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田中さん視点

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田中さん視点のプロローグ的なものです。


 ***


 心無い言葉をたくさん浴びせられているのに、笑顔で人前に立つこの子を守りたかった。
 


 律に枕営業の話をする一ヶ月前。
 唯一あるレギュラー番組の収録中。

「え、番組が終わる?」

 スタジオの隅で収録を見ていた俺は、プロデューサーに話があると言われ、一緒に廊下に出ていた。

「はい。まあ、わりと続いたほうですよ。残りの収録もよろしくお願いします。と、律くんにも伝えてください。じゃ、先に戻りますんで」

 バタンッ。
 言うだけ言って、さっさとプロデューサーはスタジオに帰って行った。

 続いたって半年じゃねえか。
 まあ、彼もプロデューサーになって初めての番組だったし。続いたほうに入るか。
 それより、久々のレギュラーだったのに……はあ。
 次の仕事を見つけないと。知り合いのプロデューサーに売り込みでもするか。

 あれこれ考えていてすぐにスタジオに戻らなかったのがいけなかった。
 すぐにスタジオに戻っていれば嫌な奴に会わずに済んだのに。


「あれ? 田中くん? 久しぶりだね」
「……鈴木さん。お久しぶりです」

 

「律くん、最近どう?順調?」
「あー、ぼちぼち、ですかね」
「ふうん」
「なんですか?」
「実は来期から深夜帯で番組が始まるんだけど。律くんをアシスタントMCに推薦しようかと考えているんだ」
「えっ、……ありがとうございます」
「その代わり今度、律くんを接待に寄越してよ」
「……枕ってことですか」
「どうするかはそっちで決めて。まあ、嫌ならアシスタントMCの話は無しだけど。それじゃ、また」

 あのジジイ……。
 まだ律のこと狙ってたのか。

 律が十八歳のときに社長が逮捕されて、事務所が倒産したあの事件。律は気付いてなかったみたいだが、あれは社長が俺に黙って律にあのプロデューサーや他の偉い奴らに性接待をさせるために連れて行ったものだ。
 当時もプロデューサーから枕を持ちかけられていたが、律は売れっ子だったから断っていた。
 それに業を煮やしたプロデューサーが社長に金を積み店に連れて行った。
 もともとその場所は芸能人御用達のそういう為の店だったが、未成年のアイドルが何も知らずに性接待をさせられ、被害届を出したのをきっかけに警察が嗅ぎ回っていた。
 律が社長に連れられて行った日が、たまたま警察の突入と重なったわけだ。あのプロデューサーは来るのが遅れて逮捕されずに済んだが。

 それから数年。
 たまたまプロデューサーに会わずに済んでいたが、まさかこんな所で会うとは。

 律は知らないみたいだけど、あのときどこかの週刊誌が、律が未成年アイドルを斡旋していたとか根も葉もないこと書いたせいで、今もたまに律のことを犯罪者だと思っている輩が現れるんだよなあ。
 抗議して訂正記事書かせたけど、そういった連中はそこまで見ないからな。



 一応、言ってみるか。
 律が枕を嫌がったら、無しにしてもらおう。
最悪、俺が行けばいい。
 そう思っていたのに――。

『オレ、枕やる』

 はあ!?

 
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