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第53話 学年トーナメント決勝
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模擬戦週間7日目、いよいよベスト16が出揃ってここからさらに熾烈なトーナメントが繰り広げられていく… というのは例年通りなのだが、今年の1年生に限ってはちょっと様相が異なっている。
近接戦闘部門トーナメントのベスト16ともなると男子生徒で占められる場合がは大勢だったにも拘らず、今年に限っては明日香ちゃんとカレンという女子2名が名を連ねているのがその理由。
しかも明日香ちゃんに至っては完全ノーマークのEクラスの生徒。なぜここまでの快進撃が可能となったのかその理由を知らない生徒は未だに首を捻っている。しかも1回戦では優勝候補の筆頭であった勇者を負かしているだけに、ここへきて俄然優勝候補の一角に名前が挙がっている勢い。当の明日香ちゃん自身がどれだけ負けたがっているとも知らずに…
余談であるが、残念ながら美晴は3回戦で姿を消したものの、それでもEクラス女子としては大健闘と称えられる成績であった。
そして迎えた4回戦…
「勝者、赤!」
「また勝ってしまたぁぁ!」
スタンドで見学している生徒には理解不能の叫びを上げながら、明日香ちゃんは控室へと戻っていく。とはいえこの結果に一番頭を抱えているのは明日香ちゃんに他ならない。
「勝者、青!」
「ありがとうございました」
メイスの猛威で相手をダウンさせたカレンは回復魔法を掛けてから控室へと戻る。明日香ちゃんとは対照的にこちらは澄ました表情。元々腕試しの意味で出場しただけにカレン自身「自分の力を出し切ろう」としか考えていない。
この日は午前中に4回戦8試合と、続いて午後には準々決勝4試合が組まれており、勝ち残った生徒は初めて1日に2試合をこなす予定となっている。
午後には一番乗りで明日香ちゃんが登場。今度こそ! と心に期するものがある様子だが、勝利の女神はどうにも明日香ちゃんに意地悪をしたいらしい。負けたくて必死なのに、どうしても明日香ちゃんに向かってニッコリと微笑んでしまう。
この結果明日香ちゃんが準決勝一番乗りを果たす。控室へと戻ってきた明日香ちゃんを笑顔の桜が出迎える。
「桜ちゃん… なんで負けたいのに負けられないんでしょうか?」
「明日香ちゃん、運命には逆らえませんわ。ここまで来た以上、流れに身を任せるしかありませんの」
「負ける流れって何処かにないんですか?」
「その辺にいっぱい転がっていますわ。でも明日香ちゃんはここまでとことん勝つ流れに乗り続けていますからねぇ… そうそう簡単に流れは変わらないかもしれないです」
「いえ、次の対戦で必ず負けをこの手で掴みます。掴んでみせます!」
「そんなことを胸張って言われても私はどう返せばいいのか言葉が見つかりませんわ」
「それよりも桜ちゃん、3時のおやつの時間ですよ~。食堂に急ぎましょう」
「まだカレンさんの試合が残っていますから、そちらが終わってからですわ」
今にも食堂にダッシュしそうな明日香ちゃんを桜が引き止める。明日香ちゃんはとっても残念そうな表情で防具を解いてスタンドに向かうのだった。
「勝者、青!」
審判の勝ち名乗りにカレンが一礼する。その後に対戦相手に回復魔法を掛けてから控室へと戻っていく。1回戦からここまでカレンの対戦相手は試合終了まで立っている者は誰もいない。全員が芝生の上にダウンさせられてカレンの回復魔法のお世話になっている。
こんなに強い回復役ならば、ひとりパーティーにいるだけで物凄い戦力であろう。だが聡史たちのパーティーにあってこのカレンの武勇程度はあくまでも護身用に過ぎない。それほど突き抜けた実力者揃いというのは他のパーティーからしたら羨ましい限り。
