ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

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恋人になったら、勉強が手につかなくなった

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恋人になったら、勉強が手につかなくなった

 僕は昔から、勉強だけは得意だった。
 部活もせず、休日も塾や図書館にこもって、ただ問題集と向き合ってきた。将来は一流大学に進学して、安定した会社に勤める。それが僕の道だと信じて疑わなかった。

 ――彼女に出会うまでは。

 ミナ。クラスの中心にいるような存在で、明るくて誰にでも優しい。そんな彼女が、ある日突然、僕に話しかけてきた。

 「ねえ、ユウトってさ、ノートめっちゃ綺麗にまとめるよね。今度、テスト前に見せてもらってもいい?」

 それがきっかけだった。放課後、一緒に図書室で勉強するようになり、やがて帰り道も重なって……気づけば、僕らは恋人になっていた。

 最初は夢みたいで、信じられなかった。地味で真面目な僕が、あんな眩しい女の子に好かれるなんて。

 でも、恋人になってから、生活は一変した。

 「ねえ、今日寄り道して帰ろうよ」
 「勉強しなくて大丈夫?」
 「大丈夫、大丈夫! ユウトは頭いいんだから」

 笑顔で手を引かれると、断れなかった。
 マックでポテトをつまみ合い、ゲームセンターでプリクラを撮り、公園のベンチで缶コーヒーを分け合った。

 それは初めて知る世界で、楽しくて仕方なかった。だけど、その分だけ、勉強から離れていった。

 気づけば、模試の成績が下がっていた。
 先生に呼び出され、「このままでは第一志望は厳しい」と告げられる。

 その夜、机に向かっても、文字が頭に入ってこなかった。
 スマホに届く彼女からの「会いたい」の文字ばかりが、ちらついて。

 「ユウト、元気ないね」

 ある日、彼女にそう言われた。放課後、静かな教室で二人きりになったときだ。

 「……ごめん。最近、勉強が全然手につかなくて」

 「それ、私のせい?」

 ミナの声が少し震えていた。僕は慌てて首を振った。
 「違うよ! ただ……君といると楽しくて、未来のことを考えるのが怖くなるんだ」

 自分でも情けないと思った。けれど、それが本音だった。

 ミナはしばらく黙っていた。そして、ふっと笑った。
 「ユウト、バカだな。私、未来から逃げようなんて思ってないよ。むしろ一緒に行きたいんだよ」

 そう言って、彼女は僕の手を握った。小さな手が、驚くほど温かかった。

 「だからさ……一緒に頑張ろ? 勉強だって恋だって、両方大事にしたいんだ」

 その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなった。

 その日、僕たちは初めて深く触れ合った。
 夕暮れの教室、カーテンが揺れる中で、彼女がそっと僕に顔を近づける。

 「……ユウトのこと、もっと知りたい」

 触れた唇は甘く、震えるほど熱かった。制服の布越しに感じる体温。彼女の吐息が首筋にかかり、理性が揺らぐ。

 未熟で、不器用で、でも全力で――僕らは互いの存在を確かめ合った。

 その夜、机に向かうと、不思議なくらい集中できた。
 「ミナと一緒に未来を歩くために頑張る」
 そう思ったら、参考書の文字がすっと頭に入ってきた。

 数か月後。合格発表の日、掲示板の前で、僕らは一緒に自分の番号を探した。

 「……あった! ユウト!」
 「ミナも! やったな!」

 泣き笑いの顔で抱き合った彼女の温もりを、今も覚えている。

 あの日、僕は学んだ。
 恋は確かに勉強の邪魔になる。だけど、同時に、頑張る理由にもなれる。

 ――恋人になったら、勉強が手につかなくなった。
 でもそれは、僕にとって最高の青春の始まりだった。
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