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朝の光が差し込む書斎で、ココナはローレライから届いた手紙を読み耽っていた。そこには最近の調査で得た新たな情報が記されており、いよいよ事件が動き出しそうな気配がある。
「ケーキの材料を仕入れた商会が、王家にかなり近い立場の貴族と取引していたかもしれない……」
差出人まではわからないが、その“貴族”が今回の毒事件に絡んでいる可能性が高いとローレライは書いている。仮にそれが事実なら、王妃や王太子が何らかの形で利用されている可能性すら捨てきれない。
「私が疑われているのに、王家の人間が裏で糸を引いているなんて……そんなこと、本当にあるのかしら」
呟きながら、ココナは手紙をそっと畳む。疑惑の矛先が自分とは全く別の“何者か”に向かい始めているという安堵感よりも、王家に近い人物が関わっているという恐怖が勝っていた。
すると、部屋の扉が控えめにノックされ、侍女が顔を見せる。
「お嬢様、ローレライ様がお見えです。すぐにお通ししてよろしいでしょうか」
「ええ、お願い」
思ったよりも早い到着にココナは少し胸を高鳴らせる。先ほどの手紙に書かれていた情報を直接確かめようと、ローレライが訪問を決めたのかもしれない。
やがて通されたローレライは、軽く礼をして椅子に腰を下ろす。その表情は真剣そのもので、もはや笑みを浮かべる余裕もなさそうに見えた。
「ココナ様、少し込み入った話になるけれど……あの手紙で伝えた件について、さらに詳しい情報が入ったの」
「詳しい情報?」
「ええ。公爵家の従者が商会の関係者から聞き出したところ、取引先として名前を伏せている貴族は“王宮に出入りしている高位の方”らしいの。つまり、ある程度の爵位を持ち、しかも王家に近い立場にいる人」
「王妃陛下に仕える女官や、王子に仕える近衛騎士などの線は?」
「私もそれを考えたけれど、どうやらもっと直接的に王家と関わる貴族だというのよ。私たちが普段お見かけする場にも、当然いるはず」
ローレライの瞳には、不安と怒りが混じっていた。自分たちを毒騒動に巻き込み、悪者に仕立てようとしているのが、ごく近しい貴族である可能性が高い。しかも、このままいけば、王妃をはじめとする宮廷内の意向に飲み込まれてしまうかもしれない。
「じゃあ、その人物は事件後すぐに動いて、証拠を隠滅しようとしたのね。倉庫から人が消えていたのもそのせい……」
「そう思うのが自然ね。ケーキの粉末サンプルが盗まれたのも、その指示によるものかもしれない」
二人はしばし黙り込む。思い描けば描くほど、陰謀の根が深いことがわかり、背筋が寒くなる。自分たち“令嬢”の身分だけで、果たしてその黒幕を暴けるのか。そんな不安が頭をもたげた。
「夜会まで、もうあまり時間がないわ。あそこで何が起こるかもわからない。けれど、今この瞬間に諦めるわけにはいかない」
「私も同感よ。夜会の場で、王太子殿下や王妃陛下がどう動くか。そこにきっと、真相を掴むためのヒントがあるはず」
二人は視線を交わし合い、強い意志を確認する。婚約破棄から始まったこの苦難が、いつ終わるのかはわからない。それでも、貴族社会の闇に立ち向かう決意を固めるしか道はなかった。
疑惑の矛先は、王宮に深く繋がる“高位貴族”。今度こそ、その正体を突き止めるためにも、彼女たちは行動を止めない。誰かの手のひらで踊らされるだけの存在ではいたくなかった。
「ケーキの材料を仕入れた商会が、王家にかなり近い立場の貴族と取引していたかもしれない……」
差出人まではわからないが、その“貴族”が今回の毒事件に絡んでいる可能性が高いとローレライは書いている。仮にそれが事実なら、王妃や王太子が何らかの形で利用されている可能性すら捨てきれない。
「私が疑われているのに、王家の人間が裏で糸を引いているなんて……そんなこと、本当にあるのかしら」
呟きながら、ココナは手紙をそっと畳む。疑惑の矛先が自分とは全く別の“何者か”に向かい始めているという安堵感よりも、王家に近い人物が関わっているという恐怖が勝っていた。
すると、部屋の扉が控えめにノックされ、侍女が顔を見せる。
「お嬢様、ローレライ様がお見えです。すぐにお通ししてよろしいでしょうか」
「ええ、お願い」
思ったよりも早い到着にココナは少し胸を高鳴らせる。先ほどの手紙に書かれていた情報を直接確かめようと、ローレライが訪問を決めたのかもしれない。
やがて通されたローレライは、軽く礼をして椅子に腰を下ろす。その表情は真剣そのもので、もはや笑みを浮かべる余裕もなさそうに見えた。
「ココナ様、少し込み入った話になるけれど……あの手紙で伝えた件について、さらに詳しい情報が入ったの」
「詳しい情報?」
「ええ。公爵家の従者が商会の関係者から聞き出したところ、取引先として名前を伏せている貴族は“王宮に出入りしている高位の方”らしいの。つまり、ある程度の爵位を持ち、しかも王家に近い立場にいる人」
「王妃陛下に仕える女官や、王子に仕える近衛騎士などの線は?」
「私もそれを考えたけれど、どうやらもっと直接的に王家と関わる貴族だというのよ。私たちが普段お見かけする場にも、当然いるはず」
ローレライの瞳には、不安と怒りが混じっていた。自分たちを毒騒動に巻き込み、悪者に仕立てようとしているのが、ごく近しい貴族である可能性が高い。しかも、このままいけば、王妃をはじめとする宮廷内の意向に飲み込まれてしまうかもしれない。
「じゃあ、その人物は事件後すぐに動いて、証拠を隠滅しようとしたのね。倉庫から人が消えていたのもそのせい……」
「そう思うのが自然ね。ケーキの粉末サンプルが盗まれたのも、その指示によるものかもしれない」
二人はしばし黙り込む。思い描けば描くほど、陰謀の根が深いことがわかり、背筋が寒くなる。自分たち“令嬢”の身分だけで、果たしてその黒幕を暴けるのか。そんな不安が頭をもたげた。
「夜会まで、もうあまり時間がないわ。あそこで何が起こるかもわからない。けれど、今この瞬間に諦めるわけにはいかない」
「私も同感よ。夜会の場で、王太子殿下や王妃陛下がどう動くか。そこにきっと、真相を掴むためのヒントがあるはず」
二人は視線を交わし合い、強い意志を確認する。婚約破棄から始まったこの苦難が、いつ終わるのかはわからない。それでも、貴族社会の闇に立ち向かう決意を固めるしか道はなかった。
疑惑の矛先は、王宮に深く繋がる“高位貴族”。今度こそ、その正体を突き止めるためにも、彼女たちは行動を止めない。誰かの手のひらで踊らされるだけの存在ではいたくなかった。
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