私との婚約、今日で終わりですか?

ともえなこ

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翌日の午後、意外にもローレライから手紙が届いた。その内容は、ケーキ事件のことを謝りたいというものだった。

「謝りたい……?」

 手紙には「あなたを巻き込んでしまった」とか、「あのような形でのトラブルになってしまったのは私の不注意でもある」と書かれていた。ココナにしてみれば、自分こそ失言とドジでローレライを傷つけたと思っているのだが、ローレライの優しさが伝わる文章だった。

「……会って話をしよう」

 そう決めたココナは、あまり目立たないように昼下がりの時間を選び、グランディア公爵家を訪問する。玄関先で迎えた執事に案内されると、ローレライは応接室で待っていた。

「ココナ様……いらしてくれたのですね」

 ローレライは、どこか弱々しい笑みを浮かべる。その表情には、やつれた様子がうかがえた。きっと彼女も今回の騒動で心労を抱えているのだろう。

「こちらこそ、あの日はごめんなさい。私が余計なことを言わなければ、こんな……」

「いいの、私も気を張っていたから。でも、本当にあの粉末は何だったのかしら。私、まさか毒なんて混ぜるわけがないし……」

 ローレライは頭を抱えるようにうつむく。あのケーキには自信があった——そう言わんばかりの落胆が見える。

「もし、どなたかが意図的に入れたのだとしたら、私たちは誰かに利用されたってことになるわ」

「利用、ですか。……ローレライ様が王太子妃になるために私を陥れたとか、そんな噂もあるけれど、私はあなたがそんなことをするはずがないと思ってる」

「ありがとう。私だって、ココナ様を疎ましく思ったことなど一度もないわ」

 二人は静かな空気の中で視線を交わす。昔はもっと些細なことでも話し合っていたのに、いつの間にか距離ができてしまっていた。それでも、根底にある友情のようなものは消えていなかったのかもしれない。

「ねえ、ココナ様。今後、どうなさるの?」

「……私もわからない。でも、黙って噂に振り回されているだけじゃ、もう耐えられない。だから、何か行動しようと思っているわ」

「行動って……ケーキ事件の真相を追う、ということ?」

「そう。もしかしたら、これが私にできる唯一の方法かもしれない」

 ローレライは少し驚いた様子でココナを見つめた。たしかに、普段のココナなら、自分から何かを追及するタイプには見えない。むしろ控えめで、人の視線を気にしがちな印象がある。

「私も協力できることがあれば言って。あんな騒動を起こしてしまったのは事実だから、責任を感じているわ」

 ローレライの瞳は真剣そのものだった。彼女もまた、毒を仕込まれた被害者なのだ。協力者がいるのは心強い。

「ありがとう、ローレライ様」

 こうして二人の想いが少しずつ近づき始める。この先どんな困難が待ち受けるのかはわからない。だが、自分から動こうと決意したココナにとって、ローレライの存在は大きな支えになるはずだった。
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