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パーティーも佳境に入る頃、ローレライの手作りケーキが会場に運び込まれた。鮮やかなクリームと上品な飾りつけで、見る者の目を楽しませる。
「わあ、すごく美味しそう」
「さすが公爵令嬢。手先が器用なのね」
歓声が上がり、人々が集まってくる。ローレライの友人らしき令嬢たちも「一緒に頂きましょう」と皿を差し出した。そんな中で、ココナは心中で少しだけ落ち着かない気分になっていた。
婚約破棄の話題がまだ燻っているせいか、周囲の視線は常に彼女を捉えているかのようだ。その視線に苛立ちを感じる自分が嫌で、つい言葉も荒くなりそうになる。
「ココナ様、どうかしら?」
ローレライが微笑みながら声をかける。ココナは皿にのせられた小さなケーキを見つめて、無理にでも微笑もうとした。
「……ええ、とても美味しそうです」
口に運ぼうとした瞬間、周囲からささやき声が聞こえてくる。「あの人、悪役令嬢らしいことをまたしないかしら」「王太子への未練で荒れているのかも」——そんな無責任な噂話が耳に飛び込む。
思わず、それらの声を払拭するかのように、ココナは余計なことを言ってしまう。
「まさか……こんなに美しいケーキに、毒なんて入ってませんわよね?」
場の空気が凍りついた。ローレライの表情が曇ったのがわかる。直後に自分の失言に気づき、ココナは青ざめた。
「あ……今のは、ただの冗談というか……」
慌てて取り繕おうとするも、時すでに遅し。周囲の令嬢たちは怪訝そうな顔をし、中には「何を言い出すの?」と眉を顰める者もいる。ローレライの瞳が揺れている。
「ココナ様、ひどいわ。それはいくらなんでも……」
ローレライを擁護する声が広がり始める。焦燥感に駆られたココナは、とっさに手を振ろうとした。その動作が大きすぎて、ケーキの皿を誤って床へ落としてしまう。
皿は鋭い音を立てて砕け散り、ケーキが無残に転がる。クリームが床に広がる中、スプーンが跳ね飛んだ。
「……あっ」
会場が一瞬にして静まり返った。ローレライのケーキを地面に叩きつけた形になり、周囲の人々は呆然としている。
「もう、悪役令嬢どころじゃないわ」
「これは意図的……?」
ざわざわと渦巻く声に、ココナは心臓が締めつけられるようだ。自分が何をしているのか、なぜこうなったのか、もはや理解できない。取り返しのつかない失態だった。
しかし、そのとき誰かが小さく叫んだ。
「なに、これ……色が……気味が悪い……」
床に散らばったケーキの生地の中に、異様な色をした粉末の塊が混じっているのだ。一見して、まるで毒々しい色彩。周囲から悲鳴が上がり、騒然となる。
「毒……? 本当に?」
ココナもそれを目にして背筋が凍った。まさかとは思うが、これは一体どういうことなのか。悪い冗談が、現実に姿を現したかのようで、言葉が出ない。
ローレライは顔を真っ青にして、
「嘘でしょ……私、そんなもの入れた覚えは……」
震える声が、会場に不穏な空気をさらに広げる。こうして“毒色”のケーキ事件は、最悪の形で幕を開けた。
「わあ、すごく美味しそう」
「さすが公爵令嬢。手先が器用なのね」
歓声が上がり、人々が集まってくる。ローレライの友人らしき令嬢たちも「一緒に頂きましょう」と皿を差し出した。そんな中で、ココナは心中で少しだけ落ち着かない気分になっていた。
婚約破棄の話題がまだ燻っているせいか、周囲の視線は常に彼女を捉えているかのようだ。その視線に苛立ちを感じる自分が嫌で、つい言葉も荒くなりそうになる。
「ココナ様、どうかしら?」
ローレライが微笑みながら声をかける。ココナは皿にのせられた小さなケーキを見つめて、無理にでも微笑もうとした。
「……ええ、とても美味しそうです」
口に運ぼうとした瞬間、周囲からささやき声が聞こえてくる。「あの人、悪役令嬢らしいことをまたしないかしら」「王太子への未練で荒れているのかも」——そんな無責任な噂話が耳に飛び込む。
思わず、それらの声を払拭するかのように、ココナは余計なことを言ってしまう。
「まさか……こんなに美しいケーキに、毒なんて入ってませんわよね?」
場の空気が凍りついた。ローレライの表情が曇ったのがわかる。直後に自分の失言に気づき、ココナは青ざめた。
「あ……今のは、ただの冗談というか……」
慌てて取り繕おうとするも、時すでに遅し。周囲の令嬢たちは怪訝そうな顔をし、中には「何を言い出すの?」と眉を顰める者もいる。ローレライの瞳が揺れている。
「ココナ様、ひどいわ。それはいくらなんでも……」
ローレライを擁護する声が広がり始める。焦燥感に駆られたココナは、とっさに手を振ろうとした。その動作が大きすぎて、ケーキの皿を誤って床へ落としてしまう。
皿は鋭い音を立てて砕け散り、ケーキが無残に転がる。クリームが床に広がる中、スプーンが跳ね飛んだ。
「……あっ」
会場が一瞬にして静まり返った。ローレライのケーキを地面に叩きつけた形になり、周囲の人々は呆然としている。
「もう、悪役令嬢どころじゃないわ」
「これは意図的……?」
ざわざわと渦巻く声に、ココナは心臓が締めつけられるようだ。自分が何をしているのか、なぜこうなったのか、もはや理解できない。取り返しのつかない失態だった。
しかし、そのとき誰かが小さく叫んだ。
「なに、これ……色が……気味が悪い……」
床に散らばったケーキの生地の中に、異様な色をした粉末の塊が混じっているのだ。一見して、まるで毒々しい色彩。周囲から悲鳴が上がり、騒然となる。
「毒……? 本当に?」
ココナもそれを目にして背筋が凍った。まさかとは思うが、これは一体どういうことなのか。悪い冗談が、現実に姿を現したかのようで、言葉が出ない。
ローレライは顔を真っ青にして、
「嘘でしょ……私、そんなもの入れた覚えは……」
震える声が、会場に不穏な空気をさらに広げる。こうして“毒色”のケーキ事件は、最悪の形で幕を開けた。
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