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一方その頃、王宮の奥深くではアルトワーズ王太子が自室の窓辺に立ち尽くしていた。遠くに見える城下の灯りを眺めながら、いつになく沈んだ表情を浮かべている。
「殿下、夜も更けております。お身体に障りませんか」
側近の声に、アルトワーズは小さく首を振る。
「いい。少し考え事をしているだけだ」
そう言いながらも、その目はどこか悲しげだ。つい最近、婚約破棄という形でココナを遠ざけたばかり。だが、ケーキ事件の一連の流れを見聞きするうちに、自分が下した判断が本当に正しかったのか、疑念が消えないのだ。
「フォルティア伯爵令嬢の件ですが、王妃様は今回の夜会に招待をお出しになったようですね」
「ああ。……私から何を言えるわけでもない。すでに婚約は破棄されたのだから」
アルトワーズの声には複雑な感情が入り混じっている。政治的な思惑もあって、ココナとの縁談を断ち切る形を取った。それは国の安定を考慮した判断でもあったが、果たしてそれで良かったのか。
「殿下、もしかしてフォルティア令嬢に未練がおありですか」
側近が勇気を振り絞って問いかけると、アルトワーズは眉をひそめて視線をそらす。
「……わからない。ただ、あの子があんな形で中傷されるのは看過できないと思っている。それだけだ」
「王妃様は、フォルティア家よりもグランディア公爵家を推しておいでです。ローレライ様に殿下との縁を結ばせたいという話もありますが……」
アルトワーズは苦い顔をしたまま黙ってしまう。実際、ローレライは公爵令嬢としての品位や才能に恵まれ、王太子妃にふさわしい逸材だ。だが、彼の胸に去来するのは、かつての約束を守れなかったココナへの申し訳なさ。
王妃フィリアがローレライを推す理由は、王家の安定だけではないのかもしれない。そこに何かしらの権力争いが絡んでいるとすれば、ココナの婚約破棄はその一部に過ぎない可能性もある。
「殿下、失礼ながら、夜会ではフォルティア令嬢と顔を合わせることになるでしょう。その際、どのようにお振る舞いになるおつもりで?」
「……決まっている。婚約は解消した以上、余計な情を見せるわけにはいかない。それが私に与えられた立場というものだ」
アルトワーズは自分に言い聞かせるように言葉を発する。しかし、その表情は決して晴れやかではない。王太子という地位に縛られ、母である王妃の意向にも左右される宿命。それが重くのしかかり、ココナとの未来を手放したことへの後悔をまぶしている。
「……だが、もしフォルティアが本当に無実ならば、いずれ名誉を回復させねばならない。それが、私にできる最後の義務だろう」
その小さな呟きは、誰の耳にも届かない。夜風がカーテンを揺らし、アルトワーズの横顔を冷ややかに撫でていく。次にココナと再会するとき、どんな言葉を交わすのか——彼自身もまだ見つけられていなかった。
「殿下、夜も更けております。お身体に障りませんか」
側近の声に、アルトワーズは小さく首を振る。
「いい。少し考え事をしているだけだ」
そう言いながらも、その目はどこか悲しげだ。つい最近、婚約破棄という形でココナを遠ざけたばかり。だが、ケーキ事件の一連の流れを見聞きするうちに、自分が下した判断が本当に正しかったのか、疑念が消えないのだ。
「フォルティア伯爵令嬢の件ですが、王妃様は今回の夜会に招待をお出しになったようですね」
「ああ。……私から何を言えるわけでもない。すでに婚約は破棄されたのだから」
アルトワーズの声には複雑な感情が入り混じっている。政治的な思惑もあって、ココナとの縁談を断ち切る形を取った。それは国の安定を考慮した判断でもあったが、果たしてそれで良かったのか。
「殿下、もしかしてフォルティア令嬢に未練がおありですか」
側近が勇気を振り絞って問いかけると、アルトワーズは眉をひそめて視線をそらす。
「……わからない。ただ、あの子があんな形で中傷されるのは看過できないと思っている。それだけだ」
「王妃様は、フォルティア家よりもグランディア公爵家を推しておいでです。ローレライ様に殿下との縁を結ばせたいという話もありますが……」
アルトワーズは苦い顔をしたまま黙ってしまう。実際、ローレライは公爵令嬢としての品位や才能に恵まれ、王太子妃にふさわしい逸材だ。だが、彼の胸に去来するのは、かつての約束を守れなかったココナへの申し訳なさ。
王妃フィリアがローレライを推す理由は、王家の安定だけではないのかもしれない。そこに何かしらの権力争いが絡んでいるとすれば、ココナの婚約破棄はその一部に過ぎない可能性もある。
「殿下、失礼ながら、夜会ではフォルティア令嬢と顔を合わせることになるでしょう。その際、どのようにお振る舞いになるおつもりで?」
「……決まっている。婚約は解消した以上、余計な情を見せるわけにはいかない。それが私に与えられた立場というものだ」
アルトワーズは自分に言い聞かせるように言葉を発する。しかし、その表情は決して晴れやかではない。王太子という地位に縛られ、母である王妃の意向にも左右される宿命。それが重くのしかかり、ココナとの未来を手放したことへの後悔をまぶしている。
「……だが、もしフォルティアが本当に無実ならば、いずれ名誉を回復させねばならない。それが、私にできる最後の義務だろう」
その小さな呟きは、誰の耳にも届かない。夜風がカーテンを揺らし、アルトワーズの横顔を冷ややかに撫でていく。次にココナと再会するとき、どんな言葉を交わすのか——彼自身もまだ見つけられていなかった。
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