずかしい――。
一瞬よぎった思考に、躊躇する祐一。
その様子を見て、小糸は人差し指をあごにあて、「んー」と数秒考え――
「わかりました! では、祐一くんの悩みを当ててみせましょう!」
「え?」
「だって、そうすれば、少しは話しやすくなるでしょ? 相手に悩みが筒抜けなんですから」
「まあ、そうかもな……」
「でしょでしょっ! じゃあ、そうしましょう!」
言って、小糸は再び考え込む。
数秒後、手のひらに拳をポン、と叩きつけ――
「『イメチェンでお下げ髪にした夜霧ちゃんがめっちゃかわいい! けど、俺には長年思い続けてる幼馴染みがっ! けど、どっちも可愛すぎて、一人に決めらんねー! いったいどうすりゃいいんだー!!!』みたいな感じでしょうか?」
「ちげーよ!」
「そういうのを優柔不断と言います」
「だからちげーって!!」
小糸の二段構えの発言に、祐一は声荒く否定する。それから一つ息を吸い込み呼吸を整え言葉を続けた。
「だいたい……綾香は、長年思い続けてる幼馴染みとか、愛しい幼馴染みとか、そんなんじゃねーし」
「祐一くん」
若干冷たい声色と共に、小糸は冷ややかな目で祐一を見る。
「な、なんだよ」
「そういう誤魔化し方は小学生までにしといたほうがいいですよ。それ、もし綾香ちゃんが聞いたらめちゃくちゃ傷ついちゃいますから。まさか、本当にそう思ってるわけじゃないでしょう?」
「そうだな……」
小糸の忠告を心に刻み、祐一は言葉を続ける。
「有明さんは薄々気付いてるだろうけど、俺、綾香のこと、その……好き、なのかもしれない」
「……かもしれない、ですか?」
「……」
ジトっと送られる小糸の視線から祐一はすっと目を逸らし、無言で頬をかく。
それを見て、今度は小糸がため息をつく。
「……まあ、いいです……。それで?」
「今朝、綾香の様子がおかしかったんだ……気のせいかもしれないんだけど、なんか、俺に照れてるようなかんじで……」
「うんうん……」
「その前に綾香と何か特別なことがあったわけじゃないからどうしてああなったかはわからないんだけど……綾香があんな反応するのって、綾香も俺のこと、そういう対象として少しは意識してくれてるのかなって……」
「ふむふむ……」
「まあ、それは勘違いかもしれないから置いとくとして、とにかく、これからの綾香との接し方を考えると……気が重い……綾香がいつもみたいにしてくれれば、元に戻れそうではあるけど……」
そこで祐一が言葉を止めると、小糸はうんうんと頷いた。
それから少し思考時間をとって、口を開いた。
「あやかぽんが祐一くんのことをどう思っているのかは知りませんが」
わざわざそう前置きをして。
「祐一くんは元に戻るだけでいいんですか?」
と、核心を突く問いを口にした。
その問いに、祐一は息を飲む。
――自分はこれからどうしたいのだろうか?
――綾香とどういう関係でいたいのだろうか?
黙り込む祐一に、小糸は人差し指を立て、言葉を紡ぐ。
「客観的に見てですね、祐一くんはあやかぽんにとって幼馴染みで、性格に問題は無く、容姿もまあまあ整ってる普通の男子高生なのです。ですから、恋愛対象として見てもらえる可能性は十二分にあります。あとは、あやかぽんの出方と――祐一くんの頑張り次第ですよっ」
「俺の頑張り次第……」
背中を押してくれる小糸の言葉に、祐一の心に勇気が湧いてくる。不安はいつの間にか消えていた。
「そうだな、うん。俺、頑張ってみるよ。元に戻るだけじゃなくて、もう一歩踏み出せるように」
「ファイトです! 祐一くん」
小糸のエールに、祐一も強く頷き返した。
「どうしたんですか? 朝から元気ないですね! 愛しい幼馴染みと登校できなくて力が出ないんですか?」
そんなからかい文句に反応して、祐一が視線を向けると、そこには有明小糸がいた。いたずらっ子の笑みを浮かべた小さな顔で、身長差のある祐一のことを見上げている。
そんな小糸に、祐一はため息で返事をした。
「っていうか、なんであやかぽんと一緒じゃないんですか? 病気とかじゃないですよね?」
「ああ。綾香は先行った」
「では、夫婦喧嘩ですか?」
「いや……」
喧嘩……したのだろうか? 多分違う……違うけど……。祐一の眉間にしわが寄っているのを、小糸は見逃さなかった。
