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第153話 王都に到着して
夕暮れの時間ギリギリに馬車を連ねた聡史たちが王都の門に到着すると、事前に連絡が入っていたのか門を守る兵たちは篝火を焚いて待っている。その中でも一際立派な鎧を付けた人物が馬車に歩み寄ってくる。
「ディーナ殿下、勇者殿、よくぞ無事にお戻りになられました。私が先導いたしますので、このまま王城へお向かいください」
「デルローネ親衛騎士団長、わざわざ出迎えありがとうございます」
どうやらディーナ王女とは既知の間柄のようで、かなり親しげに話しをしている。国王直属の騎士団長であったら、もしかしたら過去に警護を受けていたのかもしれない。
魔族との戦いによって、この王都を守る騎士団はすでにこの国王直属の親衛騎士団2千人しか残っていない。かつては5つの中央騎士団と貴族が所領に擁する地方騎士団総勢3万人以上を誇っていた栄光は、今やその面影すら残っていない。
現在はこの親衛騎士団こそが王都を守る最後の要としてこの街の治安維持にあたっている。もちろん騎士団だけでは手が足りないので、数多くの冒険者が街中の警備に駆り出されている。
そしてこの度魔族を倒す手掛かりを求めてダンジョンに入ったディーナ王女たちが戻ってきたという一報を受けて、急遽親衛騎士団長自らが王都の門まで迎えに出てきたのであった。
騎乗する騎士団に先導されて5台の馬車は王宮に入る城門を潜って、門から宮殿に繋がる長い道の途中で一旦停止する。
「殿下と勇者殿はこのまま宮殿にお向かいください。他の方々は、我々に付いてきていただきたい」
「デルローネ団長、日本の方々は魔族との戦いを支援しようとはるばるお越しになっています。一刻も早く父上にお目通りして、両国の友好の絆を深める必要があります」
「殿下、お気持ちはわかりますが、身元の不確かな人間を宮中に招き入れるわけにはまいりません。念のため客人方には騎士の宿舎で一夜を明かしていただきます」
馬車の窓から顔を出してなおも騎士団長に食い下がろうとするディーナ王女、その様子に気が付いた聡史は馬車から降りて二人の間に割って入る。
「ディーナ殿下、俺たちはどこに泊まろうが構わない。それに今日はもう遅い時間だから、明日にでも改めて国王陛下と謁見できるように取り計らってもらいたい」
「聡史さん、でも…」
「いいんだ。今日のところは王都まで来ただけでも十分だ。明日呼び出しがあるのを待っている」
「融通が利かない宮廷で申し訳ありません」
頭を下げるディーナ王女に手を振って、聡史は自分たちの馬車へと戻っていく。馬車に乗り込んできた聡史に対しすかさず桜が…
「お兄様、夕ご飯はまだでしょうか?」
「そうですよ、お兄さん。早くご飯とデザートを食べて落ち着きましょうよ~」
「明日香ちゃんは今日一日何もしないで、ずっと落ち付きっ放しだったじゃないですか」
「そんなことないですよ~。皆さんがダンジョンで戦っている時に、ちゃんと心の中で応援していました」
「明日香ちゃん、それを世間一般では何もしていないと言うんですわ」
「桜ちゃんは、私の真心を認めてくれないんですね」
「明日香ちゃんのどこに真心なんかあるんですか? デザートに対する欲求の塊でしょうがぁぁ!」
桜に乗っかってきた明日香ちゃん、相変わらず二人の間で茶番が繰り広げられている。中々入り込む余地が見つからなかった聡史だが、ようやく話の切れ目に割り込んでいく。
「俺たちはディーナ王女やマリウスたちとは別行動で、今夜は騎士団の宿舎に泊まることになった」
「いまいちな歓迎ぶりですわね」
桜が不平を漏らすのはもっともであろう。せっかく魔族と戦う同盟を結ぼうと日本からやってきたにも拘らず、騎士の宿舎に留め置かれるこの処遇はどう考えても他国の使者に対して格段に低い扱いに映る。
