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文化祭の舞台裏
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文化祭の舞台裏
あのときの舞台裏の空気を、私は今もはっきり覚えている。
体育館のステージに続く薄暗い通路は、午後の光が届かず、どこかひんやりしていた。
でも、私の胸の中は、そんな冷たさとは逆に熱くて落ち着かなかった。
演劇部の部長として、文化祭の舞台で主演を務めることになった私は、この一か月、毎日のように練習を重ねてきた。
そのたびに、顧問の高橋先生はいつも遅くまで私に付き合ってくれた。
「セリフは覚えてても、感情が乗ってない。君の声はもっと響くはずだ」
何度もそう言われて、何度もやり直した。
でも、本当は、感情が乗らない理由は分かっていた。
――目の前にいる先生のことを、好きになってしまっていたからだ。
舞台の前日。最後の通し稽古を終えて、みんなが帰ったあと、私は小道具の確認をしていた。
舞台袖に並んだ衣装や照明のコード、使い古した脚立。
そのすぐ後ろから、先生の声がした。
「もう遅い。君もそろそろ帰らないと」
振り向くと、先生は私のマフラーを持って立っていた。
「忘れ物」
そう言って手渡してくれたとき、私の指先と先生の手が一瞬触れた。
その温もりに、心臓が跳ねる。
「……先生」
思わず名前を呼んでしまう。
先生は首をかしげながらも、私の顔をまっすぐ見つめてきた。
「緊張してるのか?」
「……はい。でも、練習よりも、先生と二人きりになるほうが緊張します」
自分でも驚くくらい、正直な言葉が口からこぼれた。
先生の瞳が一瞬揺れた気がした。
沈黙のあと、先生は少し低い声で言った。
「……君の芝居、ずっと見ていたよ。最初は部員として。でも、気づいたら、それ以上の意味で見てしまっていた」
その言葉に、息が止まった。
頭が真っ白になる。
舞台の台本ではなく、現実の私が、先生の口からこんなセリフを聞くなんて。
距離が近づく。
舞台袖の暗がりの中、先生の吐息がかすかに頬に触れる。
思わず目を閉じかけたその瞬間――
「……明日の本番が終わったら、ちゃんと話そう」
先生はそう言って、私の髪をそっと撫でた。
触れた指先はやさしく、それでいて、何かを我慢しているように感じられた。
私は小さくうなずき、何も言えなかった。
それ以上言葉を交わしたら、明日の舞台に立てなくなる気がしたから。
――翌日。
満員の体育館で、私たちの芝居は始まった。
セリフを言うたびに、袖で見守る先生の視線を感じる。
最後のシーン、涙をこらえながら笑う演技は、本当に泣きそうになるのを必死で押さえていた。
カーテンコールが終わり、拍手の余韻が残る中、私は袖に戻った。
そこには、昨日と同じ暗がりの中で立つ先生がいた。
その顔には、観客の前では見せない、優しい笑みが浮かんでいた。
――あの舞台裏での視線と、手のぬくもり。
あれは、私だけが知っている、文化祭の本当の思い出だ。
あのときの舞台裏の空気を、私は今もはっきり覚えている。
体育館のステージに続く薄暗い通路は、午後の光が届かず、どこかひんやりしていた。
でも、私の胸の中は、そんな冷たさとは逆に熱くて落ち着かなかった。
演劇部の部長として、文化祭の舞台で主演を務めることになった私は、この一か月、毎日のように練習を重ねてきた。
そのたびに、顧問の高橋先生はいつも遅くまで私に付き合ってくれた。
「セリフは覚えてても、感情が乗ってない。君の声はもっと響くはずだ」
何度もそう言われて、何度もやり直した。
でも、本当は、感情が乗らない理由は分かっていた。
――目の前にいる先生のことを、好きになってしまっていたからだ。
舞台の前日。最後の通し稽古を終えて、みんなが帰ったあと、私は小道具の確認をしていた。
舞台袖に並んだ衣装や照明のコード、使い古した脚立。
そのすぐ後ろから、先生の声がした。
「もう遅い。君もそろそろ帰らないと」
振り向くと、先生は私のマフラーを持って立っていた。
「忘れ物」
そう言って手渡してくれたとき、私の指先と先生の手が一瞬触れた。
その温もりに、心臓が跳ねる。
「……先生」
思わず名前を呼んでしまう。
先生は首をかしげながらも、私の顔をまっすぐ見つめてきた。
「緊張してるのか?」
「……はい。でも、練習よりも、先生と二人きりになるほうが緊張します」
自分でも驚くくらい、正直な言葉が口からこぼれた。
先生の瞳が一瞬揺れた気がした。
沈黙のあと、先生は少し低い声で言った。
「……君の芝居、ずっと見ていたよ。最初は部員として。でも、気づいたら、それ以上の意味で見てしまっていた」
その言葉に、息が止まった。
頭が真っ白になる。
舞台の台本ではなく、現実の私が、先生の口からこんなセリフを聞くなんて。
距離が近づく。
舞台袖の暗がりの中、先生の吐息がかすかに頬に触れる。
思わず目を閉じかけたその瞬間――
「……明日の本番が終わったら、ちゃんと話そう」
先生はそう言って、私の髪をそっと撫でた。
触れた指先はやさしく、それでいて、何かを我慢しているように感じられた。
私は小さくうなずき、何も言えなかった。
それ以上言葉を交わしたら、明日の舞台に立てなくなる気がしたから。
――翌日。
満員の体育館で、私たちの芝居は始まった。
セリフを言うたびに、袖で見守る先生の視線を感じる。
最後のシーン、涙をこらえながら笑う演技は、本当に泣きそうになるのを必死で押さえていた。
カーテンコールが終わり、拍手の余韻が残る中、私は袖に戻った。
そこには、昨日と同じ暗がりの中で立つ先生がいた。
その顔には、観客の前では見せない、優しい笑みが浮かんでいた。
――あの舞台裏での視線と、手のぬくもり。
あれは、私だけが知っている、文化祭の本当の思い出だ。
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