17 / 30
17
しおりを挟む
「君、国王陛下に直訴するつもりなんだって?」
王妃さまの執務室から出たところで、エドワード殿下と鉢合わせた。彼は少し険しい表情をしている。
「……はい。殿下との婚約を破棄させてもらいたいので」
「やっぱり、その気持ちは変わらないんだね」
「すみません。殿下には悪いとわかっているんですが」
うつむく私に対し、エドワード殿下は小さく肩をすくめる。
「謝らなくていいよ。僕は最初から君がそう望むなら、止めないって言っただろう」
「はい……でも、本当にそれでいいんですか。将来の王妃が必要では」
そう尋ねると、エドワード殿下は少しの沈黙の後、苦笑混じりに口を開いた。
「必要だけど……僕は“政略結婚”をしたいわけでもない。母上や父上が決めた相手をただ受け入れるだけじゃ、なんの面白みもないしね」
「殿下は……面白さを求めているんですか」
その表現に戸惑いを覚える。王族にとって“面白い”かどうかで決めるなんて、あまり聞いたことがない。
「うん。僕は王として国を治めることが使命だってわかっている。でも同時に、僕自身が納得できる形じゃなきゃ嫌なんだ」
殿下の言葉には、一見すると無責任さが含まれているようで、どこか揺るぎない芯も感じられる。王妃さまがあれほどの人物であるのに対し、エドワード殿下がこうして自由闊達な性格なのは不思議なバランスだ。
「僕は君のことを本当に面白いと思ってる。母上を怖いってはっきり言い、婚約破棄を公然と求める子なんて見たことがない」
「そんなこと、嬉しくありません」
やや拗ねたように返事をすると、彼は少し笑う。
「だろうね。だけど、君が僕の傍にいてくれたらどんなふうに世界が変わるのか、正直興味はある。だから君が逃げ出すと聞くと、なんだかもったいない気がするんだ」
「殿下……」
思わずその瞳を見つめてしまう。今まで軽々しい言葉ばかりと思っていたが、そこには真摯さも混ざっている。私の心は複雑に揺れる。
「……でも、私は逃げたいんです。王妃さまのことも、貴族社会のことも。みんなが怖くて、私には荷が重すぎる」
正直な思いをぶつけると、エドワード殿下はゆっくりと頷いた。
「わかったよ。じゃあ、僕はもう何も言わない。ただ、一つだけ聞かせてくれる?」
「はい」
「もし君が怖くなかったら……一緒に国を見てくれた?」
その問いに、言葉が詰まる。国を見てくれた、というのはつまり、王太子妃として共に未来を歩んでほしいということなのだろうか。けれど、私は何も答えられない。
「……無理です。ごめんなさい」
それだけを口にすると、エドワード殿下は苦笑して、私の肩をぽんと叩く。
「うん、いいよ。君の気持ちは尊重する。でも、僕は最後まで面白がらせてもらうからね」
殿下のそんな言葉に返事もできず、私はただ身をこわばらせた。婚約破棄を望む私に、それでも心を向けてくれる彼の存在をどう受け止めればいいのか、答えは見えないままだ。
王妃さまの執務室から出たところで、エドワード殿下と鉢合わせた。彼は少し険しい表情をしている。
「……はい。殿下との婚約を破棄させてもらいたいので」
「やっぱり、その気持ちは変わらないんだね」
「すみません。殿下には悪いとわかっているんですが」
うつむく私に対し、エドワード殿下は小さく肩をすくめる。
「謝らなくていいよ。僕は最初から君がそう望むなら、止めないって言っただろう」
「はい……でも、本当にそれでいいんですか。将来の王妃が必要では」
そう尋ねると、エドワード殿下は少しの沈黙の後、苦笑混じりに口を開いた。
「必要だけど……僕は“政略結婚”をしたいわけでもない。母上や父上が決めた相手をただ受け入れるだけじゃ、なんの面白みもないしね」
「殿下は……面白さを求めているんですか」
その表現に戸惑いを覚える。王族にとって“面白い”かどうかで決めるなんて、あまり聞いたことがない。
「うん。僕は王として国を治めることが使命だってわかっている。でも同時に、僕自身が納得できる形じゃなきゃ嫌なんだ」
殿下の言葉には、一見すると無責任さが含まれているようで、どこか揺るぎない芯も感じられる。王妃さまがあれほどの人物であるのに対し、エドワード殿下がこうして自由闊達な性格なのは不思議なバランスだ。
「僕は君のことを本当に面白いと思ってる。母上を怖いってはっきり言い、婚約破棄を公然と求める子なんて見たことがない」
「そんなこと、嬉しくありません」
やや拗ねたように返事をすると、彼は少し笑う。
「だろうね。だけど、君が僕の傍にいてくれたらどんなふうに世界が変わるのか、正直興味はある。だから君が逃げ出すと聞くと、なんだかもったいない気がするんだ」
「殿下……」
思わずその瞳を見つめてしまう。今まで軽々しい言葉ばかりと思っていたが、そこには真摯さも混ざっている。私の心は複雑に揺れる。
「……でも、私は逃げたいんです。王妃さまのことも、貴族社会のことも。みんなが怖くて、私には荷が重すぎる」
正直な思いをぶつけると、エドワード殿下はゆっくりと頷いた。
「わかったよ。じゃあ、僕はもう何も言わない。ただ、一つだけ聞かせてくれる?」
「はい」
「もし君が怖くなかったら……一緒に国を見てくれた?」
その問いに、言葉が詰まる。国を見てくれた、というのはつまり、王太子妃として共に未来を歩んでほしいということなのだろうか。けれど、私は何も答えられない。
「……無理です。ごめんなさい」
それだけを口にすると、エドワード殿下は苦笑して、私の肩をぽんと叩く。
「うん、いいよ。君の気持ちは尊重する。でも、僕は最後まで面白がらせてもらうからね」
殿下のそんな言葉に返事もできず、私はただ身をこわばらせた。婚約破棄を望む私に、それでも心を向けてくれる彼の存在をどう受け止めればいいのか、答えは見えないままだ。
25
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる