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「エリアーヌ、おめでとう。王太子殿下との婚約が正式に決まったそうよ」
「……はい?」
アリアーナの言葉を聞いた瞬間、私は固まった。
「嘘、ですよね?」
一度そう問い直してしまうほど、あまりに現実味のない話だ。
「嘘なんかじゃないわ。国王陛下からの勅命よ。王太子殿下が婚約者を探していらして、その候補にあなたが選ばれたの」
「なんで私が……」
冷や汗が背筋を伝い、呼吸が浅くなった。子爵や侯爵の令嬢ならいざ知らず、伯爵家の私はそこそこ名門とはいえ、まさか王太子の婚約者にされるとは思いもしなかった。
「王妃さまが気に入ったと噂で聞いたわ。あなたの評判もなかなか良いし」
「王妃さまが、私を……ですか?」
その名を聞くと、心臓が一気に高鳴る。噂が絶えない宮廷の中心人物、国王陛下を支える“冷酷”ともいわれる王妃。私が最も関わりたくない人だ。
「もしかして……王妃さまは怖いって有名な……?」
私は思わず口を押さえた。
「エリアーヌ、失礼な言い方はやめなさい」
アリアーナが少しだけ眉をひそめる。
「そう、怖いと噂されているわね。けれど本当はどうか分からない。第一印象だけで人を判断してはいけないわ」
母の言葉はわかる。それでも私は怖いものは怖い。いやだ、あんな恐ろしい人が義母になるなんてまっぴらだ。
「お母さま、私……婚約なんて、受けたくありません」
「でも、これは王命に等しいのよ」
「王妃さまが怖いので婚約やめます、と言ったら、首をはねられるでしょうか……」
思わずぼやいたけれど、我ながら最悪の発想だ。正直に言うと、王妃さまの存在を考えるだけで心が縮こまる。
「気が進まないなら、断りたい旨を直接伝えてみるのも一つの手かもしれないわね」
意外にもアリアーナは、私の逃げ腰を否定しなかった。母は穏やかな笑みを浮かべながら、ただ「気持ちを大切にしなさい」と背中を押してくれる。
「うまく伝えられるでしょうか……」
私は不安に押しつぶされそうになりながら、ベッドに深く沈み込んだ。いっそのこと、王都から逃げ出したい。そんな衝動すら湧き上がってくる。
「まずは明日、王城に呼ばれているわ。エドワード殿下との正式なお披露目の場ね」
「あした……? 急すぎます!」
「王家はいつもそう。唐突で一方的。でも、あなたを選んだということは、それほど期待されているということなのよ」
期待なんて、全く嬉しくない。もしも王妃さまの逆鱗に触れたらと思うと、今から震えが止まらない。
「怖い……こわいよ、お母さま」
「大丈夫よ、エリアーヌ。私もできる限りあなたを支えるから。ほら、もう休みなさい」
「……はい」
そう返事はしたが、枕に顔を埋めても眠れそうにない。明日、私は王城で王妃さまと対面することになる。噂通りに恐ろしいお方であれば――婚約破棄を願い出るどころか、命も危ういのではないかと頭を巡る悪い想像に、胸が押し潰されそうだ。
私は小さく息を吐き、そっと窓の外を見やる。月は優しく光っているのに、全く心が落ち着かない。
「……婚約、やめたい」
私は夜の闇に向かって、かすかに呟いた。
「……はい?」
アリアーナの言葉を聞いた瞬間、私は固まった。
「嘘、ですよね?」
一度そう問い直してしまうほど、あまりに現実味のない話だ。
「嘘なんかじゃないわ。国王陛下からの勅命よ。王太子殿下が婚約者を探していらして、その候補にあなたが選ばれたの」
「なんで私が……」
冷や汗が背筋を伝い、呼吸が浅くなった。子爵や侯爵の令嬢ならいざ知らず、伯爵家の私はそこそこ名門とはいえ、まさか王太子の婚約者にされるとは思いもしなかった。
「王妃さまが気に入ったと噂で聞いたわ。あなたの評判もなかなか良いし」
「王妃さまが、私を……ですか?」
その名を聞くと、心臓が一気に高鳴る。噂が絶えない宮廷の中心人物、国王陛下を支える“冷酷”ともいわれる王妃。私が最も関わりたくない人だ。
「もしかして……王妃さまは怖いって有名な……?」
私は思わず口を押さえた。
「エリアーヌ、失礼な言い方はやめなさい」
アリアーナが少しだけ眉をひそめる。
「そう、怖いと噂されているわね。けれど本当はどうか分からない。第一印象だけで人を判断してはいけないわ」
母の言葉はわかる。それでも私は怖いものは怖い。いやだ、あんな恐ろしい人が義母になるなんてまっぴらだ。
「お母さま、私……婚約なんて、受けたくありません」
「でも、これは王命に等しいのよ」
「王妃さまが怖いので婚約やめます、と言ったら、首をはねられるでしょうか……」
思わずぼやいたけれど、我ながら最悪の発想だ。正直に言うと、王妃さまの存在を考えるだけで心が縮こまる。
「気が進まないなら、断りたい旨を直接伝えてみるのも一つの手かもしれないわね」
意外にもアリアーナは、私の逃げ腰を否定しなかった。母は穏やかな笑みを浮かべながら、ただ「気持ちを大切にしなさい」と背中を押してくれる。
「うまく伝えられるでしょうか……」
私は不安に押しつぶされそうになりながら、ベッドに深く沈み込んだ。いっそのこと、王都から逃げ出したい。そんな衝動すら湧き上がってくる。
「まずは明日、王城に呼ばれているわ。エドワード殿下との正式なお披露目の場ね」
「あした……? 急すぎます!」
「王家はいつもそう。唐突で一方的。でも、あなたを選んだということは、それほど期待されているということなのよ」
期待なんて、全く嬉しくない。もしも王妃さまの逆鱗に触れたらと思うと、今から震えが止まらない。
「怖い……こわいよ、お母さま」
「大丈夫よ、エリアーヌ。私もできる限りあなたを支えるから。ほら、もう休みなさい」
「……はい」
そう返事はしたが、枕に顔を埋めても眠れそうにない。明日、私は王城で王妃さまと対面することになる。噂通りに恐ろしいお方であれば――婚約破棄を願い出るどころか、命も危ういのではないかと頭を巡る悪い想像に、胸が押し潰されそうだ。
私は小さく息を吐き、そっと窓の外を見やる。月は優しく光っているのに、全く心が落ち着かない。
「……婚約、やめたい」
私は夜の闇に向かって、かすかに呟いた。
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