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「グレイス・エルメラルド――おまえとの婚約を、ここに破棄する」
わずかに揺れるシャンデリアの光が、大広間を冷ややかに照らしていた。
「……っ、今、なんと仰いましたか?」
グレイスは目の前の王太子ハロルドを見上げる。突きつけられた言葉があまりにも非情で、耳が信じられない。
「聞こえなかったのか? おまえとの婚約は終わりだ。今後、王太子妃となる資格はない」
場に居合わせた貴族たちが、囁き合いながら離れていく。まるで厄介事に巻き込まれたくないとでも言うかのように、皆が距離を取った。
「殿下、急にどうして……私は、ずっと殿下のために尽くしてきました。何か誤解があるのでは?」
グレイスの瞳がうるんで、必死に誠意を訴える。それでもハロルドの表情は変わらない。
「誤解などではない。……おまえはこれまで、様々な非道を働いたと聞いている。皆もそう証言しているのだ。これ以上は許しておけない」
言葉の背後には、取り繕ったような冷たさが感じられた。グレイスは一瞬、言葉を失う。
「私は……そんなこと、決してしていません。嘘だと言うのですか?」
カツ、カツという靴音が遠くから聞こえた。噂好きな貴婦人たちが、好奇の視線を送っている。
「この場で言い争うつもりはない。おまえは自らの行いを反省し、すみやかに宮廷を出るがいい」
ハロルドが背を向ける。握りしめた拳が見えたが、その内心をグレイスはうかがい知ることができない。
「殿下、信じてください。私は何も……」
無情な沈黙が続いた後、ハロルドは護衛の騎士たちとともに去っていく。取り残されたグレイスは気丈に立ち尽くした。
「……失礼します、グレイス様」
使用人の小さな声が聞こえた。周囲をはばかるように侍女が近寄る。
「事情は存じませんが、馬車が出されました。早めにご退出を、と」
グレイスは大広間をゆっくりと見回す。冷たい視線、遠ざかる人々――まるで自分こそが罪人だと決めつけられているかのようだった。
「……そう、わかったわ」
心の底に重たい痛みが広がる。幼い頃から王太子に尽くしてきたというのに、まさかこんな場で婚約破棄を言い渡されるとは。胸が締めつけられて、まともに息ができない。
「グレイス様、私もご一緒に……」
小声で寄り添おうとする侍女を、グレイスはそっと止めるように手を振る。
「ありがとう。でも、あなたまで巻き込むわけにはいかない。私はすぐにここを出ます」
もう誰も信じてくれない。そう思うと、涙がこぼれそうだったが、必死でこらえる。公爵令嬢としての誇りが、倒れそうな身をかろうじて支えていた。
「……婚約破棄。こんな形で終わるなんて」
その呟きは、自らに向けたもののようでもあり、いまだ遠ざかりきらない王太子の背中に向けたもののようでもあった。
礼服の裾を静かに摘み、グレイスは足早に城を出る。王宮の門が重々しく閉じられる音がして、彼女はもう二度と戻れない場所に来てしまったのだと悟る。
夜の帳がおりる直前、グレイスの瞳からは一筋の涙が零れ落ちた。けれども、それを拭う前に彼女は深い息をついて背筋を伸ばす。
「エルメラルド家の令嬢として、堂々と振る舞わないと……」
どれだけ打ちのめされても、グレイスの中には気高い意志がまだ燃えていた。
わずかに揺れるシャンデリアの光が、大広間を冷ややかに照らしていた。
「……っ、今、なんと仰いましたか?」
グレイスは目の前の王太子ハロルドを見上げる。突きつけられた言葉があまりにも非情で、耳が信じられない。
「聞こえなかったのか? おまえとの婚約は終わりだ。今後、王太子妃となる資格はない」
場に居合わせた貴族たちが、囁き合いながら離れていく。まるで厄介事に巻き込まれたくないとでも言うかのように、皆が距離を取った。
「殿下、急にどうして……私は、ずっと殿下のために尽くしてきました。何か誤解があるのでは?」
グレイスの瞳がうるんで、必死に誠意を訴える。それでもハロルドの表情は変わらない。
「誤解などではない。……おまえはこれまで、様々な非道を働いたと聞いている。皆もそう証言しているのだ。これ以上は許しておけない」
言葉の背後には、取り繕ったような冷たさが感じられた。グレイスは一瞬、言葉を失う。
「私は……そんなこと、決してしていません。嘘だと言うのですか?」
カツ、カツという靴音が遠くから聞こえた。噂好きな貴婦人たちが、好奇の視線を送っている。
「この場で言い争うつもりはない。おまえは自らの行いを反省し、すみやかに宮廷を出るがいい」
ハロルドが背を向ける。握りしめた拳が見えたが、その内心をグレイスはうかがい知ることができない。
「殿下、信じてください。私は何も……」
無情な沈黙が続いた後、ハロルドは護衛の騎士たちとともに去っていく。取り残されたグレイスは気丈に立ち尽くした。
「……失礼します、グレイス様」
使用人の小さな声が聞こえた。周囲をはばかるように侍女が近寄る。
「事情は存じませんが、馬車が出されました。早めにご退出を、と」
グレイスは大広間をゆっくりと見回す。冷たい視線、遠ざかる人々――まるで自分こそが罪人だと決めつけられているかのようだった。
「……そう、わかったわ」
心の底に重たい痛みが広がる。幼い頃から王太子に尽くしてきたというのに、まさかこんな場で婚約破棄を言い渡されるとは。胸が締めつけられて、まともに息ができない。
「グレイス様、私もご一緒に……」
小声で寄り添おうとする侍女を、グレイスはそっと止めるように手を振る。
「ありがとう。でも、あなたまで巻き込むわけにはいかない。私はすぐにここを出ます」
もう誰も信じてくれない。そう思うと、涙がこぼれそうだったが、必死でこらえる。公爵令嬢としての誇りが、倒れそうな身をかろうじて支えていた。
「……婚約破棄。こんな形で終わるなんて」
その呟きは、自らに向けたもののようでもあり、いまだ遠ざかりきらない王太子の背中に向けたもののようでもあった。
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夜の帳がおりる直前、グレイスの瞳からは一筋の涙が零れ落ちた。けれども、それを拭う前に彼女は深い息をついて背筋を伸ばす。
「エルメラルド家の令嬢として、堂々と振る舞わないと……」
どれだけ打ちのめされても、グレイスの中には気高い意志がまだ燃えていた。
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