こうして1年生のベスト4が出揃う。ひとまず上位を目指す生徒の第一目標がこのベスト4となっている。トーナメントを勝ち進んだこの4名が自動的に全学年トーナメントへと駒を進める仕組みとなるため、ここまで勝ち進めば新たな権利が得られる。
ちなみにベスト4に残っているのは、明日香ちゃん、カレン、Aクラスの男子が2名という図式。対戦は明日香ちゃんとAクラス男子の片方、カレンと残りの男子となっている。
そのベスト4が決定して、そのAクラスの男子2名が話をしている。
「お前はいいよな。相手は勇者殺しだろう。まだ何とか付け入るスキがあるじゃないか」
「そうだよなぁ… 俺も女張飛を相手にどう戦おうかというプランが全く浮かばない。あれは本物のバケモノだ」
この二人は知らない。明日香ちゃんとカレンは常日頃から桜の訓練中にしょっちゅう槍と棒を交えている間柄。そして今までカレンは一度も明日香ちゃんに勝ったことはない。
知らないことというのは実に幸せであろう。ただしどの道彼らからするとカレンも明日香ちゃんもはるか彼方の実力の持ち主であるのは間違いない。
模擬戦週間8日目、本日は午前中に準決勝2試合と午後に決勝戦が組まれている。学年別トーナメントの大詰めということもあって、第3訓練場のスタンドには1年生全員が詰め掛けている。
ちなみに魔法部門は美鈴があっさりと優勝を決めている。参加する人数が少ないので一足先にトーナメントが終わっており、現在は聡史の隣で観戦中。
そして準決勝2試合はあっさりと結末を迎える。
勝ち残ったのは、当初の予想通り明日香ちゃんとカレン。どちらも余裕残しでの勝利とあって、スタンドのギャラリーからは「一体どちらが強いのだろう?」との声がしきりに上がっている。
準決勝を終えて防具を解いた二人は昼食のために食堂にやってきている。普通に食事を済ませて桜と明日香ちゃんがデザートまできっちり食べ終えたタイミングで、カレンが明日香ちゃんに向かって話を切り出す。
「明日香ちゃん、決勝は私たちの対戦ですがひとつだけお願いがあります」
「カレンさん、何でしょうか?」
「せっかくこうしてまたとない舞台で対戦できるのですから、明日香ちゃんは全力を出してください。私も全力でぶつかりますから」
カレンの瞳は真剣そのもの。この雰囲気は絶対に「負けたい」などと明日香ちゃんに言わせない覚悟のよう。当然カレンの気持ちは明日香ちゃんに伝わってくる。
「カレンさん、わかりました。決勝は全力でぶつかりましょう。どうせ最後ですから思い残すことなく戦いますよ~」
明日香ちゃんもついに覚悟を決めたよう。これまでの対戦とは違ってカレンを倒すための戦いをしようと心に決めている。というのは、決勝が終わればもう模擬戦はお仕舞だという勘違いをしているせいでもある。全学年トーナメントの話など最初からテンで聞いてはいないし、頭の片隅にも残っていない明日香ちゃんであった。
◇◇◇◇◇
午後2時、いよいよトーナメント決勝戦が開始される。
「ただいまから1学年近接戦闘部門の決勝戦を開始します。選手入場」
アナウンスが流れるとスタンドから歓声が沸き起こる。どちらが勝っても魔法学院史上初となる女子の優勝者が決まる試合を前にして、詰め掛けている生徒たちは大盛り上がりの様相。そして選手に送られる声援の大半はEクラスのモテない男子からのカレンへの歓声。
「カレンさ~ん! 一目こっちを向いてくれ~!」
「誰がテメーの汚い顔を見るんだよ。俺のほうを向いてくれ~!」
「なんだとぉぉ! 俺の顔が汚かったらオメーの顔なんかドブだろうがぁぁぁ!」
「ハエがたかるウ〇コみたいな顔しやがって! 誰がドブだっていうんだぁぁ!」
