婚約破棄ですか?道連れにしますけど?

ともえなこ

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舞踏会の夜

私とアレクシス王子の、秘密の調査が始まってから、数週間が過ぎた。

私たちは、あの夜以来、誰にも気づかれぬよう、夜ごと古文書庫で落ち合い、少しずつ、歴史の裏に隠された真実の断片を、繋ぎ合わせていた。

そんなある日、王宮は、にわかに華やいだ雰囲気に包まれた。

隣国である、アルメリア王国の王子が、親善のために我が国を訪れることになり、その歓迎のための、大規模な舞踏会が、催されることになったのだ。

そして、その舞踏会は、私が、アレクシス王子の婚約者として、初めて、公式に、社交界にデビューする場でもあった。

正直、気は重かった。

また、好奇と侮蔑の視線に、晒されることになるのだろう。

そう思うと、胃が、きりきりと痛んだ。

舞踏会の前日。

アレクシスが、私の部屋を訪ねてきた。

その手には、大きな箱が抱えられている。

「レベッカ。明日の、舞踏会で着るドレスだ」

「……わざわざ、ありがとうございます」

「開けてみてくれ」

彼の言葉に、私は、おそるおそる箱を開ける。

その瞬間、私は、息を呑んだ。

中に入っていたのは、夜空の星屑を、そのまま閉じ込めたかのような、美しい、深い青色のドレスだった。

繊細な銀糸で、星々の刺繍が施され、スカートの裾には、小さなダイヤモンドが、無数に散りばめられている。

「……なんて、美しいドレス……」

「王妃殿下に、代々伝わるものだ。母上が、君のためにと、譲ってくださった」

「王妃様が……?」

驚く私に、彼は、もう一つの小さな箱を差し出した。

中に入っていたのは、ドレスと揃いの、サファイアとダイヤモンドのネックレスだった。

「わたくしには、このような、分不相応なもの……」

私が、思わず後ずさると、彼は、私の肩を、優しく掴んだ。

「分不相応ではない」

彼の、真剣な眼差しが、私を射抜く。

「君は、俺の婚約者だ。何も、恐れることはない。堂々と、胸を張れ」

その言葉は、まるで、魔法のようだった。

私の心の中にあった、不安や、恐怖が、すうっと、消えていく。

そうだ。

今の私は、もう、一人ではない。

私の隣には、この人がいる。

そう思うだけで、不思議と、力が湧いてきた。

そして、舞踏会の当日。

私は、贈られたドレスとネックレスを身につけ、アレクシスにエスコートされて、会場である大広間に、足を踏み入れた。

音楽が、一瞬、止まったような気がした。

会場中の、全ての視線が、私たち二人に、集中する。

囁き声が聞こえる。

けれど、それは、以前のような、侮蔑的なものではなかった。

「まあ、レベッカ様が、あんなにお美しく……」

「なんと、気品のあるお姿だ……」

「以前の、あの刺々しい雰囲気が、嘘のようだわ」

「王子殿下の隣に、実にお似合いだわ……」

私は、背筋を、すっと伸ばした。

かつての、虚勢に満ちた自信ではない。

アレクシスに、信じられているという、内側から湧き上がる、本物の自信を胸に。

私は、彼を見上げ、微笑んだ。

「ありがとう存じます、殿下。あなた様のおかげで、わたくしは、今、ここに立つことができております」

彼は、私の言葉に、優しく微笑み返すと、私の手を、強く握りしめた。

「俺の方こそ、感謝している。君が、俺の隣にいてくれて」

私たちは、手を取り合ったまま、ワルツの輪の中へと、滑り込んでいった。

まるで、世界に、私たち二人しかいないかのように。

音楽に身を任せ、彼のリードで踊りながら、私は、確かな幸福感に、包まれていた。

この夜、私は、もはや『破滅令嬢』ではなかった。

アレクシス王子の、ただ一人の、婚約者として。

私は、生まれ変わったのだ。

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