ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

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家族に言えない恋をしていた

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家族に言えない恋をしていた

――俺はずっと、家族に言えない恋をしていた。

高校二年の春。放課後の図書室は、勉強する生徒よりも、ただ静けさを求める生徒の方が多い。俺もその一人だったけど、その日、窓際の席で本を読んでいた“彼”に気づいてしまった。

同じクラスのユウキ。物静かで、授業中も目立たない。けれど、背筋を伸ばして座る姿や、指先でページをめくる仕草に、なぜか心臓が高鳴った。女子に恋をするのが“普通”だとわかっている。でも、俺の目は彼から離れなかった。

勇気を出して声をかけたのは、三日後のことだ。「その本、面白い?」それが始まりだった。返ってきた声は少し低くて落ち着いていて、耳に残った。

それから、図書室で顔を合わせるたびに、少しずつ言葉を交わすようになった。周囲に隠すように、小声で。誰かに聞かれたら困るようなことをしているわけじゃないのに、妙に後ろめたさを感じていた。

夏になる頃には、放課後に二人で寄り道をするようになった。コンビニでアイスを買って、公園で食べる。それだけのことなのに、俺にとっては一日の中で一番大事な時間になっていた。

「ねえ、カズヤは……その、好きな人とかいないの?」
ある日、ユウキが少し照れた顔でそう聞いてきた。心臓が一気に跳ねた。俺は息を整えてから、嘘をついた。「いないよ」
本当は“目の前にいる”のに。怖くて言えなかった。



秋の文化祭。俺たちはクラスの出し物で一緒に準備をした。夜遅くまで残って、装飾を仕上げる。誰もいなくなった教室に二人だけが残ったとき、ユウキがふいに言った。

「俺さ……カズヤのこと、特別に思ってる」

息が止まりそうになった。俺も同じ気持ちだったから。でも同時に、頭の奥で「言っちゃいけない」「認めちゃいけない」と声が響いていた。

「……俺も」
声にした瞬間、ユウキは安心したように微笑んで、机の上に置いた俺の手に自分の手を重ねた。指先から全身に電流が走るような感覚。震えながらも、俺はその温もりを受け止めた。

その夜、帰り道の公園で、初めてキスをした。唇が触れ合うだけの、ぎこちないもの。それでも俺にとっては世界がひっくり返るほどの出来事だった。胸の奥が熱くて、涙が出そうだった。



それから俺たちは、誰にも言えない関係を続けた。LINEでやり取りをし、休日には遠い街まで出かけて、手を繋いだ。知らない人の中なら、少しだけ自由になれる気がした。

冬のある日、ユウキの部屋に呼ばれた。両親が留守だから、と。ドキドキしながら玄関をくぐると、二人きりの空気に押しつぶされそうになった。

「……来てくれて、ありがとう」
ユウキはぎこちなく笑い、俺にお茶を出してくれた。しばらくゲームをしたり、音楽を聴いたりして過ごしたけど、心臓の鼓動はずっと早いままだった。

気づけば、ベッドに並んで座っていた。距離はどんどん近づき、自然に抱き合った。彼の体温が伝わってきて、抗えなかった。唇を重ね、やがて服を脱ぎ合った。震える手で触れ合い、初めてを分かち合った。

痛みも、恥ずかしさもあった。でもそれ以上に、「彼を愛している」という確信が溢れて止まらなかった。



だけど、現実は残酷だった。俺の家族は厳格で、恋愛は“結婚”に結びつくものだと信じている。男同士なんて、絶対に受け入れられない。ユウキの家も同じだった。

「このままでいいのかな……」
ユウキがつぶやいたのは、三学期のある日だった。卒業が近づくにつれて、不安が大きくなっていたのだろう。俺も同じだった。大学進学、就職、家族。未来の話をすると、どちらかが泣きそうになった。

卒業式の日。校門の前で写真を撮る友達の笑い声の中、俺たちは人目を避けて体育館裏にいた。ユウキが震える声で言った。

「カズヤ……俺、本当は、家族に言いたいんだ。君の隣に立ちたい」

胸が締めつけられた。怖かった。でも、彼の真剣な瞳を見て、逃げられなかった。

「……俺もだよ」

涙があふれて、二人で抱き合った。未来がどうなるかなんてわからない。家族に拒絶されるかもしれない。それでも――俺はユウキの手を離さないと決めた。

誰にも言えなかった恋。でも、これからは。

「一緒に、乗り越えていこう」

その言葉に、ユウキは泣きながら笑った。俺たちの秘密は、もう秘密じゃなくなる。
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