汚物同士の醜い争いがスタンドで発生している。今にも掴み合いのケンカが始まりそうな勢いだが、周囲は「死ぬまでやっていろ」という冷めた目で見ている。
一部のバカが騒いでいるスタンドの動向などまるっと無視して、フィールドでは審判から改めて注意事項が説明されている。対戦する両者は真剣な表情で聞いているよう。だが…
(やっとここまで来ましたよ~。これが最後の試合だと思うとなんだか嬉しくなってきますねぇ~。自由時間ができたら昼寝三昧ですよ~)
明日香ちゃんは、相変わらずの様子。いくらなんでも試合前に考えることではないだろうに…
そして両者は開始戦に立って合図を待つ。さすがに明日香ちゃんも真剣な表情へと変わっている。
「試合開始ぃぃ!」
審判の手が振り下ろされると10メートルの距離を置いて明日香ちゃんとカレンが正面から向き合う。半身の姿勢で槍を構える明日香ちゃんに対して、同様にカレンも半身になってメイスを構える。
互いに手の内を知り尽くしているだけに、慎重になって中々前へ出ようとはしない。下手に前に出ると思いっ切り返し技を食らうだけに、両者とも集中を切らさないように相手の出方を窺っているよう。
シーンとしたスタンドの全員がどちらが動き出すのか固唾を飲んで見守っている。しばしの緊張の時間が経過して…
「ヘクション!」
なんとこの緊張を打ち破ったのは明日香ちゃんのクシャミ。「なぜこのタイミングで?」という疑問しか浮かばない。どうにもこの娘は緊張感が持続しない性格のよう。
「今です」
明日香ちゃんがクシャミをしたというまたとない好機を逃さずにカレンが踏み込んでいく。手にするメイスで明日香ちゃんの槍を打ち払って、そのままトドメを刺そうと力を込めている。
この瞬間、スタンドの誰もがカレンの勝利を予感する。あの暴風のようなメイスの一撃にあったら、さすがの明日香ちゃんも吹き飛ばされるであろうと考えている。だが…
ガキーン!
明日香ちゃんが握る槍はカレンのメイスを受け止めて微動だにしない。この程度の一撃を受け止めるくらいは、明日香ちゃんにとっては造作もないこと。たとえクシャミをして致命的なスキを晒そうとも槍術ランク4は伊達ではない。
そしてそこから両者の激しい打ち合いが始まる。槍とメイスが互いを撥ね退けようとして火花を散らす。
だがこうして正面から打ち合うと、次第に明日香ちゃんが優位に立っている状況が誰の目にも明らかとなってくる。カレンは棒術ランク2でいわば段位を取ったばかりの腕前に対して、明日香ちゃんは槍術ランク4で2段階も上。
今まで対戦してきた相手を一撃で吹き飛ばしたカレンのメイスを受け止めて、さらにそれを上回る攻撃を繰り出している明日香ちゃんに観衆からため息が漏れる。あの重たいメイスを受け止めるだけでも困難なのに、さらにそこから切り返して反撃に出るなどどうあっても考えられない技量。
さらに明日香ちゃんが攻勢に出ていく。槍の動きは激しさを増して、対応するカレンのメイスが遅れがちになってくる。そして…
ビシッ!
カラン!
明日香ちゃんの槍がカレンの小手を捉えてカレンはメイスを取り落とす。そのまま明日香ちゃんは穂先をカレンの喉元へ突き付ける。
「そこまでぇぇ! 勝者、赤!」
「「「「「「「「「ウオォォォォォォォォォ!」」」」」」」」
大歓声がスタンドを包む。攻めたカレンは見事であり、それを返して反撃に出た明日香ちゃんもまた見事。これほどの白熱した対戦が、それも女子の間で行われるとは誰もが思ってはいなかったかもしれない。
「やったぁぁぁぁ!」
明日香ちゃんは両手を空に突き上げる。それはようやく模擬戦から解放されたという喜びの表現で間違いない。断じて勝ったことを喜んでいたわけではない。明日香ちゃんにとっては勝ち負けなど最初からどうでもいい… むしろサボるために負けたかったのだから。
パチパチパチパチ!
