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「エリアーヌ、こっちだ」
王宮からの帰り道、私を呼び止めたのはセスだった。彼は息を切らしながら、どこか人気のない路地へと私を誘う。
「どうしたの、こんなところで」
「実は、王都の外れに安全な隠れ家を用意した。もし本当に婚約破棄をしても、王家や貴族の追及を受けずに逃げる道が必要だと思ってね」
セスの声には真剣な響きがある。私は戸惑いながらもその地図を受け取り、広げてみる。王都から離れた辺鄙な村に、一軒の空き屋があるらしい。
「そこに私が逃げ込めば、もう婚約どころか王宮とも関わらずに済む……」
「うん。無理やり連れ出そうとは思わないけど、エリアーヌが本気でここから離れたいなら、この道を使って欲しい」
セスは苦悩するように目を伏せる。私はそっと彼の表情をうかがいながら、地図を胸に抱えた。
「ありがとう、セス。私のためにここまで考えてくれて」
「昔から君を守ってきたつもりだからね。婚約破棄が成立しても、王宮は表面上は納得するかもしれないけど、周囲の貴族が黙っていない可能性もある。そんなとき、逃げ道がないと困るだろう」
私が彼にとって大切な存在であることは、言葉の端々から感じる。その優しさが心に染みて、涙が出そうになる。今の私は何者にも縛られず、ただ逃げるだけが正解だろうか。
「もし私が本当に逃げることを選んだら……セスはどうするの」
「もちろん、君について行くよ」
当たり前のように言うセスを見て、胸が熱くなる。王宮の騎士になることが夢だったはずの彼が、そんなに簡単に諦めていいのだろうか。
「セスには騎士としての未来があるじゃない」
「君の幸せが俺の幸せだ。王宮でエリアーヌが苦しんでるなら、そんな未来は要らないよ」
まっすぐな瞳で見つめられると、苦しくなる。彼の思いに応えられるほど私は強くも優しくもないのに、こんなに深く愛されていいのだろうか。
「ありがとう。でも、少し考えさせて。まだ、殿下にも王妃さまにもきちんと答えていないから」
「わかった。俺はいつでも待ってる。逃げるかどうか決めるのはエリアーヌだからね」
セスは小さく微笑んで地図を指さす。王都の外れまでの道のり、隠れ家の場所、非常時の連絡方法。すべて段取りが整っているようだ。
「そんなに万全に用意してたのね」
「エリアーヌがもし本気で逃げるときに、何も準備がないと困るだろう。王家の追手から隠れるには周到な計画が必要だ」
セスの細やかな心遣いに、感謝が込み上げる。私はそっと地図を畳んで、胸の奥にしまい込む。これが最後の逃げ道――同時に、王家との関係を断ち切る覚悟の道でもある。
「わかった。ありがとう、セス」
そう呟いて、私は夜の風に髪を揺らしながらゆっくりと歩き出した。婚約破棄を選ぶにしろ、残るにしろ、どちらの道も決して楽ではない。だけど、もう私は自分の心から逃げずに決めなければならないのだ。
王宮からの帰り道、私を呼び止めたのはセスだった。彼は息を切らしながら、どこか人気のない路地へと私を誘う。
「どうしたの、こんなところで」
「実は、王都の外れに安全な隠れ家を用意した。もし本当に婚約破棄をしても、王家や貴族の追及を受けずに逃げる道が必要だと思ってね」
セスの声には真剣な響きがある。私は戸惑いながらもその地図を受け取り、広げてみる。王都から離れた辺鄙な村に、一軒の空き屋があるらしい。
「そこに私が逃げ込めば、もう婚約どころか王宮とも関わらずに済む……」
「うん。無理やり連れ出そうとは思わないけど、エリアーヌが本気でここから離れたいなら、この道を使って欲しい」
セスは苦悩するように目を伏せる。私はそっと彼の表情をうかがいながら、地図を胸に抱えた。
「ありがとう、セス。私のためにここまで考えてくれて」
「昔から君を守ってきたつもりだからね。婚約破棄が成立しても、王宮は表面上は納得するかもしれないけど、周囲の貴族が黙っていない可能性もある。そんなとき、逃げ道がないと困るだろう」
私が彼にとって大切な存在であることは、言葉の端々から感じる。その優しさが心に染みて、涙が出そうになる。今の私は何者にも縛られず、ただ逃げるだけが正解だろうか。
「もし私が本当に逃げることを選んだら……セスはどうするの」
「もちろん、君について行くよ」
当たり前のように言うセスを見て、胸が熱くなる。王宮の騎士になることが夢だったはずの彼が、そんなに簡単に諦めていいのだろうか。
「セスには騎士としての未来があるじゃない」
「君の幸せが俺の幸せだ。王宮でエリアーヌが苦しんでるなら、そんな未来は要らないよ」
まっすぐな瞳で見つめられると、苦しくなる。彼の思いに応えられるほど私は強くも優しくもないのに、こんなに深く愛されていいのだろうか。
「ありがとう。でも、少し考えさせて。まだ、殿下にも王妃さまにもきちんと答えていないから」
「わかった。俺はいつでも待ってる。逃げるかどうか決めるのはエリアーヌだからね」
セスは小さく微笑んで地図を指さす。王都の外れまでの道のり、隠れ家の場所、非常時の連絡方法。すべて段取りが整っているようだ。
「そんなに万全に用意してたのね」
「エリアーヌがもし本気で逃げるときに、何も準備がないと困るだろう。王家の追手から隠れるには周到な計画が必要だ」
セスの細やかな心遣いに、感謝が込み上げる。私はそっと地図を畳んで、胸の奥にしまい込む。これが最後の逃げ道――同時に、王家との関係を断ち切る覚悟の道でもある。
「わかった。ありがとう、セス」
そう呟いて、私は夜の風に髪を揺らしながらゆっくりと歩き出した。婚約破棄を選ぶにしろ、残るにしろ、どちらの道も決して楽ではない。だけど、もう私は自分の心から逃げずに決めなければならないのだ。
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