ひとつの恋、いくつもの物語【学生純愛短編集】

山田森湖

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雨の日、傘を忘れた私に声をかけてくれた

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雨の日、傘を忘れた私に声をかけてくれた


空は厚い灰色の雲に覆われ、朝からざあざあと雨が降り続いていた。
私は傘を忘れ、教室から出た瞬間に濡れ始めた制服の袖を握りしめた。
冷たい雨が髪を濡らし、頬を伝う。誰もいない校門前で、途方に暮れる。

「……最悪だ、今日に限って」

雨音が大きすぎて、私の小さな呟きはかき消される。
そのとき、背後から声が聞こえた。

「……入る?」

振り向くと、雨に濡れた制服姿の男子が立っていた。
彼はいつも通りの笑顔を見せながら、片手に大きな傘を持っている。
──白石拓也だ。クラスメイトで、少し年上に見えるその落ち着いた雰囲気と、何でもない優しさに、私は少し胸が高鳴った。

「え……うん、ありがとう」
私は素直に傘に入った。狭い傘の中で、体が触れ合う。肩が軽くぶつかり、心臓が跳ねる。

「濡れちゃったね」
「うん……でも、これで助かった」
雨音にかき消されそうな声で、互いに笑った。

傘を差しながら、二人で歩く帰り道。
狭い空間に自然と体が寄る。腕と腕が軽く触れるたび、心臓が暴れる。
「……ねぇ、いつもこんなに優しいの?」
思わず、私は小さな声で聞いた。

彼は少し照れくさそうに笑い、答えた。
「そんなことないよ。でも、君が困ってるの見たら、ほっとけなかっただけ」

その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
「……ありがとう」
言いながら、私はそっと手を彼の腕に触れた。

雨は小降りになってきた。
近くの公園を抜けると、背後に水たまりがある。
拓也が私の手を軽く握った。
「ここ、気をつけて」

その瞬間、手の温もりが腕から肩、胸の奥まで伝わる。
私は思わず息を止め、彼を見上げた。

「……大丈夫だよ」
彼は微笑みながら、そっと私の頬に手を添える。
指先の温かさに、私は心の奥まで溶かされそうだった。

狭い傘の中、雨音と呼吸のリズムが重なり、言葉はほとんど必要なかった。
ただ、触れ合う距離で、互いの存在を感じていた。

学校の門を出るころには、雨はほとんど上がっていた。
私たちは並んで歩きながら、自然と手をつないでいた。

「……ねぇ、次からはちゃんと傘持ってきてね」
「うん……でも、君とこうやって帰れるなら、たまには忘れてもいいかも」

少し照れた声で言う彼に、私は心の中で笑った。
「……じゃあ、また一緒に帰ろうね」

その日、雨の匂いと少し甘い距離感が、私たちの心に刻まれた。
偶然の出会いが、こんなに胸を高鳴らせるなんて思わなかった。

帰り道、傘の先端から落ちる雫が、足元の水たまりに跳ねる。
でも、私の胸の中は、雨以上に熱く、甘い予感で満たされていた。

──彼と歩くこの距離が、これからもずっと続くように。
私は自然と、そんな未来を思い描いていた。
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