10 / 40
第10話「助手席で、恋に気づいた」
第10話「助手席で、恋に気づいた」
彼の車に乗るのは、これで三回目だった。
「ドライブでも行く?」
そう言われたとき、胸が少し跳ねたのを、私は必死に隠した。
付き合っているわけじゃない。
恋人でもない。
ただ、よく会って、よく話して、よく一緒に眠るだけの関係。
それなのに、助手席に座るとき、私は無意識に背筋を伸ばしてしまう。
「シート、寒くない?」
「大丈夫。ありがとう」
たったそれだけの会話なのに、心臓の音がうるさい。
窓の外は、少し郊外に出たせいか、建物が減って空が広い。
コンビニで買ったコーヒーを片手に、彼はハンドルを握っている。
横顔を盗み見る。
真剣な顔。
仕事のときと同じ、少し眉間にしわが寄った表情。
——あ、だめだ。
そう思った瞬間、胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
「……なに?」
視線に気づいたのか、彼がちらっとこちらを見る。
「なんでもない」
慌てて前を向く。
でも、心の中では、はっきりとした言葉が浮かんでしまっていた。
好きかもしれない。
否定しようとすればするほど、証拠ばかりが増えていく。
会えない日は、スマホを何度も見てしまう。
返信が来ると、それだけで一日が少し明るくなる。
一緒にいない時間でも、彼のことを考えている。
これって、もう。
「……ねえ」
私が声をかけると、彼は少し驚いたように「ん?」と返した。
「今、楽しい?」
聞いてから、なんて面倒くさい質問をしたんだろうと思った。
でも、取り消せない。
「楽しいよ」
即答だった。
「なんで?」
「なんでって……」
少し考えてから、彼は照れたように笑った。
「一緒にいて、楽だから」
その一言が、胸に落ちてきた。
嬉しい。
でも同時に、怖い。
もし私だけが、こんなふうに気持ちを大きくしていたら。
この関係が、壊れてしまったら。
目的地に着いたのは、川沿いの小さな公園だった。
ベンチに座って、しばらく何も話さず、流れる水を眺める。
沈黙が、気まずくない。
それが、もう特別だ。
「……泊まっていく?」
彼が、こちらを見ずに言った。
心臓が跳ねる。
「うん」
答えは、決まっていた。
ホテルに入ると、いつもより少し緊張している自分に気づく。
服を脱ぐ動作一つひとつが、妙に意識される。
キスは、いつもよりゆっくりだった。
触れる前に、確かめるみたいに、唇が重なる。
舌が絡むと、頭がぼんやりして、力が抜ける。
「……かわいい」
耳元でそう囁かれて、身体が熱くなる。
——そんなこと、言わないで。
心が追いついてしまう。
ベッドに倒されて、服の上から抱き寄せられる。
彼の体温が、じわじわと伝わってくる。
触れ方は、いつもと同じはずなのに。
なのに今日は、全部が特別に感じる。
キスされるたび、
触れられるたび、
「好き」という言葉が、喉まで上がってくる。
でも、言えない。
だって、まだ。
この関係は、名前がついていない。
終わったあと、彼の胸に顔をうずめる。
心音が、規則正しく響く。
「……ねえ」
小さく呼ぶと、彼は髪を撫でてくれた。
「なに?」
「このまま……ずっと一緒だったら、どうする?」
冗談みたいな言い方をした。
でも、答えが欲しかった。
彼は少し黙ってから、私の背中に腕を回す。
「そのときは、そのとき考える」
優しいけど、曖昧な答え。
それでも、離れようとはしない腕が、今は救いだった。
——好きになっちゃったな。
認めた瞬間、胸が少し痛くなった。
でも、不思議と後悔はなかった。
助手席で見た横顔も、
さっきの不器用な優しさも、
全部ひっくるめて。
この恋が、どこへ向かうのか分からないけど。
少なくとも今は、
彼の隣にいたい。
そう、はっきり思ってしまった夜だった。
彼の車に乗るのは、これで三回目だった。
「ドライブでも行く?」
そう言われたとき、胸が少し跳ねたのを、私は必死に隠した。
付き合っているわけじゃない。
恋人でもない。
ただ、よく会って、よく話して、よく一緒に眠るだけの関係。
それなのに、助手席に座るとき、私は無意識に背筋を伸ばしてしまう。
「シート、寒くない?」