ところがあたかも勝利を喜んでいるような姿の明日香ちゃんに対してスタンドからは惜しみない拍手が沸き起こる。何も知らない生徒に皆さんに対して明日香ちゃんはどうか謝ってもらいたい。
「明日香ちゃん、さすがでした。まだまだ私ではとても敵いません」
「カレンさん、模擬戦が終わったお祝いにこれからパフェを食べましょうよ~」
「えっ、終わった?」
カレンはこれ以上何も言えない。なぜなら明日香ちゃんは翼が生えたかのように控室に戻っていってしまったから。
そして控室では、桜が明日香ちゃんを迎える。
「明日香ちゃん、ついにやりましたわねぇ。優勝なんて見直しましたわ」
「桜ちゃん、それよりもこれでやっと模擬戦が終わりましたよ~。自由時間は何をしましょうか?」
「えっ、明日からは全学年トーナメントが始まりますわよ。今度は私とお兄様も参加しますからとっても楽しみですの」
「ええええええ! 桜ちゃん、それってもしかして…」
「はい、今回のトーナメントでベスト4に入った人は自動的に参加という決まりですから。ということで明日香ちゃん、明日以降も模擬戦は続きますよわ」
「そ、そ、そ、そんな話は聞いてないですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
防具を着けたままで、床に崩れ落ちる明日香ちゃんであった。
【お知らせ】
いつも当作品をご愛読いただきましてありがとうございます。この度こちらの小説に加えまして新たに異世界ファンタジー作品を当サイトに掲載させていただきます。この作品同様に多くの方々に目を通していただけると幸いです。すでにたくさんのお気に入り登録もお寄せいただいておりまして、現在ファンタジーランキングの40位前後に位置しています。作品の詳細は下記に記載いたしております。またこの作品の目次のページ左下に新作小説にジャンプできるアイコンがありますので、どうぞこちらをクリックしていただけるようお願い申し上げます。
新小説タイトル 〔クラスごと異世界に召喚されたんだけどなぜか一人多い 浮いている俺はクラスの連中とは別れて気の合う仲間と気ままな冒険者生活を楽しむことにする〕
異世界召喚モノにちょっとだけSF要素を取り入れた作品となっておりますが、肩の力を抜いて楽しめる内容です。皆様この小説同様に第1話だけでも覗きに来てくださいませ。
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「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
近接戦闘部門トーナメントのベスト16ともなると男子生徒で占められる場合がは大勢だったにも拘らず、今年に限っては明日香ちゃんとカレンという女子2名が名を連ねているのがその理由。
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余談であるが、残念ながら美晴は3回戦で姿を消したものの、それでもEクラス女子としては大健闘と称えられる成績であった。
そして迎えた4回戦…
「勝者、赤!」
「また勝ってしまたぁぁ!」
スタンドで見学している生徒には理解不能の叫びを上げながら、明日香ちゃんは控室へと戻っていく。とはいえこの結果に一番頭を抱えているのは明日香ちゃんに他ならない。
「勝者、青!」
「ありがとうございました」
メイスの猛威で相手をダウンさせたカレンは回復魔法を掛けてから控室へと戻る。明日香ちゃんとは対照的にこちらは澄ました表情。元々腕試しの意味で出場しただけにカレン自身「自分の力を出し切ろう」としか考えていない。
この日は午前中に4回戦8試合と、続いて午後には準々決勝4試合が組まれており、勝ち残った生徒は初めて1日に2試合をこなす予定となっている。
午後には一番乗りで明日香ちゃんが登場。今度こそ! と心に期するものがある様子だが、勝利の女神はどうにも明日香ちゃんに意地悪をしたいらしい。負けたくて必死なのに、どうしても明日香ちゃんに向かってニッコリと微笑んでしまう。
この結果明日香ちゃんが準決勝一番乗りを果たす。控室へと戻ってきた明日香ちゃんを笑顔の桜が出迎える。
「桜ちゃん… なんで負けたいのに負けられないんでしょうか?」
「明日香ちゃん、運命には逆らえませんわ。ここまで来た以上、流れに身を任せるしかありませんの」
「負ける流れって何処かにないんですか?」
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「まだカレンさんの試合が残っていますから、そちらが終わってからですわ」