小糸は一瞬で表情を引き締めて、祐一に問いかける。
「もしかして、真面目に悩んでます?」
「どう、なんだろうな……」
祐一は浮かない顔のまま返事をした。
そんな祐一に、小糸は優しく微笑みかける。
「相談、乗りますよ?」
祐一にとって、小糸は女子の中では綾香の次に話しやすい相手だ。
けれど、祐一は言葉に詰まる。
女の子にこういうことを相談するのは……少し恥ずかしい――。
一瞬よぎった思考に、躊躇する祐一。
その様子を見て、小糸は人差し指をあごにあて、「んー」と数秒考え――
「わかりました! では、祐一くんの悩みを当ててみせましょう!」
「え?」
「だって、そうすれば、少しは話しやすくなるでしょ? 相手に悩みが筒抜けなんですから」
「まあ、そうかもな……」
「でしょでしょっ! じゃあ、そうしましょう!」
言って、小糸は再び考え込む。
数秒後、手のひらに拳をポン、と叩きつけ――
「『イメチェンでお下げ髪にした夜霧ちゃんがめっちゃかわいい! けど、俺には長年思い続けてる幼馴染みがっ! けど、どっちも可愛すぎて、一人に決めらんねー! いったいどうすりゃいいんだー!!!』みたいな感じでしょうか?」
「ちげーよ!」
「そういうのを優柔不断と言います」
「だからちげーって!!」
小糸の二段構えの発言に、祐一は声荒く否定する。それから一つ息を吸い込み呼吸を整え言葉を続けた。
「だいたい……綾香は、長年思い続けてる幼馴染みとか、愛しい幼馴染みとか、そんなんじゃねーし」
「祐一くん」
若干冷たい声色と共に、小糸は冷ややかな目で祐一を見る。
「な、なんだよ」
「そういう誤魔化し方は小学生までにしといたほうがいいですよ。それ、もし綾香ちゃんが聞いたらめちゃくちゃ傷ついちゃいますから。まさか、本当にそう思ってるわけじゃないでしょう?」
「そうだな……」
小糸の忠告を心に刻み、祐一は言葉を続ける。
「有明さんは薄々気付いてるだろうけど、俺、綾香のこと、その……好き、なのかもしれない」
「……かもしれない、ですか?」
「……」
ジトっと送られる小糸の視線から祐一はすっと目を逸らし、無言で頬をかく。
それを見て、今度は小糸がため息をつく。
「……まあ、いいです……。それで?」
「今朝、綾香の様子がおかしかったんだ……気のせいかもしれないんだけど、なんか、俺に照れてるようなかんじで……」
「うんうん……」
「その前に綾香と何か特別なことがあったわけじゃないからどうしてああなったかはわからないんだけど……綾香があんな反応するのって、綾香も俺のこと、そういう対象として少しは意識してくれてるのかなって……」
「ふむふむ……」
「まあ、それは勘違いかもしれないから置いとくとして、とにかく、これからの綾香との接し方を考えると……気が重い……綾香がいつもみたいにしてくれれば、元に戻れそうではあるけど……」
そこで祐一が言葉を止めると、小糸はうんうんと頷いた。
それから少し思考時間をとって、口を開いた。
「あやかぽんが祐一くんのことをどう思っているのかは知りませんが」
わざわざそう前置きをして。
「祐一くんは元に戻るだけでいいんですか?」
と、核心を突く問いを口にした。
その問いに、祐一は息を飲む。
――自分はこれからどうしたいのだろうか?
――綾香とどういう関係でいたいのだろうか?
黙り込む祐一に、小糸は人差し指を立て、言葉を紡ぐ。
「客観的に見てですね、祐一くんはあやかぽんにとって幼馴染みで、性格に問題は無く、容姿もまあまあ整ってる普通の男子高生なのです。ですから、恋愛対象として見てもらえる可能性は十二分にあります。あとは、あやかぽんの出方と――祐一くんの頑張り次第ですよっ」
「俺の頑張り次第……」
背中を押してくれる小糸の言葉に、祐一の心に勇気が湧いてくる。不安はいつの間にか消えていた。
「そうだな、うん。俺、頑張ってみるよ。元に戻るだけじゃなくて、もう一歩踏み出せるように」
「ファイトです! 祐一くん」
小糸のエールに、祐一も強く頷き返した。
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