【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第15話「沈黙の二週間」

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第15話「沈黙の二週間」

健一との別れから二週間が経った。この間、私は翻訳の仕事に没頭しようとしたが、集中することができなかった。

朝起きても、健一のことを考えてしまう。夜も、彼の声が聞こえてくるような気がして眠れない。

「美月、やつれてない?」

由香が心配そうに言った。私たちは久しぶりにカフェで会っていた。

「大丈夫」

「大丈夫じゃないでしょう。もう二週間も健一さんと話してないのよね」

「うん」

「連絡は?」

「全然」

由香はため息をついた。

「美月、このまま待ってても仕方ないんじゃない?」

「でも健一は『時間をください』って」

「二週間も時間をあげたじゃない。そろそろ答えを聞く権利があるでしょう」

由香の言葉は正しかった。

「でも、もし『もう会いたくない』って言われたら」

「それはそれで、はっきりするじゃない」

その夜、私は健一に長いメッセージを送った。

『健一へ
二週間、時間をくれてありがとうございました。
でも私は、このままでは辛すぎます。
一度だけでいいので、会って話をしませんか?
健一の答えを聞かせてください。
もし私との関係を終わりにしたいなら、それもちゃんと聞きます。
でも何も言わずに消えてしまうのは、やめてください。
お願いします。
美月』

送信してから、私は緊張で眠れなかった。

翌朝、返信が来た。

『明日の夜7時、例のカフェで』

短いメッセージだったが、会ってくれることになった。

例のカフェ。私たちが初めて会った場所だった。

翌日、私は緊張しながらカフェに向かった。健一は既に席についていた。

二週間ぶりに見る健一は、やつれているように見えた。

「お疲れさまです」

「お疲れさま」

私は健一の向かいに座った。

「二週間、考えました」

健一は静かに話し始めた。

「美月の話を聞いた時、最初は怒りでいっぱいでした」

私は黙って聞いていた。

「騙されていたという屈辱感、美月への不信、そして何より、自分の見る目のなさへの怒り」

「健一...」

「でも時間が経つにつれて、怒りよりも寂しさの方が強くなりました」

健一は私を見つめた。

「美月がいない生活が、こんなに辛いとは思わなかった」

胸が熱くなった。

「仕事に集中しようとしても、君のことを考えてしまう。夜も眠れない」

「私も同じです」

「でも同時に、疑問も消えませんでした」

「どんな疑問ですか?」

「美月の愛情は、本物なのか?それとも、恋人代行の延長なのか?」

その質問に、私は真剣に答えた。

「本物です」

「どうやって証明できる?」

「証明...」

困ってしまった。愛情を証明する方法など、ない。

「健一、私にとって恋人代行は仕事でした。でも健一との関係は違います」

「何が違う?」

「恋人代行では、相手の理想に合わせて自分を演じました。でも健一とは、自然体でいられる」

「自然体?」

「はい。健一の前では、嘘をつく必要がなかった。本当の自分でいられた」

「でも結果的には、大きな嘘をついていた」

「それは...」

言葉に詰まった。

「美月、僕はもう一度信じたいと思ってる」

「本当ですか?」

「でも簡単じゃない。一度失った信頼を取り戻すのは」

健一は手を組んで、テーブルに置いた。

「条件があります」

「どんな条件ですか?」

「これから先、僕に対して一切の嘘をつかないこと」

「約束します」

「もう一つ。過去の恋人代行の仕事について、僕が聞いたことには正直に答えること」

その条件は厳しかった。でも受け入れるしかない。

「分かりました」

「そして最後に」

健一は深刻な表情になった。

「結婚は延期します」

心が沈んだ。

「どのくらい?」

「分からない。僕たちの関係を、もう一度ゆっくりと築き直したい」

「一からということですか?」

「そうです。今度は嘘なしで」

私は頷いた。

「健一、私はどんなに時間がかかっても構いません。健一に信頼してもらえるまで、待ちます」

「美月...」

「でも一つだけお願いがあります」

「何?」

「完全に関係を断つのではなく、少しずつでも会ってもらえませんか?」

健一は少し考えてから答えた。

「週に一度、お茶でもしましょうか」

「ありがとうございます」

その日から、私たちの関係は新しい段階に入った。

週に一度の約束の時間。最初はぎこちなかったが、少しずつ自然な会話ができるようになった。

健一は約束通り、私の過去について質問してきた。時には答えるのが辛い質問もあった。

「恋人代行の仕事で、本当に恋をしたことはなかった?」

「ありませんでした。健一が初めてです」

「依頼者の中で、印象に残っている人は?」

「皆、寂しい人たちでした。でも健一のように、私の心を動かす人はいませんでした」

時間をかけて、私たちは信頼関係を再構築していった。

そして一ヶ月が過ぎた頃、健一が言った。

「美月、君への気持ちは変わらない」

「私も、健一を愛しています」

「でもまだ、完全に信頼できているわけじゃない」

「分かっています」

「もう少し時間をください」

「はい」

この関係が、いつ元に戻るのか分からない。でも私は待つと決めた。

健一を失うくらいなら、どんなに時間がかかっても構わない。

本当の信頼関係を築くために。

第15話 完
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