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「勝者、青!」
審判の勝ち名乗りにカレンが一礼する。その後に対戦相手に回復魔法を掛けてから控室へと戻っていく。1回戦からここまでカレンの対戦相手は試合終了まで立っている者は誰もいない。全員が芝生の上にダウンさせられてカレンの回復魔法のお世話になっている。
こんなに強い回復役ならば、ひとりパーティーにいるだけで物凄い戦力であろう。だが聡史たちのパーティーにあってこのカレンの武勇程度はあくまでも護身用に過ぎない。それほど突き抜けた実力者揃いというのは他のパーティーからしたら羨ましい限り。
こうして1年生のベスト4が出揃う。ひとまず上位を目指す生徒の第一目標がこのベスト4となっている。トーナメントを勝ち進んだこの4名が自動的に全学年トーナメントへと駒を進める仕組みとなるため、ここまで勝ち進めば新たな権利が得られる。
ちなみにベスト4に残っているのは、明日香ちゃん、カレン、Aクラスの男子が2名という図式。対戦は明日香ちゃんとAクラス男子の片方、カレンと残りの男子となっている。
そのベスト4が決定して、そのAクラスの男子2名が話をしている。
「お前はいいよな。相手は勇者殺しだろう。まだ何とか付け入るスキがあるじゃないか」
「そうだよなぁ… 俺も女張飛を相手にどう戦おうかというプランが全く浮かばない。あれは本物のバケモノだ」
この二人は知らない。明日香ちゃんとカレンは常日頃から桜の訓練中にしょっちゅう槍と棒を交えている間柄。そして今までカレンは一度も明日香ちゃんに勝ったことはない。
知らないことというのは実に幸せであろう。ただしどの道彼らからするとカレンも明日香ちゃんもはるか彼方の実力の持ち主であるのは間違いない。
模擬戦週間8日目、本日は午前中に準決勝2試合と午後に決勝戦が組まれている。学年別トーナメントの大詰めということもあって、第3訓練場のスタンドには1年生全員が詰め掛けている。
ちなみに魔法部門は美鈴があっさりと優勝を決めている。参加する人数が少ないので一足先にトーナメントが終わっており、現在は聡史の隣で観戦中。
そして準決勝2試合はあっさりと結末を迎える。
勝ち残ったのは、当初の予想通り明日香ちゃんとカレン。どちらも余裕残しでの勝利とあって、スタンドのギャラリーからは「一体どちらが強いのだろう?」との声がしきりに上がっている。
準決勝を終えて防具を解いた二人は昼食のために食堂にやってきている。普通に食事を済ませて桜と明日香ちゃんがデザートまできっちり食べ終えたタイミングで、カレンが明日香ちゃんに向かって話を切り出す。
「明日香ちゃん、決勝は私たちの対戦ですがひとつだけお願いがあります」
「カレンさん、何でしょうか?」
「せっかくこうしてまたとない舞台で対戦できるのですから、明日香ちゃんは全力を出してください。私も全力でぶつかりますから」
カレンの瞳は真剣そのもの。この雰囲気は絶対に「負けたい」などと明日香ちゃんに言わせない覚悟のよう。当然カレンの気持ちは明日香ちゃんに伝わってくる。
「カレンさん、わかりました。決勝は全力でぶつかりましょう。どうせ最後ですから思い残すことなく戦いますよ~」
明日香ちゃんもついに覚悟を決めたよう。これまでの対戦とは違ってカレンを倒すための戦いをしようと心に決めている。というのは、決勝が終わればもう模擬戦はお仕舞だという勘違いをしているせいでもある。全学年トーナメントの話など最初からテンで聞いてはいないし、頭の片隅にも残っていない明日香ちゃんであった。
◇◇◇◇◇
午後2時、いよいよトーナメント決勝戦が開始される。
「ただいまから1学年近接戦闘部門の決勝戦を開始します。選手入場」
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「カレンさ~ん! 一目こっちを向いてくれ~!」
「誰がテメーの汚い顔を見るんだよ。俺のほうを向いてくれ~!」
「なんだとぉぉ! 俺の顔が汚かったらオメーの顔なんかドブだろうがぁぁぁ!」
「ハエがたかるウ〇コみたいな顔しやがって! 誰がドブだっていうんだぁぁ!」
汚物同士の醜い争いがスタンドで発生している。今にも掴み合いのケンカが始まりそうな勢いだが、周囲は「死ぬまでやっていろ」という冷めた目で見ている。
一部のバカが騒いでいるスタンドの動向などまるっと無視して、フィールドでは審判から改めて注意事項が説明されている。対戦する両者は真剣な表情で聞いているよう。だが…
