私との婚約、今日で終わりですか?

ともえなこ

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フォルティア伯爵邸に戻ると、ココナは早速入手した資料を執事や侍女たちと共に確認した。もっとも、公爵家から借りてきた文書には一部しか情報がなかったため、謎は深まるばかりだ。

「これは、商会の取引一覧のようですが、大半が一般的な仕入れ先との契約書。しかし、このページだけ名前が塗り潰されているのですね」

「ええ。たった一枚だけ、奇妙に修正が入っているんです」

 執事と顔を見合わせるココナ。そこには何かしら後ろ暗い事実があるのは間違いないだろう。問題は、それが誰の仕業なのかということだった。

「お嬢様、今後はいかがなさいますか。まだ直接動くには危険が伴うのでは……」

 控えめにそう提案する侍女たちの心配は理解できる。だが、ココナは決心を固めていた。

「私、行きます。実際に商会へ行って話を聞いてきたい。もし、どうしても相手が答えてくれないなら、やり方を変えるしかないわ」

「しかし、お嬢様。それは……」

「大丈夫。父も協力してくれると言っていました。念のため、私が一人で行くわけではありません」

 たしかにリシュモンド伯爵も、娘の安全には最大限配慮するはずだ。騎士を一人でも同行させれば、護衛の面でも少しは安心できるだろう。

「では、準備を整えましょう。明日にでもお嬢様を商会へお連れします」

「お願いします」

 執事が頭を下げると、ココナも丁寧に礼を返す。これが自分の人生で初めての“積極的な行動”かもしれないと思うと、不安よりも決意が勝った。

 夜になり、ココナはローレライにも書簡を送った。明日、商会に出向く旨と、もし都合が合えば一緒に行かないかという誘いだ。彼女の返事は、「できる限り協力したいが、父との約束があるので少し遅れそう」とのこと。

「わかりました。じゃあ、ローレライ様は後から合流できるかもしれないわね」

 口に出して独り言を呟きながら、ココナは明日の準備に取りかかる。これまで社交界を逃げるように生きてきた自分が、こんなに自発的に動くなんて、自分でも不思議な気持ちだ。

「でも……進まなきゃ、何も変わらない」

 そう思い、クローゼットから動きやすい服を選んで取り出す。明日は公爵令嬢らしい派手さを抑え、落ち着いた装いで臨もう。相手が警戒を解いてくれる可能性もある。

 窓の外を見れば、夜空は澄み渡り、月が柔らかい光を放っていた。かつてこの景色を眺めながら、王太子との未来を夢見たこともある。今はそうした淡い憧れではなく、現実を切り開くための挑戦が、胸の内を占めている。

「私がやらなきゃ、誰もやってくれない」

 弱音を吐きたい気持ちを押し殺し、ココナは静かに瞼を閉じた。初めての行動が、どのような結果を招くのか。躊躇や恐れはあるが、それ以上に“真実”への渇望が強い。

 眠りに落ちるまでの間、ココナはこれから起きる出来事を思い描き、明日への一歩に備え続けた。
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