「大丈夫。ありがとう」
たったそれだけの会話なのに、心臓の音がうるさい。
窓の外は、少し郊外に出たせいか、建物が減って空が広い。
コンビニで買ったコーヒーを片手に、彼はハンドルを握っている。
横顔を盗み見る。
真剣な顔。
仕事のときと同じ、少し眉間にしわが寄った表情。
——あ、だめだ。
そう思った瞬間、胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
「……なに?」
視線に気づいたのか、彼がちらっとこちらを見る。
「なんでもない」
慌てて前を向く。
でも、心の中では、はっきりとした言葉が浮かんでしまっていた。
好きかもしれない。
否定しようとすればするほど、証拠ばかりが増えていく。
会えない日は、スマホを何度も見てしまう。
返信が来ると、それだけで一日が少し明るくなる。
一緒にいない時間でも、彼のことを考えている。
これって、もう。
「……ねえ」
私が声をかけると、彼は少し驚いたように「ん?」と返した。
「今、楽しい?」
聞いてから、なんて面倒くさい質問をしたんだろうと思った。
でも、取り消せない。
「楽しいよ」
即答だった。
「なんで?」
「なんでって……」
少し考えてから、彼は照れたように笑った。
「一緒にいて、楽だから」
その一言が、胸に落ちてきた。
嬉しい。
でも同時に、怖い。
もし私だけが、こんなふうに気持ちを大きくしていたら。
この関係が、壊れてしまったら。
目的地に着いたのは、川沿いの小さな公園だった。
ベンチに座って、しばらく何も話さず、流れる水を眺める。
沈黙が、気まずくない。
それが、もう特別だ。
「……泊まっていく?」
彼が、こちらを見ずに言った。
心臓が跳ねる。
「うん」
答えは、決まっていた。
ホテルに入ると、いつもより少し緊張している自分に気づく。
服を脱ぐ動作一つひとつが、妙に意識される。
キスは、いつもよりゆっくりだった。
触れる前に、確かめるみたいに、唇が重なる。
舌が絡むと、頭がぼんやりして、力が抜ける。
「……かわいい」
耳元でそう囁かれて、身体が熱くなる。
——そんなこと、言わないで。
心が追いついてしまう。
ベッドに倒されて、服の上から抱き寄せられる。
彼の体温が、じわじわと伝わってくる。
触れ方は、いつもと同じはずなのに。
なのに今日は、全部が特別に感じる。
キスされるたび、
触れられるたび、
「好き」という言葉が、喉まで上がってくる。
でも、言えない。
だって、まだ。
この関係は、名前がついていない。
終わったあと、彼の胸に顔をうずめる。
心音が、規則正しく響く。
「……ねえ」
小さく呼ぶと、彼は髪を撫でてくれた。
「なに?」
「このまま……ずっと一緒だったら、どうする?」
冗談みたいな言い方をした。
でも、答えが欲しかった。
彼は少し黙ってから、私の背中に腕を回す。
「そのときは、そのとき考える」
優しいけど、曖昧な答え。
それでも、離れようとはしない腕が、今は救いだった。
——好きになっちゃったな。
認めた瞬間、胸が少し痛くなった。
でも、不思議と後悔はなかった。
助手席で見た横顔も、
さっきの不器用な優しさも、
全部ひっくるめて。
この恋が、どこへ向かうのか分からないけど。
少なくとも今は、
彼の隣にいたい。
そう、はっきり思ってしまった夜だった。
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
女子小学五年生に告白された高校一年生の俺
think
恋愛
主人公とヒロイン、二人の視点から書いています。
幼稚園から大学まである私立一貫校に通う高校一年の犬飼優人。
司優里という小学五年生の女の子に出会う。
彼女は体調不良だった。
同じ学園の学生と分かったので背負い学園の保健室まで連れていく。
そうしたことで彼女に好かれてしまい
告白をうけてしまう。
友達からということで二人の両親にも認めてもらう。
最初は妹の様に想っていた。
しかし彼女のまっすぐな好意をうけ段々と気持ちが変わっていく自分に気づいていく。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。