よほど警戒されているのか、それとも招かざる客と見做されるのかは今のところ不明としておく。
こうして聡史たちは、そのまま大人しく宛がわれた宿舎へと向かう。
長引く戦争で食糧事情が悪化しているマハティール王国では、国王の直属騎士団といえども想像よりも質素な食事しか提供されない。当然ながら桜からは猛烈なクレームの嵐が湧き起こるが、夕食に関しては何とか手持ちの食事を口にして桜は納得する。
だがさらに心許ないのは、デザートがあと2日分しか残っていないという緊急事態。下手をすると地獄の明日香ちゃん再来のカウントダウンを予感させる不安な一夜を聡史たちは過ごすのであった。
◇◇◇◇◇
一夜明けて騎士たちが朝食をとる食堂の片隅で、聡史たちはまとまって食事をしている。
「それにしても粗末なメニューですわねぇ~。これでは戦う人間は思い通りに力を発揮できませんわ」
目の前には固焼きの黒パン、具がほとんど入っていない野菜スープ、ピクルスとよく似た酢漬けの野菜が並んでいる。これが一人前の朝食の全てであって、テーブルを見つめる桜の目がとっても悲しげ。
昨夜はこれに小さな肉切れが一つ加えられていただけなので、どうやらこの騎士団はほぼ毎食同じような献立を文句も言わずに口にしているのであろう。
もちろんこんな食事で桜が納得するはずもなく、アイテムボックスから取り出した食事をきっちり3人前食べるのだが、その在庫もそろそろ怪しくなってきている。
「聡史君、ディーナ王女やマリウスからこの国の置かれた状況は聞いていたけど、実際にこうして来てみると想像以上に厳しいようね」
「そうだな、国家としてこの先もやっていけるかどうかの岐路に立っているようだ」
ディーナ王女の話によると、魔族との戦いは彼此五百年間継続しているという。
もちろんその間には何度も戦いの合間はあっただろうが、これほど長期間戦争を継続していれば王朝が5回や6回は倒れてもおかしくない。この間マハティール王国がずっと存続していることが、ある意味奇跡ともいえる。
「食料ですら満足に供給できないんですから、他の物資も相当に不足しているのではないでしょうか?」
カレンもこの国の窮状に目を伏せがちにしている。戦争によって領土を失っているだけではなくて兵士が次々と徴兵されていく分、社会の中での働き手が失われているので、カレンの指摘通り慢性的な人手不足によって食料や他の物資が満足に供給できない苦況が続いている。
「軍事支援だけではなくて経済支援の必要性も考慮するべきだろうな。同盟を結ぶにあたって、有力な交渉材料にはなるだろう」
聡史が指摘した通り、軍事と経済を一体化した支援というのは当然地球でも過去に実施されている。第2次大戦後の日本では例がないが「小麦を50万トン援助するから、その見返りに軍隊を駐屯させろ」という相手の弱みに付け込む外交が大国の思惑に従ってまかり通っていたのは確たる事実。
こんな雰囲気で朝食を終えると、桜が口を開く。
「どうせやることもありませんから、練兵場を借りて訓練をしますよ」
「ええぇぇぇ! 桜ちゃん、異世界に来て間もないんですから、交渉がまとまるまでのんびりしましょうよ~」
「明日香ちゃん、何を朝から寝言を言っているんですか。これは一種のデモンストレーションですわ。私たちの力をある程度見せつけてやるんですよ。交渉事などというものは、最終的には力尽くでまとめるのが最も手っ取り早いんです」
いつものように桜は強引に相手を納得させようと企んでいる。軍事演習によって他国に力を見せるのは、ある意味外交の常套手段でもある。違う見方をすれば、このような行動を挑発行為と呼ぶ場合もある。
桜としては、片方の手で援助をちらつかせて、もう一方の手はゲンコツを握り締めて相手を追い込んでいこうというのか?
