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リリアナの正体
アナスタシア王女がもたらした、『貿易商』という、決定的なキーワード。
それを聞いたアレクシスは、すぐさま、密偵に、その男の身元を、徹底的に洗わせた。
結果は、驚くべきものだった。
そして、その報告は、私とアレクシス、そしてアナ殿下の三人だけがいる、秘密の会合の席で、なされた。
「……男の名は、ゲオルグ・フォン・ベルナー。表向きは、我が国と隣国アルメリア王国との間で、毛皮や宝石を取引する、裕福な貿易商。しかし……」
密偵は、一度、言葉を切った。
「その正体は、アルメリア王国諜報機関に所属する、工作員であると、断定いたしました」
「……やはりか」
アレクシスの呟きに、部屋の空気が、シンと張り詰める。
「リリアナ・グレイは、その工作員と、頻繁に、密会を重ねております。彼女が、残党たちに分配していた潤沢な資金も、全て、この男から流れたものと見て、間違いございません」
全てのピースが、カチリ、と音を立てて、嵌った瞬間だった。
私は、息を呑んだ。
「では……リリアナ様は……」
「ああ。彼女は、ただの野心家の令嬢などではない。アルメリア王国が、我が国に送り込んだ、スパイだ」
アレクシスの言葉が、重く、部屋に響く。
アナ殿下も、さすがに、いつもの笑顔を消し、真剣な顔で、事の成り行きを見守っていた。
「待ってくださいまし。では、そもそも、我が国の二大貴族であった、ナティアーノ家とクロワ家が、王位簒奪などという大それた計画を立てたのも……」
「リリアナが、裏で焚き付けた、と考えるのが自然だろうな」
アレクシスは、目を閉じ、思考を巡らせる。
「まず、ジュリアン・クロワに近づき、婚約者である君から、彼の心を奪う。次に、君とクロワ家の婚約を破棄させ、両家の間に、亀裂を入れる」
「そして、君の父君と、クロワ公爵の、歪んだ野心とプライドを、巧みに刺激し、暴走させる。資金を援助し、彼らに、決して後戻りのできない、大逆の罪を犯させる」
「最終的に、君が、あの夜会で全てを暴露したことで、二大貴族は、リリアナの筋書き通り、共倒れとなった……」
「彼女の目的は、我が国の有力貴族を潰し、王国を、内側から、弱体化させることだったのだ」
なんという、恐ろしい計画。
父たちが企てていた王位簒奪計画でさえ、この巨大な陰謀の前では、ただの、小さな駒の一つに過ぎなかったのだ。
私たちは、リリアナという女の、本当の恐ろしさに、今更ながら、戦慄した。
彼女は、ただ、待っていたのだ。
熟した果実が、木から落ちるのを待つように。
我が国の貴族たちが、互いに争い、自滅していくのを、笑いながら、見ていたのだ。
「……だが、なぜ、今も、この国に?」
私が、疑問を口にする。
「彼女の目的が、二大貴族の失脚だったのなら、もう、この国に留まる理由はないはずですわ」
「その通りだ。彼女は、まだ、何かを仕掛けてくるつもりだ」
アレクシスは、机の上に広げられた、王都の地図を睨みつけた。
「隣国の王子が、親善のために、この国を訪れている。国王陛下をはじめ、王族、そして、各国の来賓が、一堂に会する、この機会に……」
彼の視線が、ある一点で、止まる。
それは、明後日に予定されている、アルメリア王国王子を歓迎するための、パレードの経路図だった。
「……まさか」
「ええ。これ以上の、好機はございませんわね」
パレードの最中に、テロ行為を起こし、王族と、隣国の王子を、同時に亡き者にする。
そうすれば、我が国は、指導者を失い、大混乱に陥る。
そして、その混乱の責任を、アルメリア王国に着せられ、両国の関係は、破滅的なものとなるだろう。
それが、リリアナの、真の狙い。
王国転覆どころではない。