(やっとここまで来ましたよ~。これが最後の試合だと思うとなんだか嬉しくなってきますねぇ~。自由時間ができたら昼寝三昧ですよ~)
明日香ちゃんは、相変わらずの様子。いくらなんでも試合前に考えることではないだろうに…
そして両者は開始戦に立って合図を待つ。さすがに明日香ちゃんも真剣な表情へと変わっている。
「試合開始ぃぃ!」
審判の手が振り下ろされると10メートルの距離を置いて明日香ちゃんとカレンが正面から向き合う。半身の姿勢で槍を構える明日香ちゃんに対して、同様にカレンも半身になってメイスを構える。
互いに手の内を知り尽くしているだけに、慎重になって中々前へ出ようとはしない。下手に前に出ると思いっ切り返し技を食らうだけに、両者とも集中を切らさないように相手の出方を窺っているよう。
シーンとしたスタンドの全員がどちらが動き出すのか固唾を飲んで見守っている。しばしの緊張の時間が経過して…
「ヘクション!」
なんとこの緊張を打ち破ったのは明日香ちゃんのクシャミ。「なぜこのタイミングで?」という疑問しか浮かばない。どうにもこの娘は緊張感が持続しない性格のよう。
「今です」
明日香ちゃんがクシャミをしたというまたとない好機を逃さずにカレンが踏み込んでいく。手にするメイスで明日香ちゃんの槍を打ち払って、そのままトドメを刺そうと力を込めている。
この瞬間、スタンドの誰もがカレンの勝利を予感する。あの暴風のようなメイスの一撃にあったら、さすがの明日香ちゃんも吹き飛ばされるであろうと考えている。だが…
ガキーン!
明日香ちゃんが握る槍はカレンのメイスを受け止めて微動だにしない。この程度の一撃を受け止めるくらいは、明日香ちゃんにとっては造作もないこと。たとえクシャミをして致命的なスキを晒そうとも槍術ランク4は伊達ではない。
そしてそこから両者の激しい打ち合いが始まる。槍とメイスが互いを撥ね退けようとして火花を散らす。
だがこうして正面から打ち合うと、次第に明日香ちゃんが優位に立っている状況が誰の目にも明らかとなってくる。カレンは棒術ランク2でいわば段位を取ったばかりの腕前に対して、明日香ちゃんは槍術ランク4で2段階も上。
今まで対戦してきた相手を一撃で吹き飛ばしたカレンのメイスを受け止めて、さらにそれを上回る攻撃を繰り出している明日香ちゃんに観衆からため息が漏れる。あの重たいメイスを受け止めるだけでも困難なのに、さらにそこから切り返して反撃に出るなどどうあっても考えられない技量。
さらに明日香ちゃんが攻勢に出ていく。槍の動きは激しさを増して、対応するカレンのメイスが遅れがちになってくる。そして…
ビシッ!
カラン!
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「やったぁぁぁぁ!」
明日香ちゃんは両手を空に突き上げる。それはようやく模擬戦から解放されたという喜びの表現で間違いない。断じて勝ったことを喜んでいたわけではない。明日香ちゃんにとっては勝ち負けなど最初からどうでもいい… むしろサボるために負けたかったのだから。
パチパチパチパチ!
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「明日香ちゃん、さすがでした。まだまだ私ではとても敵いません」
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「えっ、終わった?」
カレンはこれ以上何も言えない。なぜなら明日香ちゃんは翼が生えたかのように控室に戻っていってしまったから。
そして控室では、桜が明日香ちゃんを迎える。
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「桜ちゃん、それよりもこれでやっと模擬戦が終わりましたよ~。自由時間は何をしましょうか?」
「えっ、明日からは全学年トーナメントが始まりますわよ。今度は私とお兄様も参加しますからとっても楽しみですの」
「ええええええ! 桜ちゃん、それってもしかして…」
「はい、今回のトーナメントでベスト4に入った人は自動的に参加という決まりですから。ということで明日香ちゃん、明日以降も模擬戦は続きますよわ」
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素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
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