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夕刻、フォルティア伯爵邸に戻ったココナは、ローレライと別れたあとも何とも言えない胸騒ぎを覚えていた。商会の失踪、口をつぐむ街の人々、そして王家に近い黒幕の存在。すべてが交錯して、不安を掻き立てる。
その夜、ココナは書斎で一人、調べた情報を整理していた。父リシュモンド伯爵は王宮に詰めているらしく、屋敷の中は比較的静かだ。書き留めたメモを眺めながら、やがて深いため息をつく。
「本当に、どうすればいいの……」
思わず独り言が漏れる。王妃や王太子が絡んだ権力闘争に、たかだか伯爵令嬢が飛び込むなど、自殺行為に等しいかもしれない。それでも、婚約破棄や毒騒動の汚名を返上するには、真実を暴くしか道はない。
そのとき、邸の外からかすかに物音が聞こえた。風が窓を揺らすような音ではなく、人の足音にも似た微かな響き。警戒して立ち上がると、部屋の扉が控えめにノックされる。
「お嬢様、執事でございます。少々よろしいでしょうか」
開いた扉の向こうに立っているのは、いつもの穏やかな執事。しかし、その表情は険しく、普段とは違う緊張感が漂っていた。
「どうしたんですか。こんな夜更けに……」
「外で不審な気配を感じたという報告がありました。念のため、お部屋の周囲に警戒を強化いたしますので、ご安心ください」
執事の言葉にココナは身震いする。まさか、自分を狙って何者かが侵入してきたのか。あるいは、ただの偶然か。いずれにしても穏やかではない。
「わかりました。私も何かあればすぐに知らせます」
執事が頭を下げて扉を閉めると、ココナは足早に窓辺へと駆け寄る。下の庭を見下ろすが、闇に包まれた敷地は静まり返っている。しかし、気のせいか、木立の陰に何か人影のようなものが揺れた気がした。
「誰……?」
呟いた刹那、悲鳴のようなものが外から聞こえ、護衛兵が騒ぐ声が続く。どうやら何者かが強引に侵入を試みていたらしい。胸の鼓動が激しくなるが、ココナにできるのは部屋で待機することだけ。下手に出て行っては危険すぎる。
やがて、複数の足音が聞こえ、執事や侍女たちが急ぎ廊下を駆けていく。ココナはドアを開けることもできず、ただ息を呑んで音の行方を追うしかなかった。しばらくすると、外で甲高い金属音が響く——剣が交わるような音だ。
「まさか……襲撃?」
真夜中に伯爵邸を襲うなど、よほどの目的があるとしか考えられない。ココナは激しく動揺しながら、部屋の中を行ったり来たりする。しかし、怖さと不安で手足が震え、何もできずに時が過ぎていく。
そのうち、激しい物音は徐々に遠ざかり、やがて静寂が戻った。執事の呼び声が廊下に響き、護衛兵の足音がばたばたと動き回る。どうやら賊は逃げたか、取り押さえられたかのどちらかだろう。
「お嬢様、どうかご無事ですか」
扉の外から執事が呼びかける。ココナはようやく鍵を開けてドアを開くと、その場にへたり込んでしまった。襲撃者の正体はわからないが、命の危険を感じるほどの出来事に、精一杯強がっていた心が折れそうになる。
「いったい、誰がこんな……」
「今、詳しい状況を確かめております。お嬢様はご安心を」
執事の声も震えがちだ。ココナは震えをこらえながら、頭の奥で叫んでいる何かを感じ取る。——これはきっと偶然なんかじゃない。自分が動き始めたことで、何者かが警告を与えようとしているのかもしれない。
切り裂かれた夜の静寂に、ココナは胸を押さえたまま立ち尽くす。誰が何のために襲ってきたのか。それを確かめる日が来るのかどうかすら、今の彼女にはわからなかった。
その夜、ココナは書斎で一人、調べた情報を整理していた。父リシュモンド伯爵は王宮に詰めているらしく、屋敷の中は比較的静かだ。書き留めたメモを眺めながら、やがて深いため息をつく。
「本当に、どうすればいいの……」
思わず独り言が漏れる。王妃や王太子が絡んだ権力闘争に、たかだか伯爵令嬢が飛び込むなど、自殺行為に等しいかもしれない。それでも、婚約破棄や毒騒動の汚名を返上するには、真実を暴くしか道はない。
そのとき、邸の外からかすかに物音が聞こえた。風が窓を揺らすような音ではなく、人の足音にも似た微かな響き。警戒して立ち上がると、部屋の扉が控えめにノックされる。
「お嬢様、執事でございます。少々よろしいでしょうか」
開いた扉の向こうに立っているのは、いつもの穏やかな執事。しかし、その表情は険しく、普段とは違う緊張感が漂っていた。
「どうしたんですか。こんな夜更けに……」
「外で不審な気配を感じたという報告がありました。念のため、お部屋の周囲に警戒を強化いたしますので、ご安心ください」
執事の言葉にココナは身震いする。まさか、自分を狙って何者かが侵入してきたのか。あるいは、ただの偶然か。いずれにしても穏やかではない。
「わかりました。私も何かあればすぐに知らせます」
執事が頭を下げて扉を閉めると、ココナは足早に窓辺へと駆け寄る。下の庭を見下ろすが、闇に包まれた敷地は静まり返っている。しかし、気のせいか、木立の陰に何か人影のようなものが揺れた気がした。
「誰……?」
呟いた刹那、悲鳴のようなものが外から聞こえ、護衛兵が騒ぐ声が続く。どうやら何者かが強引に侵入を試みていたらしい。胸の鼓動が激しくなるが、ココナにできるのは部屋で待機することだけ。下手に出て行っては危険すぎる。
やがて、複数の足音が聞こえ、執事や侍女たちが急ぎ廊下を駆けていく。ココナはドアを開けることもできず、ただ息を呑んで音の行方を追うしかなかった。しばらくすると、外で甲高い金属音が響く——剣が交わるような音だ。
「まさか……襲撃?」
真夜中に伯爵邸を襲うなど、よほどの目的があるとしか考えられない。ココナは激しく動揺しながら、部屋の中を行ったり来たりする。しかし、怖さと不安で手足が震え、何もできずに時が過ぎていく。
そのうち、激しい物音は徐々に遠ざかり、やがて静寂が戻った。執事の呼び声が廊下に響き、護衛兵の足音がばたばたと動き回る。どうやら賊は逃げたか、取り押さえられたかのどちらかだろう。
「お嬢様、どうかご無事ですか」
扉の外から執事が呼びかける。ココナはようやく鍵を開けてドアを開くと、その場にへたり込んでしまった。襲撃者の正体はわからないが、命の危険を感じるほどの出来事に、精一杯強がっていた心が折れそうになる。
「いったい、誰がこんな……」
「今、詳しい状況を確かめております。お嬢様はご安心を」
執事の声も震えがちだ。ココナは震えをこらえながら、頭の奥で叫んでいる何かを感じ取る。——これはきっと偶然なんかじゃない。自分が動き始めたことで、何者かが警告を与えようとしているのかもしれない。
切り裂かれた夜の静寂に、ココナは胸を押さえたまま立ち尽くす。誰が何のために襲ってきたのか。それを確かめる日が来るのかどうかすら、今の彼女にはわからなかった。
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