ある日、彼女が知らない男と一緒に死んでいた

はし

文字の大きさ
2 / 10

2

しおりを挟む
 思い出す。五年前のあの日。
 太陽がジリジリと肌を焼く、夏の日だった。

 提出しなければいけない課題を何とか終わらせた僕は、三日ぶりに彼女の住むアパートを訪れていた。

 合鍵を使って入った彼女の部屋は、妙にひんやりとしていたのを覚えている。

 玄関には彼女の靴と、初めて見る男物の靴が置いてあった。
 何だか嫌な予感がする。

 ゆっくりと靴を脱いで部屋に上がると、キッチンとバスルームを素通りし、居住スペースのドアを開けようとした。

 ガンッ!

 何か重いものに当たって、扉は全部は開かなかった。
 仕方なく、僕は開いた隙間から中を覗く。
 この時、僕は気付くべきだったんだ。靴がある筈なのに、家の中から音が全くしなかったことに。

 中を覗くと、目の前に足があった。

 白いスカートから伸びる足が宙に浮いた状態で、ぶらんぶらんと揺れている。

 (なんで足が浮いているんだ……?)

 心臓がうるさいくらいに鳴って、息がしづらくなってきた。
 僕はゆっくりと目線を、足から上に上げていく。

「えっ」

 彼女だ。
 白いノースリーブワンピースを着た僕の彼女が、ロフトの柵に結ばれたロープで首を吊っていた。

「な、なんで…………あれ?」
 (彼女が目の前に居るなら、この扉に当たる重みはなんだ?)

 不思議と、どこか冷静な頭の中で疑問が湧く。
 僕は開いた隙間に体を捩じ込ませ、重みの正体を見た。

 ドサッ
 バタン

 僕が尻もちを着いたのと扉が閉まったのは、ほぼ同時だったと思う。

「えっ? えっ? えっ? …………誰?」

 重みの正体は、健康そうなコムギ色の肌をした上半身裸の知らない男だった。
 彼女と同じように、ロフトの柵に結ばれたロープで首を吊っていた。

 どれくらいそうしていただろうか。
 首を吊っている彼女と知らない男にパニックになっていた僕は、救急車や警察を呼ぶこともせず、ただ座り込んでいた。

「ハァ……ハァ……ハァ……(ああ、なんだか息が上手く出来ない。頭もぼうっとしてきた)」

 座り込んでいた体勢から力が抜けていき、ゆっくりと後ろに倒れた。
 なんだか意識も朦朧とする。

 (もう……眠りたい…………)

 ガチャ。

 薄れ行く意識の中で、耳だけが扉の開く音を聞いた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...