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第9話「新婚の家で見た、ふたりの鏡」
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第9話「新婚の家で見た、ふたりの鏡」
「ねえ、行くの……ほんとに?」
私は、ソファの上でケイスケの顔をうかがいながら言った。
「うん。お互いに呼ばれてるしな。行こ、クルミ」
今日は、親友のリサとその夫――つまり、かつて私が好きだった人――の新居訪問の日だ。
ケイスケも、同じように彼女を想っていた過去を持つ。
「まあ……大人の余裕ってやつ、見せてこっか」
「ふっ、それ、私に言ってる?」
「うん。俺はわりと平気だけど、クルミの顔がすでにケンカ売ってる」
「はあ!?」
笑い合いながら、玄関を出た。
でも、心の奥ではやっぱり少しだけ、胸がざわついていた。
新居は、郊外の閑静な住宅街の一角。
二人で選んだという白い戸建ては、いかにも「幸せです」って顔をしていた。
「クルミ~!来てくれてありがとう!ケイスケくんも!」
リサは相変わらず明るくて、まぶしいほどの笑顔だった。
リビングに通され、紅茶を淹れてもらう。
隣に並ぶ夫の姿を見て、私の中の“昔”が一瞬だけ疼いた。
でも、もう違う。
彼の隣にいたいと思う気持ちは、もうない。
私は――ケイスケの隣にいたい。
「うちも最近、ケンカ多くてさ~」
リサが苦笑交じりにこぼす。
「え、意外。うまくいってるように見えるけど?」
私が聞くと、彼女は紅茶を飲みながらため息をついた。
「ほんとはね、いろいろ溜め込んでるの。お互い遠慮しすぎて、思ってること言えなかったり。気づいたらどんどん距離が空いてて……」
その言葉は、私の胸に鋭く突き刺さった。
「……わかる、それ。私たちも、そうだった」
思わず漏れた声に、ケイスケがちらっと私を見る。
「溜めるのが優しさって思ってたけど、違うよね」
リサがうなずいた。
「そうなの。でもさ、言葉にしないと、伝わらない。夫婦になっても、他人なんだもん。言わなきゃ、わからないよね」
私は黙って、うんと頷いた。
その時、ケイスケがふっと笑った。
「俺らもさ、ちょっとだけ大人ぶって、余裕あるふりしてたのかもな」
私も笑った。
「ほんと、似てるね。私たちと」
帰り道、私たちは手をつないで歩いた。
リサたちの新居に感じたのは、羨ましさじゃなかった。
「ああ、私たちも、ちゃんと前を向けてる」――そう思えたのだ。
「クルミ」
「ん?」
「俺、今はお前のことだけ見てるからな」
「……知ってるよ」
「さっきの旦那、ちょっとだけイラッとしてたろ」
「してない!」
「うそつけ。目がいつもの3割怖かった」
私は苦笑して、ケイスケの腕にぎゅっとしがみついた。
「もう大丈夫。私はちゃんと、今の私たちが好きだから」
そして、心の奥で誓った。
私は、過去じゃなく、ケイスケと“今”を生きていく。
その夜、ふたりで飲みながら、また少しだけ深くなった気がした。
「ねえ、行くの……ほんとに?」
私は、ソファの上でケイスケの顔をうかがいながら言った。
「うん。お互いに呼ばれてるしな。行こ、クルミ」
今日は、親友のリサとその夫――つまり、かつて私が好きだった人――の新居訪問の日だ。
ケイスケも、同じように彼女を想っていた過去を持つ。
「まあ……大人の余裕ってやつ、見せてこっか」
「ふっ、それ、私に言ってる?」
「うん。俺はわりと平気だけど、クルミの顔がすでにケンカ売ってる」
「はあ!?」
笑い合いながら、玄関を出た。
でも、心の奥ではやっぱり少しだけ、胸がざわついていた。
新居は、郊外の閑静な住宅街の一角。
二人で選んだという白い戸建ては、いかにも「幸せです」って顔をしていた。
「クルミ~!来てくれてありがとう!ケイスケくんも!」
リサは相変わらず明るくて、まぶしいほどの笑顔だった。
リビングに通され、紅茶を淹れてもらう。
隣に並ぶ夫の姿を見て、私の中の“昔”が一瞬だけ疼いた。
でも、もう違う。
彼の隣にいたいと思う気持ちは、もうない。
私は――ケイスケの隣にいたい。
「うちも最近、ケンカ多くてさ~」
リサが苦笑交じりにこぼす。
「え、意外。うまくいってるように見えるけど?」
私が聞くと、彼女は紅茶を飲みながらため息をついた。
「ほんとはね、いろいろ溜め込んでるの。お互い遠慮しすぎて、思ってること言えなかったり。気づいたらどんどん距離が空いてて……」
その言葉は、私の胸に鋭く突き刺さった。
「……わかる、それ。私たちも、そうだった」
思わず漏れた声に、ケイスケがちらっと私を見る。
「溜めるのが優しさって思ってたけど、違うよね」
リサがうなずいた。
「そうなの。でもさ、言葉にしないと、伝わらない。夫婦になっても、他人なんだもん。言わなきゃ、わからないよね」
私は黙って、うんと頷いた。
その時、ケイスケがふっと笑った。
「俺らもさ、ちょっとだけ大人ぶって、余裕あるふりしてたのかもな」
私も笑った。
「ほんと、似てるね。私たちと」
帰り道、私たちは手をつないで歩いた。
リサたちの新居に感じたのは、羨ましさじゃなかった。
「ああ、私たちも、ちゃんと前を向けてる」――そう思えたのだ。
「クルミ」
「ん?」
「俺、今はお前のことだけ見てるからな」
「……知ってるよ」
「さっきの旦那、ちょっとだけイラッとしてたろ」
「してない!」
「うそつけ。目がいつもの3割怖かった」
私は苦笑して、ケイスケの腕にぎゅっとしがみついた。
「もう大丈夫。私はちゃんと、今の私たちが好きだから」
そして、心の奥で誓った。
私は、過去じゃなく、ケイスケと“今”を生きていく。
その夜、ふたりで飲みながら、また少しだけ深くなった気がした。
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