【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第21話「新しい人生への扉」

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第21話「新しい人生への扉」

過去との決別から一ヶ月が経った。私の翻訳の仕事は順調に進み、出版社からの評価も上々だった。

「美月、原稿読ませてもらったよ」

編集者の田辺さんから電話があった。

「いかがでしたでしょうか?」

「素晴らしい出来です。読者にも必ず愛される翻訳だと思います」

胸が高鳴った。

「ありがとうございます」

「それで、以前お話した専属契約の件ですが」

「はい」

「正式にオファーをさせていただきたく」

ついにこの日が来た。

「詳細をお聞かせください」

「年間三冊の翻訳をお願いしたいと思います。報酬は...」

提示された条件は、想像以上に好条件だった。

「お返事はいつまでに」

「来週の金曜日までにいただければ」

電話を切った後、すぐに健一に連絡した。

「健一、大ニュースです」

「どんな?」

「専属契約の正式オファーが来ました」

「本当?やったじゃないか!」

健一の喜びの声が聞こえた。

「今夜、お祝いをしよう」

その夜、高級レストランで乾杯をした。

「美月の夢が叶ったね」

「はい。でも健一のおかげです」

「僕は何もしてないよ。君が努力したからだ」

ワインを飲みながら、私たちは将来について語り合った。

「美月、専属契約が決まったら、結婚の話を具体的に進めない?」

「本当ですか?」

「うん。君の仕事も安定するし、僕たちの関係も十分に深まった」

胸がドキドキした。

「いつ頃を考えてますか?」

「来年の春はどうかな」

「素敵ですね」

レストランから帰る道すがら、健一が突然立ち止まった。

「美月」

「はい?」

健一はポケットから小さな箱を取り出した。

「これ...」

箱を開けると、美しいダイヤモンドの指輪が入っていた。

「婚約指輪?」

「うん。君が専属契約を受けたら、正式に渡そうと思ってた」

涙が溢れた。

「健一...」

「佐藤美月さん、僕と結婚してください」

「はい」

健一が私の指に指輪をはめてくれた。

「ありがとう、美月」

「こちらこそ、ありがとう」

私たちは街角で抱き合った。

翌日、専属契約を受ける旨を出版社に連絡した。

「美月さん、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

そして週末、両家の両親に婚約の報告をした。

まず健一の実家から。

「まあ、おめでとう!」

お母さんは涙を流して喜んでくれた。

「やっと息子に春が来ました」

「お母さん、大げさですよ」

健一が照れていた。

「美月さん、本当によかった。健一をよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

次に私の実家。

「美月、ついに結婚か」

父も母も、心から祝福してくれた。

「健一さんは本当にいい方ね。美月は幸せものよ」

「ありがとう、お母さん」

「結婚式はいつ頃を予定してるの?」

「来年の春を考えています」

「楽しみね。準備、手伝うから」

家族の温かい祝福に包まれて、私は幸せを実感していた。

その夜、健一のマンションで、私たちは結婚について具体的に話し合った。

「式場はどんなところがいい?」

「あまり大きくない、アットホームな感じがいいです」

「僕も同感だ。大切な人たちだけでお祝いしたい」

招待客のリストを作りながら、一つ気になることがあった。

「健一、私の友人は由香くらいしか呼べません」

「それで十分だよ」

「恋人代行時代の知り合いは、呼べませんから」

「当然だ。気にしなくていい」

健一の理解に、改めて感謝した。

「でも」健一は少し真剣な表情になった。「結婚式の前に、一つだけしておきたいことがある」

「何ですか?」

「君の過去を、僕の母に話しておきたい」

驚いた。

「お母さんに?」

「うん。結婚する以上、隠し事はしたくない」

「でも、お母さんが知ったら」

「大丈夫。母は理解してくれると思う」

健一の提案に、不安もあったが同時に安堵もあった。

「分かりました。一緒に話しましょう」

「ありがとう、美月」

数日後、健一と一緒にお母さんに会った。

「お母さん、実は美月の過去について、お話したいことがあります」

「どんなこと?」

健一は慎重に言葉を選びながら、私の過去を説明した。もちろん、恋人代行という言葉は使わず、「特殊な接客業」という表現で。

お母さんは黙って聞いていた。

「美月さん、大変な思いをされたのね」

意外にも、お母さんの反応は冷静だった。

「でも今は翻訳のお仕事をされて、健一と幸せになろうとしている。それが一番大切なことよ」

涙が出そうになった。

「ありがとうございます」

「過去は過去。大切なのは今と未来です」

お母さんの優しさに、心から感謝した。

その夜、健一と二人でいる時、私は言った。

「健一、本当にありがとう」

「何を?」

「すべてを受け入れてくれて」

「当然のことだよ」

「お母さんも、こんなに理解してくださるなんて」

「母は昔から、人を外見や肩書きで判断しない人なんだ」

健一は私を抱きしめた。

「美月、君と結婚できることが本当に嬉しい」

「私も嬉しいです」

恋人代行から始まった複雑な関係が、ついに結婚という形で結実する。

過去のすべてを受け入れてくれる人と出会えた奇跡に、感謝の気持ちでいっぱいだった。

第21話 完

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