26 / 30
26
しおりを挟む
「エリアーヌ様、ご足労ありがとうございます」
王宮の応接室。いつもなら侍女が案内してくれる場所だが、今日はエドワード殿下自らが待ち受けていた。殿下の隣には王妃さまも控えており、厳粛な空気が漂っている。
「今日は何のご用でしょうか」
「僕と母上から正式に話があるんだ。噂ではエリアーヌが反王家勢力に通じているなんて言われているけれど、僕たちはそれを否定する」
エドワード殿下がきっぱりと口火を切った。王妃さまも静かに頷く。
「あなたの意思は単なる婚約破棄にあるだけであって、決して王家を陥れようとしているわけではない。国王陛下にも、そう伝えてある」
「そ、それは助かります。ありがとうございます」
嬉しさと安堵が一気にこみ上げ、私は思わず頭を下げる。これで誤解は解けるはずだ。反逆者などという不名誉な噂を払拭できるだろう。
「だが、その上で問いかけたい。僕と結婚するのか、しないのか。はっきり答えてほしい」
エドワード殿下の真剣な声に、思わず背筋が伸びる。今までは私が逃げ腰で、殿下は「自由にすればいい」と言っていたが、ここに来て正式な問いが来た。
「殿下……」
「国王陛下も『本人の意思を尊重する』とおっしゃっている。つまり、君が拒むなら、この婚約は破棄できる。だけど、僕としては……」
そこで言葉を切る殿下の横顔を、王妃さまが無表情のまま見つめている。二人の視線を感じながら、私は迷いに押しつぶされそうになった。ずっと“怖いから逃げる”と訴えてきたものの、今その場が与えられると、なぜか胸の奥が騒ぐ。
「私……」
殿下を拒めば、望んでいた婚約破棄が叶う。ただ、王妃さまがこれほどまで私を庇ってくれたことを考えると、申し訳なさや罪悪感が消えない。そもそも、殿下自身は私を楽しんでいるだけかと思いきや、ちゃんと一人の人間として認めてくれていた。そんな気持ちが複雑に絡み合い、言葉が喉で絡まる。
「もし、私が婚約を破棄しても、殿下は何も気にしないのですか」
「気にするよ。僕は君に興味がある。言っただろう、君と一緒に国を見てみたいって」
あのときの言葉がよみがえる。確かに、殿下はただの興味本位かと思ったが、今の彼の目には本気が宿っているように感じた。
「母上のことも、そんなに怖がらなくていい。あの人は冷たいようでいて、ちゃんと優しいだろう?」
「はい……そうですね」
私は王妃さまをちらりと見る。王妃さまはあくまで無表情のままだが、期待しているのか、それとも拒絶されても構わないと思っているのか、その胸の内はわからない。
「どうする、エリアーヌ」
静かな殿下の問いに、私は震える唇をかみ締める。今まで散々逃げ腰だった私が、ここでどんな答えを出すのか。自分でもわからないが、嘘だけはつきたくない。
「もう少しだけ、考えさせてもらえませんか」
結局、それが精一杯の答えだった。殿下は苦笑し、王妃さまはため息をつく。それでも、二人とも私の意思を否定することなく「わかった」と頷いてくれた。
「時間はそう多くない。だけど、最後まで君の意思を待つよ」
エドワード殿下の言葉が、胸に重くのしかかる。婚約破棄か、それとも……。決断のときが迫っているのを、ひしひしと感じていた。
王宮の応接室。いつもなら侍女が案内してくれる場所だが、今日はエドワード殿下自らが待ち受けていた。殿下の隣には王妃さまも控えており、厳粛な空気が漂っている。
「今日は何のご用でしょうか」
「僕と母上から正式に話があるんだ。噂ではエリアーヌが反王家勢力に通じているなんて言われているけれど、僕たちはそれを否定する」
エドワード殿下がきっぱりと口火を切った。王妃さまも静かに頷く。
「あなたの意思は単なる婚約破棄にあるだけであって、決して王家を陥れようとしているわけではない。国王陛下にも、そう伝えてある」
「そ、それは助かります。ありがとうございます」
嬉しさと安堵が一気にこみ上げ、私は思わず頭を下げる。これで誤解は解けるはずだ。反逆者などという不名誉な噂を払拭できるだろう。
「だが、その上で問いかけたい。僕と結婚するのか、しないのか。はっきり答えてほしい」
エドワード殿下の真剣な声に、思わず背筋が伸びる。今までは私が逃げ腰で、殿下は「自由にすればいい」と言っていたが、ここに来て正式な問いが来た。
「殿下……」
「国王陛下も『本人の意思を尊重する』とおっしゃっている。つまり、君が拒むなら、この婚約は破棄できる。だけど、僕としては……」
そこで言葉を切る殿下の横顔を、王妃さまが無表情のまま見つめている。二人の視線を感じながら、私は迷いに押しつぶされそうになった。ずっと“怖いから逃げる”と訴えてきたものの、今その場が与えられると、なぜか胸の奥が騒ぐ。
「私……」
殿下を拒めば、望んでいた婚約破棄が叶う。ただ、王妃さまがこれほどまで私を庇ってくれたことを考えると、申し訳なさや罪悪感が消えない。そもそも、殿下自身は私を楽しんでいるだけかと思いきや、ちゃんと一人の人間として認めてくれていた。そんな気持ちが複雑に絡み合い、言葉が喉で絡まる。
「もし、私が婚約を破棄しても、殿下は何も気にしないのですか」
「気にするよ。僕は君に興味がある。言っただろう、君と一緒に国を見てみたいって」
あのときの言葉がよみがえる。確かに、殿下はただの興味本位かと思ったが、今の彼の目には本気が宿っているように感じた。
「母上のことも、そんなに怖がらなくていい。あの人は冷たいようでいて、ちゃんと優しいだろう?」
「はい……そうですね」
私は王妃さまをちらりと見る。王妃さまはあくまで無表情のままだが、期待しているのか、それとも拒絶されても構わないと思っているのか、その胸の内はわからない。
「どうする、エリアーヌ」
静かな殿下の問いに、私は震える唇をかみ締める。今まで散々逃げ腰だった私が、ここでどんな答えを出すのか。自分でもわからないが、嘘だけはつきたくない。
「もう少しだけ、考えさせてもらえませんか」
結局、それが精一杯の答えだった。殿下は苦笑し、王妃さまはため息をつく。それでも、二人とも私の意思を否定することなく「わかった」と頷いてくれた。
「時間はそう多くない。だけど、最後まで君の意思を待つよ」
エドワード殿下の言葉が、胸に重くのしかかる。婚約破棄か、それとも……。決断のときが迫っているのを、ひしひしと感じていた。
12
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる