ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

文字の大きさ
66 / 105

あいつが、また違う女の子と笑っていた。

しおりを挟む
あいつが、また違う女の子と笑っていた。

毎週のことだ。
クラスの窓際で、必ず隣に誰かがいる。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。

「もう慣れなきゃ」
そう自分に言い聞かせるけど、無理だ。
慣れるどころか、目にするたびに心がざわつく。

放課後、図書室で小声でつぶやく。
「…やっぱり、慣れたくない」

背後から、軽やかな足音。
「また見てたな」

幼なじみの大輔が笑いながら近づいてきた。
クラスの中での俺の沈んだ顔を、全部読まれていたみたいだ。

「……うるさい」

小さく吐き捨てるけど、赤くなる自分の頬が悔しい。
大輔はそれを見て、目を細める。

「だったらさ…慣れる前に、俺が隣にいるよ」

耳が痛くなるほどの甘い言葉。
“ふり”じゃなくて、本当に心に刺さる。

「は…?」

「ほら、今日だけでもいい。
誰もいないみたいに、俺が君の隣にいる」

恥ずかしさとドキドキが混ざって、息が浅くなる。
その顔を見て、大輔はにっこり笑う。

「いいのか?」

「…いい」

声が震えるのを、必死に押さえる。

帰り道。
学校の門を出た瞬間、冷たい風に体が震える。
でも、隣に大輔がいるだけで、心がぽかぽかする。

「手、つなぐ?」

無言で頷くと、彼の手がそっと重なる。
温かくて、力強くて、守られている感覚がした。

「…あいつのこと、まだ考えてる?」

心臓が跳ねる。
「……少し」

「ふふっ、それでいい。
全部隠さなくていいんだ」

大輔は俺の手を握り直し、指の隙間に指を滑り込ませる。
小さなぬくもりが、胸まで届く。

「…ねぇ」

小声で囁く。
その唇が、耳に近づいて…熱い吐息を感じた。

「……大輔」

「ん?」

「それ、…ふり、だよね?」

「もちろん。でも、俺は……」

突然、ぎゅっと抱き寄せられる。
体が密着して、頬が触れる距離。

「ふりのはずなのに、君が一番欲しい」

胸が苦しくなる。
今まで抑えてきた感情が、一気に溢れそうになる。

「…もう、ふりじゃなくてもいい」

息が、唇が、指先が、すべて繋がる。
小さく震える手を握り返す。
肌が触れた瞬間、心も体も、すべてが震えた。

「俺の隣、居心地いいだろ?」

「……うん」

その声は、確かに俺だけに向けられたものだった。
他の誰でもなく、大輔のもの。

夜になっても、心臓は落ち着かない。
でも不安じゃない。
あいつが誰と笑っていようと、関係ない。

「もう慣れたくない」
そう言った俺に、大輔は笑って手を握り返す。

「じゃあ、これからもずっと隣にいるよ」

約束された温もり。
その手を握り返しながら、静かに誓った。

──未熟な恋心でも、代わりの関係でも、
今はそれで十分だ。

隣に、大輔がいるだけで、世界は輝いて見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

処理中です...