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王女様のおせっかい
そんな、針の筵のような毎日が続いていたある日の午後。
私の部屋の扉が、突然、何の合図もなく勢いよく開かれた。
「レベッカ様! ごきげんよう!」
そこに立っていたのは、嵐のような笑顔を振りまく、アナスタシア王女殿下だった。
私は、驚いて椅子から立ち上がる。
「あ、アナスタシア殿下……。どうして、こちらに……」
この一週間、私は王子以外の王族とは、一度も顔を合わせていなかった。
それが、暗黙のルールなのだとさえ思っていた。
「まあ、堅苦しい挨拶は抜きになさって! これから、わたくしたちは義理の姉妹になるのですから、アナと呼んでくださってよ!」
アナスタシア王女――アナ殿下は、そう言うと、部屋の中を珍しそうにきょろきょろと見回した。
「ふむふむ。なかなか良いお部屋ですわね。でも、少し殺風景かしら? 今度、わたくしのコレクションから、可愛らしいぬいぐるみをいくつか持ってきて差し上げますわ!」
「は、はあ……」
あまりの自由奔放さに、私はどう返事をしていいのかわからない。
すると彼女は、私の隣に置かれた椅子に、何の断りもなく腰を下ろし、キラキラした瞳で私を見つめてきた。
「それで、レベッカ様! 兄様とは、その後いかがですの?」
「いかが、とは……」
「もう! 鈍いですわね! 仲は進展いたしましたか、ということですの! キスくらいは、もうお済みになりました?」
「ぶっ!?」
思わず、飲んでいた紅茶を噴き出しそうになった。
顔に、カッと熱が集まるのがわかる。
キス!?
この私が、あの氷のような王子と!?
ありえない!
「な、な、な、何を仰いますか! わ、わたくしたちの関係は、あくまで政略で……!」
慌てて否定する私に、アナ殿下は「まあ」と大げさに口元を覆った。
「建前は、もう結構ですわよ、レベッカ様。兄様が、あなた様にどれだけご執心か、妹のわたくしには、よーくわかりますもの」
「ご執心……? あの王子が、この私に?」
「ええ! だって、毎晩のように、あなたの噂話ばかりなさるんですもの。『今日のレベッカは、庭で何をしていた』とか、『食事の時、魚を綺麗に食べていた』とか。まるで、観察日記ですわ」
嘘だ。
信じられない。
あの王子が、そんなことを……?
私の動揺を見透かしたように、アナ殿下は、にんまりと笑った。
「兄様は、素直じゃないお方なのです。だから、こちらから仕掛けて差し上げないと!」
「しかける……?」
「このままでは、お二人の仲は百年経っても進展しませんわ! ラチが明きませんことよ!」
彼女は、パン、と手を叩くと、素晴らしい名案を思いついた、という顔で宣言した。
「というわけで、明日、お二人で王都へお出かけなさいませ!」
「……は?」
「デートですわ、デート!」
「で、で、でーと!?」
私は、もう驚きのあまり、声もまともに出なかった。
「ふ、二人きりで、ですの……?」
「もちろん! 水臭いことは言いませんわ! 護衛は、ちゃんと遠くから見守るように手配いたしますので!」
アナ殿下は、ウインクしてみせる。
そういう問題ではない。
「ですが、わたくしはまだ、王宮の外に出る許可など……」
「大丈夫ですわ! 『未来の王太子妃としての、王都の現状視察』という、立派な公務ですもの!」
「それに……」と、彼女は悪戯っぽく笑う。
「兄様には、もう話を通してありますわ。『レベッカがお前の公務に同行したがっている』と」
「なっ……!?」
いつの間に、そんな外堀を埋められていたというのか。
私がそんなことを望むはずがないと、王子はわかっているだろうに。
いや、あの王子なら、「公務だから仕方ない」と、あっさり了承してしまうかもしれない。
「さあ、そういうわけですので、明日は思いっきり楽しんでいらして! そして、兄様との距離を、ぐーっと縮めてくるのですわ!」
アナ殿下は、そう言うと、満足げに立ち上がった。
「あ、そうだわ。もし、兄様が何か気の利かないことをしたら、わたくしにすぐに言いつけてくださいましね? きつーく、お説教しておきますので!」
嵐のように現れ、嵐のように去っていく。
一人残された部屋で、私は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
明日、あの氷の王子と、二人きりで王都へ……?
