【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第38話「転機の予感」

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第38話「転機の予感」

ドイツでの生活が三年目に入った春、私たちは重要な選択を迫られることになった。

「美月、会社から提案があったんだ」

健一が深刻な表情で帰ってきた。

「どんな提案ですか?」

「アジア統括本部の設立責任者として、シンガポールに転勤してほしいと」

シンガポール。また新しい国だった。

「期間は?」

「最低五年。場合によってはもっと長くなるかもしれない」

私は少し戸惑った。健太は既に小学五年生相当、美咲も四歳。子供たちにとって、また新しい環境に移ることは大きな変化だった。

「健一はどうしたいんですか?」

「正直、やりがいのある仕事だ。でも子供たちのことを考えると」

「子供たちに相談してみましょうか」

その夜、家族会議を開いた。

「健太、美咲、大事な話があります」

二人は真剣な顔で聞いていた。

「パパのお仕事で、シンガポールに行くかもしれません」

健太は少し考えてから答えた。

「シンガポールって、暖かい国だよね?」

「そうよ。一年中夏みたいな気候よ」

「僕は行ってみたい」

健太の適応力の高さに、改めて感心した。

「美咲はどう?」

「みーちゃんも行く!家族一緒がいい」

美咲も迷いがない。

「でも健太、もうドイツに慣れたでしょう?友達もいるし」

「友達は大切だけど、家族がもっと大切」

健太の言葉に、胸が熱くなった。

「それに、新しい国でまた新しい友達ができるよ」

「そうね」

美咲も頷いていた。

「あたらしいおともだち」

子供たちの柔軟性に、私たちは救われていた。

翌日、健一は会社にシンガポール転勤を受諾する旨を伝えた。

「美月、本当にいいの?」

「はい。家族みんなで新しい挑戦をしましょう」

準備期間は半年。今度は四度目の海外引越しということもあり、手慣れたものだった。

しかし、ドイツを離れる寂しさもあった。

「Auf Wiedersehen」

保育園の先生方が美咲にお別れの挨拶をしてくれた。

「アオフ ヴィーダーゼーエン」

美咲も上手にドイツ語で返事をした。

健太の学校でも、お別れパーティーが開かれた。

「Ken, we'll miss you」

国際色豊かな友達たちが、健太との別れを惜しんでくれた。

「I'll keep in touch with everyone」

健太は涙を浮かべながらも、しっかりと挨拶していた。

出発前夜、家族四人でフランクフルトの街を歩いた。

「ここで三年間過ごしたのね」

「そうですね。たくさんの思い出ができました」

「健太も美咲も、大きく成長した」

「パパ、ママ、ありがとう」

健太が突然お礼を言った。

「どうして?」

「色んな国に連れて行ってくれて。僕、とても幸せ」

「みーちゃんも、しあわせ」

美咲も手を挙げた。

私と健一は顔を見合わせた。

「私たちも幸せよ」

「こんな素敵な家族になれて、本当に幸せです」

シンガポール行きの飛行機の中で、私は考えていた。

恋人代行から始まった関係が、今では四つの国で暮らした家族になっている。

日本、アメリカ、ドイツ、そしてこれからシンガポール。

子供たちは真の国際人として育っている。

窓の外に雲海が広がっていた。

「ママ、シンガポールではどんな言葉を話すの?」

健太が聞いた。

「英語と中国語が主要言語よ。マレー語やタミル語もあるけど」

「すごい!いっぱい言葉があるんだね」

「美咲も新しい言葉覚える?」

「うん!」

美咲は何でも楽しそうに受け入れる。

「健一、子供たちを見てると、未来への希望を感じませんか?」

「そうだね。彼らの世代は、本当にボーダーレスになるかもしれない」

「言語も文化も、自然に受け入れていく」

「僕たちがそのきっかけを作れたなら、よかった」

チャンギ空港に到着した時、湿気を含んだ熱気に包まれた。

「暑い!」

健太が驚いていた。

「あつーい」

美咲も初めての熱帯気候に戸惑っているようだった。

「でも気持ちいいね」

「そうね。エネルギーを感じる」

シンガポールは、これまでの国とは全く違う雰囲気だった。

アジアの活気と西洋の洗練が融合している。

「ここでまた新しい生活が始まるのね」

「はい。今度はアジア系文化も学べそうです」

会社が用意してくれたコンドミニアムは、市内中心部にあった。プールやジムも完備された高層マンション。

「わあ、プールがある!」

健太が大興奮していた。

「およぐ!」

美咲も嬉しそうだった。

「今度はリゾートみたいな生活ね」

「そうですね。トロピカルな環境です」

その夜、家族四人でシンガポールの夜景を眺めた。

「きれいね」

「すごく近代的」

「でもアジアの温かさも感じる」

「明日から新しい生活が始まります」

窓の外には、多民族国家シンガポールの活気ある街並みが広がっていた。

恋人代行から始まった私たちの物語は、まだまだ続いていく。

愛する家族と一緒なら、世界中どこでも幸せでいられる。

そのことを、私たちの人生が証明している。

第38話 完
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