私との婚約、今日で終わりですか?

ともえなこ

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数日後、父リシュモンド伯爵が夜遅くに屋敷へ戻ってきた。王家への相談や公爵家との話し合いで疲れ果てた様子だ。

「ココナ、少し話がある。まだ起きているか?」

 部屋に灯りをともしていたココナの元へ、伯爵が声をかける。彼女はすぐにドアを開け、椅子を勧めた。

「お父様、お疲れのところ申し訳ありません。何か進展が……?」

「そうだな。必ずしもいい話ではないが、少なくとも状況は動いている」

 伯爵は深いため息をつく。蝋燭の揺らめく灯りに照らされた表情は複雑だった。ココナは黙って促すように目を合わせる。

「王妃陛下……フィリア様が、この件に非常に関心を示しているらしい。ケーキから見つかった粉末が毒かどうか、きちんと調べたいそうだ」

「王妃様が……?」

 ココナは驚く。アルトワーズ王太子の母である王妃は、ココナをあまり快く思っていないと噂されている存在だ。そんな人物が動くのは、どんな意図があるのだろう。

「正式に『王宮で検査を行うので、粉末やケーキの材料を提出するように』との通達があった。公爵家も協力する模様だ。……ただし、今のところお前は呼ばれていない」

「……私が?」

 ケーキを落とした当人であり、事件の一端を担ったココナが蚊帳の外に置かれている現状に、伯爵も忸怩たる思いがあるらしい。

「しかし、これで何かわかるかもしれない。少なくとも、お前が毒を仕込んだわけではないという証拠が出れば、世間も少しは黙るだろう」

「そう……ですね。私としても、真実が知りたいです」

 わずかに安堵を感じる。王宮が調査してくれれば、筋の通った結果が出るかもしれない。身の潔白を証明できれば、それが一番いいのだ。

「ココナ、お前は大丈夫か」

 伯爵が娘の顔を覗き込む。婚約破棄、さらに毒騒ぎがあったとはいえ、今はどれほど落ち込んでいるだろう。そう案じる父の眼差しに、ココナは少し微笑みを返した。

「うまく言えませんが、私……たとえ誰からどう言われようと、ちゃんと生きていきたい。悪役令嬢なんて呼ばれていても、ただ泣いているだけじゃ終われないです」

「……そうか」

 伯爵の口元にもわずかな笑みが浮かぶ。我が娘ながら、芯の強さを感じる瞬間だった。

「ならば私から言えることは一つだ。もし真実を知りたいなら、待っているだけでは何も始まらない。お前が自分で動くしかない」

「動く……」

「誰も事の真相を語ってはくれないだろう。ならば自分の目で見て、手で触れて、確かめればいい。名誉を守りたいなら尚のこと、行動しろ」

 その言葉は厳しくも、愛情に満ちていた。ココナは迷いの表情を浮かべながらも、胸の奥で何かが囁いているのを感じる。

「……はい、お父様」

 そう返事をすると、伯爵は少し安心した様子で部屋を出て行く。残されたココナは、夜の静寂の中で一人、決意の芽生えを確かめていた。
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