私との婚約、今日で終わりですか?

ともえなこ

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グレンダール公爵は、王太子暗殺未遂と公爵家の権力濫用の罪で厳重に取り調べを受けることになり、事実上の失脚が決まった。これにより、王宮を揺るがした毒騒動は完全に幕を下ろす。

 翌日、王妃フィリアがフォルティア伯爵邸に正式な使者を送り、ココナの名誉回復を国中に発表。加えて、ローレライが作ったケーキから毒が見つかった一件は、彼女自身には一切の責任がないと断定された。こうして“悪役令嬢”の汚名は晴れ、街中には「二人は真っ当な令嬢だった」という噂が広まっていく。

 伯爵家には、長らく冷ややかだった貴族たちからの謝罪や和解の手紙が次々に届いた。それを見たココナは、呆れると同時に微笑ましさも感じる。いかに人の評判が移ろいやすいか、身をもって知った経験だった。

「お嬢様、こちらにも贈り物がたくさん届いております。皆様、改めてフォルティア家に挨拶を……」

「ありがとう。仕分けが大変でしょうけれど、よろしくお願いします」

 侍女たちの慌ただしい声を背中に、ココナは書斎へ足を運ぶ。そこにはローレライが訪ねてきており、改めてお互いの健闘を称え合っていた。

「ココナ様、終わったのね。長かったわ……本当に」

「ええ、ローレライ様のおかげで乗り越えられました。あなたがいなければ、きっと私は潰れてた」

 二人は手を取り合い、小さく笑みを交わす。これからも親友として、そして同じ貴族令嬢として支え合っていくに違いない。

「それにしても、アルトワーズ殿下のこと、どうなさるの?」

 ローレライが興味深そうに問いかける。ココナは少し照れくさそうに視線をそらしながら答えた。

「すぐに返事をできるわけではないです。でも、私も昔の気持ちを捨てきれない。殿下が変わろうと努力してくれたのもわかる。だから、もう少しだけ時間をかけて、自分の将来を考えようと思います」

 ローレライは微笑んでうなずき、「それがいいわね」と優しく背中を押す。アルトワーズとの再婚約は有力視されているが、ココナ自身の意志が最優先されるべきだ。かつてのように他者の思惑に振り回されるだけでは、彼女が得た成長を無駄にしてしまう。

 やがて、ローレライが帰ったあと、ココナは庭に出て一人風に当たる。陽射しが柔らかく、花々が彩りを増す季節。事件を乗り越えた今、世界が少しだけ明るく見える。

「私は……悪役令嬢なんかじゃない。これからは自分を信じて、自分の足で未来を歩むわ」

 静かに呟いた言葉が、澄んだ空気に溶けていく。婚約破棄から始まった試練は、ココナを一回りも二回りも成長させた。これからも生きていれば様々な困難が訪れるだろうが、もう孤独ではない。ローレライという友人がいて、理解を示してくれる父がいて、そしてアルトワーズが力を貸してくれる。

 視線を上げると、空は晴れ渡り、雲がゆっくりと流れていく。心の霧が晴れたかのように、ココナは深呼吸した。愛と友情を取り戻した今、未来はどこまでも広がっている。

 こうして、ケーキ騒動の毒色は浄化され、新たな幸せに向けて物語は進み出す。フォルティア伯爵令嬢ココナの人生は、ここで終わりではなく、もう一度始まりを迎えようとしていた。
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