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貴族サークルのパーティー会場は、豪奢な装飾に彩られ、明るい音楽が流れていた。開放的で華やかな雰囲気に包まれるはずが、ココナが足を踏み入れた瞬間、幾つもの視線が注がれる。
「……おや、フォルティア令嬢」
軽く会釈をして会場を見渡しても、挨拶を返してくれる者はまばらだった。中には笑みを向ける者もいるが、その笑みの裏で何を考えているかわからない。社交界とはそういう世界だ。
そのとき、奥まったところで立ち話をしていた一団から、ひときわ目立つ公爵令嬢の姿が視界に入る。上品にまとめた金色の髪が印象的なローレライ・グランディアだ。
「あ……ローレライ様」
声をかけようかどうか迷う。幼い頃、一緒にお茶会の真似事をした記憶があるが、大人になるにつれ、接点も減っていた。それでも、同じ歳頃の貴族令嬢として、互いに存在は知っている。
「……ココナ様?」
ローレライがココナの存在に気づき、微かに目を見開いた。周囲にいる友人たちも、その視線を辿るようにココナを見やる。嫌な静寂が流れた。
「婚約破棄の噂、ほんとうだったのね」
誰かが小声でそう呟いたのが聞こえる。ココナは何か返す言葉を探そうとするが、ローレライがすぐに近寄ってきた。
「ココナ様、今日は……大変でしたわね。お加減はいかがですか?」
その口調は優しい。だが、その優しさに甘えるわけにはいかない。ココナはぎこちなく微笑みながら、軽く頭を下げる。
「お気遣い感謝いたします。ですが、私は大丈夫ですわ」
内心、ローレライの素直な優しさが少し眩しく感じられた。かつては同じように笑い合える仲だったはずなのに、いつの間にか壁を感じるようになったのは、周囲がココナを“悪役令嬢”と呼び始めた頃からだろうか。
ローレライは微かなため息をつきながら、
「今は社交界の話題になってしまっているから……でも、あなたが悪いなんて私は思っていないの。むしろ何か理由があるんじゃないかと」
「ローレライ様、ありがとうございます」
ココナは唇をかみしめながら一礼する。婚約破棄について詳しい事情を話せるわけではないし、実際、彼女自身も納得などしていない。ただ、ここでローレライの優しい言葉を受け取れたことが、ほんの少し心を軽くしてくれた。
「ケーキ、召し上がって? 私、今日のパーティーのために張り切って作ったのよ」
そう言って目を輝かせるローレライ。彼女が菓子作りを趣味にしているのは知っていたが、実際に自作のケーキを持ってくるとは、よほどの腕前なのだろう。ココナは少し頬を緩め、
「楽しみにしています」
ほんの少しだけ昔の空気を取り戻したような気がした。この場にいる誰よりもローレライが自分に声をかけてくれる。それだけで、ココナには十分だった。
「……おや、フォルティア令嬢」
軽く会釈をして会場を見渡しても、挨拶を返してくれる者はまばらだった。中には笑みを向ける者もいるが、その笑みの裏で何を考えているかわからない。社交界とはそういう世界だ。
そのとき、奥まったところで立ち話をしていた一団から、ひときわ目立つ公爵令嬢の姿が視界に入る。上品にまとめた金色の髪が印象的なローレライ・グランディアだ。
「あ……ローレライ様」
声をかけようかどうか迷う。幼い頃、一緒にお茶会の真似事をした記憶があるが、大人になるにつれ、接点も減っていた。それでも、同じ歳頃の貴族令嬢として、互いに存在は知っている。
「……ココナ様?」
ローレライがココナの存在に気づき、微かに目を見開いた。周囲にいる友人たちも、その視線を辿るようにココナを見やる。嫌な静寂が流れた。
「婚約破棄の噂、ほんとうだったのね」
誰かが小声でそう呟いたのが聞こえる。ココナは何か返す言葉を探そうとするが、ローレライがすぐに近寄ってきた。
「ココナ様、今日は……大変でしたわね。お加減はいかがですか?」
その口調は優しい。だが、その優しさに甘えるわけにはいかない。ココナはぎこちなく微笑みながら、軽く頭を下げる。
「お気遣い感謝いたします。ですが、私は大丈夫ですわ」
内心、ローレライの素直な優しさが少し眩しく感じられた。かつては同じように笑い合える仲だったはずなのに、いつの間にか壁を感じるようになったのは、周囲がココナを“悪役令嬢”と呼び始めた頃からだろうか。
ローレライは微かなため息をつきながら、
「今は社交界の話題になってしまっているから……でも、あなたが悪いなんて私は思っていないの。むしろ何か理由があるんじゃないかと」
「ローレライ様、ありがとうございます」
ココナは唇をかみしめながら一礼する。婚約破棄について詳しい事情を話せるわけではないし、実際、彼女自身も納得などしていない。ただ、ここでローレライの優しい言葉を受け取れたことが、ほんの少し心を軽くしてくれた。
「ケーキ、召し上がって? 私、今日のパーティーのために張り切って作ったのよ」
そう言って目を輝かせるローレライ。彼女が菓子作りを趣味にしているのは知っていたが、実際に自作のケーキを持ってくるとは、よほどの腕前なのだろう。ココナは少し頬を緩め、
「楽しみにしています」
ほんの少しだけ昔の空気を取り戻したような気がした。この場にいる誰よりもローレライが自分に声をかけてくれる。それだけで、ココナには十分だった。
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