婚約破棄ですか?道連れにしますけど?

ともえなこ

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共同戦線

その日の夕刻。

私は、見つけ出した数点の古文書を手に、アレクシス王子の執務室の前に立っていた。

心臓が、早鐘のように鳴っている。

深呼吸を一つして、私は、重厚な扉をノックした。

「……入れ」

中から聞こえたのは、彼の、少し疲れたような声だった。

私は、意を決して、扉を開ける。

「王子殿下。夜分に、申し訳ございません」

彼は、山積みの書類から顔を上げ、私を見ると、少しだけ、驚いたような表情を見せた。

「レベッカ……。どうしたんだ、そんなに、改まって」

図書室での一件以来、私が彼を訪ねることはなかった。

彼もまた、私が再び心を閉ざしてしまったのだと、思っているのかもしれない。

「殿下に、ご報告したいことがございます」

私は、まっすぐに彼の目を見つめ、言った。

その真剣な声色に、彼は何かを察したのだろう。

「……聞こう」

そう言って、彼は、私に来客用のソファに座るよう促した。

私は、彼が向かいの席に座るのを待ってから、震える手で、持参した古文書をテーブルの上に広げた。

「これは……?」

「古文書保管庫で見つけた、我がナティアーノ家と、王家に関する記録にございます」

私は、覚悟を決めて、話し始めた。

かつて、ナティアーノ家が、王家の血を引く公国であったこと。

現在の王家に、建国王の血が直接流れていない可能性があること。

そして、父たちが、これらを大義名分として、王位の『奪還』を企てていたであろうこと。

私の話が進むにつれて、アレクシスの表情が、みるみるうちに険しくなっていく。

全てを話し終えた時、部屋は、重い沈黙に包まれた。

彼は、黙って、古文書に記された文字を、厳しい目で追い続けている。

やがて、彼は顔を上げ、私に問いかけた。

その声は、静かだったが、底知れない圧力を秘めていた。

「……君は、なぜ、これを俺に話した?」

試すような、眼差し。

彼の問いの意図は、痛いほどわかった。

この情報を武器に、私が、父と同じように、彼を脅迫する可能性を、彼は考えているのだ。

無理もない。

私は、反逆者の娘なのだから。

けれど、私は、もう、以前の私ではなかった。

「あなたの、お力になりたいのです」

「……何?」

「そして、わたくしの家が犯した罪の、本当の理由を知りたいのです。全てを知った上で、わたくしは、ナティアーノ家の娘として、この罪を背負っていきたいのです」

私は、テーブルの上に置かれた自分の手を、強く握りしめる。

「わたくしは、もう、あなたから、何も隠し事をしていたくは、ないのです」

それが、私の、偽らざる本心だった。

彼は、私の言葉を聞くと、大きく、目を見開いた。

そして、次の瞬間、その険しい表情が、ふっと、和らいだ。

まるで、長年背負ってきた重荷を、ようやく下ろすことができたかのように。

「……そうか」

彼は、静かに呟くと、椅子から立ち上がり、私の隣に座った。

そして、私の手に、そっと、自らの手を重ねる。

「君を、疑ったことを、許してくれ」

「いいえ……」

「君の言う通りだ。我々も、この問題を、これ以上見て見ぬふりをするわけにはいかない」

彼の瞳には、もう、私への疑いの色はなかった。

そこにあるのは、共に戦う『パートナー』に向ける、絶対的な信頼の色。

「わかった。一緒に、調べよう」

その言葉に、私は、涙が出そうになるのを、必死でこらえた。

彼は、私を、信じてくれた。

その日から、私たちの、秘密の調査が始まった。

昼間は、何食わぬ顔で、王子の婚約者と、その侍女として過ごす。

そして、夜。

王宮の者たちが寝静まった頃、私たちは、古文書保管庫で、落ち合った。

燭台の、頼りない明かりの下。

二人きりで、頭を突き合わせて、膨大な古文書を、解読していく。

「この紋章は、何を意味しているのだろうか……」

「こちらの記述と、矛盾いたしますわね……」

顔が、触れ合いそうになるほど、近づく。

彼の、落ち着いた声。

時折、私の髪に触れる、彼の指先。

そのたびに、私の心臓は、大きく跳ねた。

これは、危険な秘密を共有する、共犯者のときめきなのか。

それとも――。

この、共同作業を通して、私たちの間の壁は、確実に、溶けてなくなっていった。

彼と私の間には、恋愛感情や、政略的な思惑を、全て超えた、強い、強い信頼関係が、芽生え始めていた。

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