王妃さまが怖いので婚約やめますね

ともえなこ

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「君、国王陛下に直訴するつもりなんだって?」

王妃さまの執務室から出たところで、エドワード殿下と鉢合わせた。彼は少し険しい表情をしている。

「……はい。殿下との婚約を破棄させてもらいたいので」

「やっぱり、その気持ちは変わらないんだね」

「すみません。殿下には悪いとわかっているんですが」

うつむく私に対し、エドワード殿下は小さく肩をすくめる。

「謝らなくていいよ。僕は最初から君がそう望むなら、止めないって言っただろう」

「はい……でも、本当にそれでいいんですか。将来の王妃が必要では」

そう尋ねると、エドワード殿下は少しの沈黙の後、苦笑混じりに口を開いた。

「必要だけど……僕は“政略結婚”をしたいわけでもない。母上や父上が決めた相手をただ受け入れるだけじゃ、なんの面白みもないしね」

「殿下は……面白さを求めているんですか」

その表現に戸惑いを覚える。王族にとって“面白い”かどうかで決めるなんて、あまり聞いたことがない。

「うん。僕は王として国を治めることが使命だってわかっている。でも同時に、僕自身が納得できる形じゃなきゃ嫌なんだ」

殿下の言葉には、一見すると無責任さが含まれているようで、どこか揺るぎない芯も感じられる。王妃さまがあれほどの人物であるのに対し、エドワード殿下がこうして自由闊達な性格なのは不思議なバランスだ。

「僕は君のことを本当に面白いと思ってる。母上を怖いってはっきり言い、婚約破棄を公然と求める子なんて見たことがない」

「そんなこと、嬉しくありません」

やや拗ねたように返事をすると、彼は少し笑う。

「だろうね。だけど、君が僕の傍にいてくれたらどんなふうに世界が変わるのか、正直興味はある。だから君が逃げ出すと聞くと、なんだかもったいない気がするんだ」

「殿下……」

思わずその瞳を見つめてしまう。今まで軽々しい言葉ばかりと思っていたが、そこには真摯さも混ざっている。私の心は複雑に揺れる。

「……でも、私は逃げたいんです。王妃さまのことも、貴族社会のことも。みんなが怖くて、私には荷が重すぎる」

正直な思いをぶつけると、エドワード殿下はゆっくりと頷いた。

「わかったよ。じゃあ、僕はもう何も言わない。ただ、一つだけ聞かせてくれる?」

「はい」

「もし君が怖くなかったら……一緒に国を見てくれた?」

その問いに、言葉が詰まる。国を見てくれた、というのはつまり、王太子妃として共に未来を歩んでほしいということなのだろうか。けれど、私は何も答えられない。

「……無理です。ごめんなさい」

それだけを口にすると、エドワード殿下は苦笑して、私の肩をぽんと叩く。

「うん、いいよ。君の気持ちは尊重する。でも、僕は最後まで面白がらせてもらうからね」

殿下のそんな言葉に返事もできず、私はただ身をこわばらせた。婚約破棄を望む私に、それでも心を向けてくれる彼の存在をどう受け止めればいいのか、答えは見えないままだ。
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