こうして王宮の練兵場には、男子生徒八人とブルーホライズン、おまけで茂樹と明日香ちゃんとカレンまで集められる。
現段階で頼朝たちEクラス男子はレベル50オーバー、ブルーホライズンは65前後、茂樹は50手前といったなかで、明日香ちゃんに至ってはすでに80を超えている。おまけに体力2倍の腕輪とトライデントのパワーアシストによって攻撃力が数倍に増幅されているので、このメンバーにあっては頭一つも二つも抜けた存在となっている。
性格的にもどこか抜けているのは周知の事実だが、本人の名誉のためにこの場では内緒にしておこう。
これだけ高レベルの人間が訓練を行うと、当然ながら人目を惹くのは言うまでもない。体を解すために異常なペースで場内をランニングする集団を見て、何事が起きたのかと集まってきた騎士たちがその様子を観察している。
「衝撃波を放ちますから、しっかりと避けるんですよ~」
ウオーミングアップを終えると、桜の掛け声と共に高音を轟かせる衝撃波が次々にその拳から繰り出される。見えない衝撃波の気配を捉えて必死で左右に避難するEクラスの生徒たち。
だが茂樹は回避が一歩遅れてしまい、その威力によって体が天高く舞い上がって頭から地面に落ちている。
「ひとり行動不能で~す。カレンさん、お願いしま~す」
「はい、お任せください。それでは回復」
この様子を目の当たりにした騎士たちからは、この危険な訓練に対する懸念の声が上がる。
「おい、物凄い魔法で撥ね飛ばされたみたいだぞ」
「あの勢いでは死んだんじゃないのか?」
どうやら騎士たちは桜の衝撃波の原理を理解せずに、魔法の一種だと思い込んでいるよう。その彼らが見ている前でカレンが駆けつけて右手を翳すと、茂樹は何事もなかったかのように立ち上がって再び訓練に戻る。
「どうやら回復魔法を受けたようだな。普通ならばあのケガの具合だったらベッドに直行だろうが…」
「ところがどっこい、何事もなかったかのように立ち上がっているぞ」
「一体どうなっているんだ?」
騎士たちの頭では理解不能な現象ばかりが繰り広げられて、彼らは絶賛混乱中。そもそも目に見えない衝撃波の正体すら理解できないし、ましてや音速で飛んでくる波動をヒョイヒョイ回避するなど以っての外だろう。
その横では、明日香ちゃんと絵美がトライデントとロンギヌスで打ち合いを行っている。
神槍同士がぶつかる度に雷鳴が轟き炎が渦巻く世紀末のようなド派手な立ち合いが展開されているが、二人はまったく涼しい顔で槍を交えている。
この光景も桜の衝撃波と並んで騎士たちの度肝を抜いているのは言うまでもない。
「勇者殿が『異世界最強の戦士』と言っていたのは、どうやら本当のようだ」
「あれほどならば、まさしく魔族を打ち取れるやもしれぬぞ」
これだけの猛訓練を平然とやってのける以上、誰の目にも疑いの余地などない。
当然ながら訓練の様子は、目撃した騎士からデルローネ団長へと伝わる。慌てた様子でデルローネ団長が練兵場に駆け付けると、さらに訓練はヒートアップしている。
「ほらほら、もっと真剣に避けないと死にますよ~」
「サー、イエッサー!」
頼朝たちが決死の様子で桜が連続で放つ衝撃波を回避する。
そんな中で団長を驚かせたのは美晴。なんと自分に向かって飛んでくる衝撃波を、手にする盾で真正面から受け止めている。
訓練だから多少の手加減を加えているとはいえ、桜の衝撃波をまともに受け止めたのは魔法学院生の中では美晴が初めて。
「美晴ちゃん、どうすればあんな威力の衝撃波を止められるの?」
「真美さん、気合があれば不可能はないんだよ」
どうやらここにもひとり、全てを気合で乗り越えようとする新たな化け物候補が孵化しようとしている。ブルーホライズンの中では桜から直接訓練を受けた時間が長い分だけ、美晴の防御力は群を抜いて高くなっているよう。
「お前たちは引き続き様子の観察を続けろ。俺は陛下に報告してくる」
騎士団長は足早にこの場を去って、大急ぎで宮殿へ向かう。どうやら桜の策にまんまと嵌ったよう。
ある程度力を見せつけておいて「同盟を結ばないと損をする」もしくは「いうことを聞かないと大変な目に遭いそうだ」と相手に思わせればシメたものだろう。
午前中いっぱい桜の容赦ない訓練が続いて、頼朝たちはヘロヘロになりながらも何とか食堂に戻ってくる。元気にしているのはブルーホライズンのメンバーと明日香ちゃんくらい。やはりレベル差というのはこういう場面で物を言う。
「相変わらずガッカリ度合いが半端ないお昼ご飯ですねぇ~」
「桜ちゃん、私はご飯はどうでもいいですから、食後のデザートをお願いしますよ~」
訓練で相当体を動かしたと自負する明日香ちゃんは、桜に大きな期待を寄せている。正確には桜のアイテムボックスの中身に期待しているだけ。
こんな感じでなんだかんだ桜が文句を言いながら食事を終える頃、食堂にはディーナ王女とマリウスが入ってくる。
「聡史さん、他の皆さん、色々とお待たせして申し訳ありませんでした。午後に父上との謁見が可能となりましたので、食事が終わったらご案内いたします」
「ディーナ王女が直々に来なくても、誰か使いの人間を寄越してくれれば問題ないぞ」
「そういうわけにはまいりません。昨夜はこちらの宿舎に泊まっていただいただけでも申し訳ない気持ちなのです。せめてご案内くらいはさせてもらわないと私の気持ちが収まりません」
ディーナは聡史たちを昨夜騎士の宿舎に泊めた件を相当気に病んでいるよう。
魔族との戦いの趨勢を決定するのはマハティール王国と日本との同盟の成否如何に懸かっていると、最もよく理解しているのは王女自身に他ならない。
昨夜から今日の午前中にかけて懸命に父親を説得して何とか午後の謁見に漕ぎ着けただけに、居ても立ってもいられずにここまで足を運んでいる。
ディーナ王女とマリウスに案内されて宮殿に向かう。これから国王に謁見するのはデビル&エンジェルのメンバーだけとなっている。他の人間は桜のシゴキで相当にヘバっているので、午後は宿舎で休養の指示が聡史から出ている。
「桜ちゃん、なんで私まで一緒なんですか? せっかくだから食後に気持ちよく昼寝でもしようと思っていたのに」
「私だって留守番がよかったですよ。明日香ちゃんも同じパーティーのメンバーなんですから、決まった以上は文句を言わずに諦めてください」
実際には明日香ちゃんひとりくらいは居ても居なくてもどうでもいいのだが、桜の退屈シノギに連れてこられたという側面が強い。堅苦しいフォーマルな場面で息が詰まりそうになる桜の精神安定役として、このようなケースでは明日香ちゃんの存在意義がある。
一旦控室に落ち着いてお茶を飲んでいると、係の役人が時間を告げにやってくる。ディーナ王女を先頭にして謁見の間に向かうデビル&エンジェル。聡史と美鈴が入念に言い聞かせておいたので、桜と明日香ちゃんは大人しく付いてくる。
歴史だけはありそうな重たい扉が開くと、一段高い玉座には立派な衣装にマントを羽織ったディーナの父親である国王が腰掛けている。その右側の席には主要な貴族が居並び、左側は政府の高位の官僚が占めている。
傾いた王国とはいえ、この謁見の間はさすがとも言うべき歴史的な風格を保っているように映る。
国王を正面にして一列に並んだディーナ王女とデビル&エンジェル。
王女は聡史たちが見慣れた学院の制服姿ではなくて、この国風の優雅なドレス姿で佇んでいる。同様に隣のマリウスは騎士の礼服に身を包む。
畏まった装いの二人に対して、デビル&エンジェルの五人は全員が自衛隊の戦闘服姿。儀礼的に相応しくないのは重々承知だが、着替える時間がなかったので仕方がない。
「マハティール王国国王陛下に敬礼」
聡史の号令に従って、五人全員がビシッと敬礼をする。この見慣れぬ敬意の表明に対して、国王の右側に居並ぶ貴族の間からは「無礼な態度だ」とヒソヒソ囁き合う声が広がるが、聡史たちはそのような些細なことには一向に構う様子はない。
「異国からの訪問を心から歓迎する」
謁見の間に国王の声が響く。ディーナから事前に聞いた話では年齢は50代後半であったが、ここしばらく心労が重なったせいか実際の年齢よりもはるかに年老いているように見受けられる。
「父上、こちらにお並びの方々が、異なる世界からいらした戦士です。国家を代表して我が国に手を差し伸べる用意があると、交渉を希望してしております」
「ただいまディーナ殿下からご紹介いただいた日本国からの使者、楢崎聡史です。他の四人を簡単に紹介したします」
聡史によって順番にメンバーが紹介されると、国王は意外そうな表情で彼らを見つめる。
