王妃さまが怖いので婚約やめますね

ともえなこ

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「今度こそ、きっぱり婚約を解消させてもらいますから」

舞踏会の混乱から少し経ち、私は再び王妃さまの前にいた。あの夜の不審者は完全に捕らえられたわけではないものの、大きな事件には至らず事態は収束しつつあるようだ。

「エリアーヌ、何を焦っているのかしら」

王妃さまは机に向かいながら、ちらりとこちらを見上げる。舞踏会での毅然とした態度を見たせいか、私の恐怖心は以前ほどではなくなっていた。

「焦ってるわけではありません。ただ、あの騒ぎでますます怖くなったんです。王妃さまの存在も、王太子殿下との結婚も」

「理由はそれだけ?」

「それだけです」

即答すると、王妃さまは一瞬だけ口元を緩めたように見えた。けれどすぐに厳しい表情に戻り、書類を指でトントンと揃える。

「王家の婚約を解消するには、国王陛下のお許しも必要よ。それはわかっているわね」

「はい。だから、私も国王陛下に直接嘆願しようと思います」

我ながら大胆すぎる提案だが、ここまで来たらやるしかない。王家の内情なんて気にも留めないほど、私は逃げ腰を貫きたいのだから。

「そこまで嫌なら、仕方ないわね。あなたが本気で王太子から離れたいのなら、私としては止める理由もない。殿下を傷つけたくはないけれど、あなたが望むなら尊重するわ」

王妃さまの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。胸がざわつくと同時に、安堵が入り混じる。

「では……」

「ただし、国王陛下が納得するとは限らない。それでも進むなら、あなたは王家にとっても、貴族社会にとっても“反逆に近い存在”と見なされるかもしれないのよ」

「……覚悟はしています」

怖い。正直、足がすくむほどの恐怖だ。それでも、王妃さまを前にして退くわけにはいかない。エドワード殿下は私の意志を尊重してくれそうだし、最悪の場合、私の身に危険が及ぶとしても、もう後戻りできない。

「あなた、随分と強くなったのね」

王妃さまの静かな声に、私の心臓がどきりとする。何かを見透かされているような気分だ。私は胸に手を当てて小さく息をつく。

「強く……ですか。そうは思えませんが」

「最初はただ怯えるだけの子かと思っていたけれど、今は意思がある。私にはそれが、少しだけ嬉しくもあるわ」

王妃さまの意外な言葉に驚きが混じる。冷酷だと思っていたその瞳に、淡い光が宿っているようにも見えた。

「嬉しい……とおっしゃるんですね」

「ええ。だけど覚えておいて。あなたがどう選ぼうと、責任はすべてあなたが負うのよ」

厳しい響きだが、そこには確固たる信念が感じられる。私はただ深くお辞儀をして、その場を後にした。王妃さまとの対峙はいつも怖いが、今日は少し違った。どこか私を認めてくれたように思えるのは、錯覚ではないだろうか。

「でも、だからこそ私も引けない」

小走りで廊下を進みながら、私は自分の中の決意を確かめた。婚約を解消するためには、さらに大きな障害が待ち受けているだろう。それでも、もう後戻りはできないのだから。
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