考えただけで、胃がキリキリと痛み始める。
このおせっかいな王女様は、私の平穏な(?)飼い殺し生活を、根こそぎ引っ掻き回すつもりらしい。
私は、大きな、大きなため息をついた。
そんな、針の筵のような毎日が続いていたある日の午後。
私の部屋の扉が、突然、何の合図もなく勢いよく開かれた。
「レベッカ様! ごきげんよう!」
そこに立っていたのは、嵐のような笑顔を振りまく、アナスタシア王女殿下だった。
私は、驚いて椅子から立ち上がる。
「あ、アナスタシア殿下……。どうして、こちらに……」
この一週間、私は王子以外の王族とは、一度も顔を合わせていなかった。
それが、暗黙のルールなのだとさえ思っていた。
「まあ、堅苦しい挨拶は抜きになさって! これから、わたくしたちは義理の姉妹になるのですから、アナと呼んでくださってよ!」
アナスタシア王女――アナ殿下は、そう言うと、部屋の中を珍しそうにきょろきょろと見回した。
「ふむふむ。なかなか良いお部屋ですわね。でも、少し殺風景かしら? 今度、わたくしのコレクションから、可愛らしいぬいぐるみをいくつか持ってきて差し上げますわ!」
「は、はあ……」
あまりの自由奔放さに、私はどう返事をしていいのかわからない。
すると彼女は、私の隣に置かれた椅子に、何の断りもなく腰を下ろし、キラキラした瞳で私を見つめてきた。
「それで、レベッカ様! 兄様とは、その後いかがですの?」
「いかが、とは……」
「もう! 鈍いですわね! 仲は進展いたしましたか、ということですの! キスくらいは、もうお済みになりました?」
「ぶっ!?」
思わず、飲んでいた紅茶を噴き出しそうになった。
顔に、カッと熱が集まるのがわかる。
キス!?
この私が、あの氷のような王子と!?
ありえない!
「な、な、な、何を仰いますか! わ、わたくしたちの関係は、あくまで政略で……!」
慌てて否定する私に、アナ殿下は「まあ」と大げさに口元を覆った。
「建前は、もう結構ですわよ、レベッカ様。兄様が、あなた様にどれだけご執心か、妹のわたくしには、よーくわかりますもの」
「ご執心……? あの王子が、この私に?」
「ええ! だって、毎晩のように、あなたの噂話ばかりなさるんですもの。『今日のレベッカは、庭で何をしていた』とか、『食事の時、魚を綺麗に食べていた』とか。まるで、観察日記ですわ」
嘘だ。
信じられない。
あの王子が、そんなことを……?
私の動揺を見透かしたように、アナ殿下は、にんまりと笑った。
「兄様は、素直じゃないお方なのです。だから、こちらから仕掛けて差し上げないと!」
「しかける……?」
「このままでは、お二人の仲は百年経っても進展しませんわ! ラチが明きませんことよ!」
彼女は、パン、と手を叩くと、素晴らしい名案を思いついた、という顔で宣言した。
「というわけで、明日、お二人で王都へお出かけなさいませ!」
「……は?」
「デートですわ、デート!」
「で、で、でーと!?」
私は、もう驚きのあまり、声もまともに出なかった。
「ふ、二人きりで、ですの……?」
「もちろん! 水臭いことは言いませんわ! 護衛は、ちゃんと遠くから見守るように手配いたしますので!」
アナ殿下は、ウインクしてみせる。
そういう問題ではない。
「ですが、わたくしはまだ、王宮の外に出る許可など……」
「大丈夫ですわ! 『未来の王太子妃としての、王都の現状視察』という、立派な公務ですもの!」
「それに……」と、彼女は悪戯っぽく笑う。
「兄様には、もう話を通してありますわ。『レベッカがお前の公務に同行したがっている』と」
「なっ……!?」
いつの間に、そんな外堀を埋められていたというのか。
私がそんなことを望むはずがないと、王子はわかっているだろうに。
いや、あの王子なら、「公務だから仕方ない」と、あっさり了承してしまうかもしれない。
「さあ、そういうわけですので、明日は思いっきり楽しんでいらして! そして、兄様との距離を、ぐーっと縮めてくるのですわ!」
アナ殿下は、そう言うと、満足げに立ち上がった。
「あ、そうだわ。もし、兄様が何か気の利かないことをしたら、わたくしにすぐに言いつけてくださいましね? きつーく、お説教しておきますので!」
嵐のように現れ、嵐のように去っていく。
一人残された部屋で、私は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
明日、あの氷の王子と、二人きりで王都へ……?
考えただけで、胃がキリキリと痛み始める。
このおせっかいな王女様は、私の平穏な(?)飼い殺し生活を、根こそぎ引っ掻き回すつもりらしい。
私は、大きな、大きなため息をついた。
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