「見たところずいぶん若そうであるが、真に一国の代表を務めておるのだろうか?」
「はい、日本政府から全権を委任されております」
聡史のキッパリとした態度に、国王は一応納得した表情で頷く。だが、ここぞとばかりに横合いから貴族のひとりがさっそく噛み付いてくる。
「陛下、恐れながらこのような若造を一国の使いとして送り込んでくるのは、どうにも納得がいきませぬ。果たしてその日本国というのは真剣に我が国と関係を築こうとしているのか、疑問の余地が多々ありますぞ」
立ち上がって聡史たちに向かって指を突き付けているのは、おそらくは王国内でかなりの権勢を誇る貴族なのであろう。
だがその体から発する雰囲気には、言葉では言い表せない何とも嫌な空気が混ざっている。その様子に何か気が付いたのか、美鈴が聡史に耳打ちしてくる。
「聡史君、あの貴族は何か後ろ暗いものを抱えているわ。まだその正体はわからないけど注意して」
「わかった」
聡史は短い返事をすると、その貴族の一挙手一投足を見逃さないように目を凝らす。聡史と美鈴がこのような遣り取りをしている間に、先に反論を開始したのはディーナ王女。
「アズール公爵、こちらの方々に対する無礼は許しません。日本は我が国が逆立ちしても敵わない大国です。そのような国家が魔族という共通の敵に対して我が国と共闘を申し出てくれているのです。この場でハッキリと申し上げます。日本と同盟を結ばなければ、我が国は近い将来間違いなく滅びに瀕します」
「これは異なことを王女殿下は申すものだ。無礼を働いているのはそちらの使者のほうではないのか? 私はその点を指摘しているだけだ」
不敵な表情でディーナ王女に意地悪く反論する貴族は、反国王派の筆頭であるアズール公爵というらしい。
どうやら、隙あらば現国王にとって代わって自らが王を名乗ろうと虎視眈々と狙っている節が窺える。
「年若かろうが、こちらの方々は日本国の使者に間違いありません。私は2か月以上かの国に滞在しましたが、日本は常に誠実に私たちに接してくれました。誰が何と言おうと、私は日本を信頼します」
「いくら殿下が信じていようとも、この場で他にその国を見た者はおらぬ。果たして信用に値するかどうか怪しいものだな。逆に我が国を都合よく利用する考えとも受けとれる」
ディーナは最初から一歩も引かないと決心している。対するアズール公爵だが、その抵抗は予想以上に強硬。両者の意見が対立したままで、この場に居合わせる貴族や高官たちの意見もどうやら真っ二つに分かれている。
この緊迫した空気を察した聡史が声を上げる。
「発言の機会をお許し願いたい」
「うむ、よいであろう」
どうやら国王は日本からの使者の意見を聞きたかったようで、あっさりと聡史の申し出を認めている。
「まずはマハティール王国と国王陛下に対して、この度の急な訪問と謁見をご許可いただいた件を深く感謝いたします。ダンジョンの最下層に至り強大な魔物を倒さねば世界を渡れぬ都合上、私どものような若輩者が使者として一国の宮廷に参内した無礼をお許しください」
「なるほど、そのような事情があるのならば、使者殿は勇者マリウスや王女同様に選ばれた存在というわけであるな」
「陛下にそのようにお受け止めいただけて光栄です」
貴族たちの間に「ほう」という感心した声が漏れる。一国を代表するにはあまりに若く、かつその実用一辺倒の戦闘服という外見に惑わされがちではあったが、聡史のこのひと言は単なる若造という貴族たちの思い込みを払拭するには十分な効果があったよう。
ましてや教会に下された神託に基づいてダンジョンに挑んだ勇者や王女たちと同様に力のある者にしか異なる世界を渡れないという説明に多くの貴族たちが納得している。
さらに聡史は続ける。
「最初に我々がこれまでに実際にマハティール王国に対して秘かに貢献してきました実例を報告いたします。我が国に存在いたします6か所のダンジョンは、この国と魔族の国のそれぞれ別の場所へ繋がっております。我々はダンジョンを通じてこれまで何度かこの世界にやってきておりました。その際に、魔族が占領していたアライン砦を解放いたしました」
「ちょっと待つのだ。今そなたは何と申した?」
「魔族が占拠していたアライン砦に攻め掛かって、駐屯していた約千人の魔族を全滅させました」
「ま、まさか… 現実にそのようなことがあり得るのか?」
