【完結】恋人代行サービス

山田森湖

文字の大きさ
45 / 60

第45話「次世代への想い」

しおりを挟む
第45話「次世代への想い」

健太が大学受験を控えた頃、私たちの家族は人生の重要な分岐点に立っていた。

「ママ、僕、東大の国際関係学部を受験したいんだ」

健太の決意は固かった。

「国連への第一歩ね」

「はい。その後、アメリカの大学院で国際政治を学ぶつもりです」

健太の人生設計は、明確で具体的だった。

美咲も中学生になり、語学への才能をさらに開花させていた。

「みーちゃん、今度の弁論大会、スペイン語部門で優勝したの」

「すごいじゃない」

「これで日本語、英語、中国語、ドイツ語、マレー語、スペイン語の六ヶ国語で弁論ができるようになったの」

十三歳で六ヶ国語での弁論能力。美咲の才能は、もはや天才的なレベルに達していた。

「将来は、国際会議の同時通訳をやりたい」

「素敵な目標ね」

兄妹それぞれが、世界に貢献する明確な目標を持っている。

親として、これ以上誇らしいことはなかった。

私自身の翻訳業務も、新しい段階に入っていた。

「美月さん、国際機関からの依頼です」

「どちらの機関ですか?」

「ユネスコです。多言語での教育プログラム資料の翻訳を」

国際機関からの依頼は、これまでの集大成とも言える仕事だった。

「喜んでお受けします」

健一も、会社で最高顧問という地位に就いていた。

「美月、今度大きなプロジェクトを任されたんだ」

「どのような?」

「アジア・太平洋地域の教育支援プログラム」

「教育支援?」

「発展途上国の子供たちに、質の高い教育を提供するプロジェクトなんだ」

健一の仕事も、社会貢献の色合いを強めていた。

ある日、家族四人で大切な話をした。

「健太も美咲も、もうすぐ大人になるのね」

「そうですね」

健太が答えた。

「振り返ってみると、私たちの家族は本当に特別な経験をしてきたわね」

「どのくらい特別?」

美咲が聞いた。

「世界中を家族で旅して、色んな文化に触れて、そして今こうして日本で暮らしている」

「確かに特別ですね」

健太が頷いた。

「でも僕たちにとっては、それが普通の生活でした」

「そうね。でもその『普通』が、実は多くの人にとっては『特別』なのよ」

健一が付け加えた。

「君たちは、世界市民として育った」

「世界市民?」

「どこの国にいても、その国の一員として生活できる人たちのことだ」

美咲が手を挙げた。

「みーちゃん、わかる。どこに行っても『ただいま』って言える感じ」

その表現に、私たちは感動した。

「そうよ、美咲。まさにその通り」

健太も深く頷いた。

「僕も同じ気持ちです。日本にいても、アメリカにいても、ドイツにいても、シンガポールにいても、どこでも家族がいれば家になる」

「素晴らしい価値観を身につけたのね」

その夜、健一と二人で話していた。

「美月、子供たちの成長を見てると、僕たちの決断は正しかったんだと思う」

「海外で暮らすという決断?」

「それもそうだけど、もっと根本的なこと」

「どんなこと?」

「恋人代行で出会った僕たちが、本当の愛を育てて家族を築いたこと」

その言葉に、改めて人生の不思議さを感じた。

「あの時、もし健一との関係を真剣に考えていなかったら」

「今の僕たちはなかった」

「健太も美咲も生まれていなかった」

「運命だったんだね」

しばらく静寂が続いた。

「美月、実は君に相談したいことがあるんだ」

「何ですか?」

「自伝を書いてみないかって、出版社から話があったんだ」

「自伝?」

「僕たち家族の物語。国際的な視点から見た現代の家族像として」

興味深い提案だった。

「でも」

「でも?」

「恋人代行のことは...」

「もちろん、その部分は慎重に扱う必要がある」

私は少し考えた。

「子供たちが大人になった時、もし知ったら?」

「その時は正直に話せばいい。愛の形は様々だということを」

確かに、私たちの関係は愛に変わった。それが一番大切なことだった。

「書いてみましょうか」

「本当に?」

「はい。私たちの物語が、誰かの希望になるかもしれません」

数ヶ月後、健太の大学受験の結果が出た。

「ママ、パパ、合格しました」

「おめでとう」

東京大学国際関係学部への合格。健太の夢への第一歩だった。

美咲も高校受験で、国際バカロレア校に合格していた。

「みーちゃんも、夢に向かって頑張る」

二人とも、それぞれの道を歩み始めようとしていた。

その夜、家族四人最後の食事会をした。

「健太がもうすぐ大学生なんて、信じられない」

「僕もです。でも楽しみです」

「美咲も高校生」

「みーちゃんも、お姉さんになる」

時の流れの速さを実感していた。

「でも」

健太が言った。

「家族の絆は変わりません」

「そうね」

「僕たちは世界のどこにいても、心は繋がっています」

美咲も頷いた。

「みーちゃんたち、世界家族」

子供たちの言葉に、涙がこぼれそうになった。

恋人代行から始まった関係が、今では世界中に愛を広げる家族になっている。

これ以上の幸せがあるだろうか。

「みんな、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」

私たちは手を取り合った。

愛する家族と過ごす時間が、人生で最も precious な宝物だった。

第45話 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。 その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。 全15話を予定

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

処理中です...