改めて聡史に事の成り行きを尋ねた国王が、呆けた表情で絶句している。国王だけではなくて、貴族や高官たちも同様の表情。
唯一アズール公爵だけが、苦虫を噛み潰した表情を浮かべている。
「よって現在アライン砦は、二月前と同様であれば無人となっているはずです。仮に魔族が再進駐していたら、我々が再び全滅してご覧にいれましょう」
「だ、誰か! すぐさまアラインに人を遣わすのだ」
国王の命を受けた高官が慌ただしい様子で謁見の間を出ていく。偵察隊の手配などを速やかに進めるのであろう。それほどマハティール王国にとってアライン砦は、王都防衛に直結する重大拠点であるよう。
広間の様子が落ち着くのを確認した聡史は、さらに話を重ねていく。
「それからひと月前には魔族の街エクバダナを急襲いたしまして、そこで奴隷として神殿建設を強いられておりましたこの国の民二千人を保護しております。全員健康状態もすっかり回復して、故郷に戻る日を心待ちにしております」
「我が国の民を2千人も救い出したと申すのか?」
「その通りです」
国王陛下、絶句アゲイン。これだけでも聡史は陛下の心をガッチリ鷲掴みしたと確信している。
だが念には念を入れて、さらにダメ押しをブッコンでいく。
「それからこれは自分の個人的な申し出ですが、どうやらこの王都をはじめとして他の街も食糧事情が厳しいように感じます。もしよろしければ、小麦粉を少々提供いたしましょうか?」
「小麦粉とな… して、いかほどになるのだ?」
「現在の手持ちだけですので、およそ2万袋程度かと」
「に、2万袋だと…」
国王陛下から本日3回目の絶句をいただきました。一袋約50キロ相当なので、聡史が提供を申し出た量は1千トンに及ぶ。
これは先日エクバダナ臨時駐屯地に運んだ食料の余った分を聡史と桜が引き続きアイテムボックスに収納していたのに加えて、日本で新たに補充した量も含まれている。もちろんこれらの食糧は、ある意味日本政府から手土産代わりに持たされたともいえる。
日本の国力からすれば、この程度の小麦を援助するなど子供の小遣い銭程度の規模。この際気前よく前払いして国王陛下の心証を良くしておけば、後々十分なリターンが期待できる。
「もちろんこれは当座の窮状を改善する第一段です。本格的な同盟を締結したのちには莫大な援助を約束いたします。この国の全住民が丸々1年間食べていける量くらいでしたら、我が国からすれば造作もない仕事ですから」
聡史はディーナ王女から事前に、マハティール王国の人口は百万人程度であると聞いている。財政赤字が叫ばれている昨今ではあるが、この程度の政府援助であったらオーケーとダンジョン管理室から事前に許可を得ている。
唖然とした表情で聡史の話を聞いていた国王陛下であるが、ようやく再起動して姿勢を正す。
「我が国にとって大変魅力的な提案の数々、王国を代表して感謝いたす。ひとつ聞いてよろしいか?」
「何なりとどうぞ」
「日本という国は、民がいかほどおるのであろうか?」
「一億二千万少々です」
「一億だとぉぉぉ!」
今度は陛下の口から威厳もへったくれもない大声が飛び出す。
どうやら日本がここまでの大国だとは考えていなかった模様。まさかという表情で、国王陛下だけではなくてこの場に居並ぶ全員が息を吞んでいる。人口だけでも自国の百倍に相当する超大国の使者とは…
最初のうち馬鹿にする表情を聡史たちに向けていた貴族や高官たちが下を向いている。
「父上に申し上げます。ただいま聡史殿が申された通り、いえ、それ以上でございます。日本の街はまるでヴァルハラのごとくに天に聳える建物が多数存在し、空を飛ぶ乗り物を誰でも気軽に使用可能です。我が国とは桁違いに進歩した文明国家です」
「そうか… 王女の申し出と使者殿の話を信じるしかあるまい。互いの国同士の交流を深める方向で、より詳しい話を担当の者同士で詰めていくとしよう。使者殿、どうかよろしく頼む」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
こうしてこの謁見で、日本とマハティール王国で同盟締結に前向きに進んでいく方針が決定するのであった。
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