戦争の、引き金を、引こうとしているのだ。
「すぐに、衛兵たちに、警戒態勢を……!」
「待ってくださいまし、兄様!」
アレクシスが立ち上がろうとしたのを、アナ殿下が制した。
「今、下手に動けば、相手に感づかれてしまいますわ。リリアナは、計画を変更し、また、水面下に潜ってしまうかもしれない」
「では、どうしろと!」
「……泳がせるのですわ」
アナ殿下の言葉に、私たちは、息を呑んだ。
「計画を、実行させる、その寸前まで。そして、全ての悪事が、白日の下に晒された、その瞬間に、一網打尽にするのです」
それは、あまりに、危険な賭けだった。
だが、敵の陰謀を、根こそぎ断ち切るには、それしか、方法はないのかもしれない。
アレクシスは、しばらくの間、地図を睨みつけていたが、やがて、覚悟を決めた顔で、頷いた。
「……わかった。その作戦で、いこう」
決戦の日は、二日後。
私たちは、この国の運命を賭けた、静かで、しかし、熾烈な戦いに、挑むことになった。
アナスタシア王女がもたらした、『貿易商』という、決定的なキーワード。
それを聞いたアレクシスは、すぐさま、密偵に、その男の身元を、徹底的に洗わせた。
結果は、驚くべきものだった。
そして、その報告は、私とアレクシス、そしてアナ殿下の三人だけがいる、秘密の会合の席で、なされた。
「……男の名は、ゲオルグ・フォン・ベルナー。表向きは、我が国と隣国アルメリア王国との間で、毛皮や宝石を取引する、裕福な貿易商。しかし……」
密偵は、一度、言葉を切った。
「その正体は、アルメリア王国諜報機関に所属する、工作員であると、断定いたしました」
「……やはりか」
アレクシスの呟きに、部屋の空気が、シンと張り詰める。
「リリアナ・グレイは、その工作員と、頻繁に、密会を重ねております。彼女が、残党たちに分配していた潤沢な資金も、全て、この男から流れたものと見て、間違いございません」
全てのピースが、カチリ、と音を立てて、嵌った瞬間だった。
私は、息を呑んだ。
「では……リリアナ様は……」
「ああ。彼女は、ただの野心家の令嬢などではない。アルメリア王国が、我が国に送り込んだ、スパイだ」
アレクシスの言葉が、重く、部屋に響く。
アナ殿下も、さすがに、いつもの笑顔を消し、真剣な顔で、事の成り行きを見守っていた。
「待ってくださいまし。では、そもそも、我が国の二大貴族であった、ナティアーノ家とクロワ家が、王位簒奪などという大それた計画を立てたのも……」
「リリアナが、裏で焚き付けた、と考えるのが自然だろうな」
アレクシスは、目を閉じ、思考を巡らせる。
「まず、ジュリアン・クロワに近づき、婚約者である君から、彼の心を奪う。次に、君とクロワ家の婚約を破棄させ、両家の間に、亀裂を入れる」
「そして、君の父君と、クロワ公爵の、歪んだ野心とプライドを、巧みに刺激し、暴走させる。資金を援助し、彼らに、決して後戻りのできない、大逆の罪を犯させる」
「最終的に、君が、あの夜会で全てを暴露したことで、二大貴族は、リリアナの筋書き通り、共倒れとなった……」
「彼女の目的は、我が国の有力貴族を潰し、王国を、内側から、弱体化させることだったのだ」
なんという、恐ろしい計画。
父たちが企てていた王位簒奪計画でさえ、この巨大な陰謀の前では、ただの、小さな駒の一つに過ぎなかったのだ。
私たちは、リリアナという女の、本当の恐ろしさに、今更ながら、戦慄した。
彼女は、ただ、待っていたのだ。
熟した果実が、木から落ちるのを待つように。
我が国の貴族たちが、互いに争い、自滅していくのを、笑いながら、見ていたのだ。
「……だが、なぜ、今も、この国に?」
私が、疑問を口にする。
「彼女の目的が、二大貴族の失脚だったのなら、もう、この国に留まる理由はないはずですわ」
「その通りだ。彼女は、まだ、何かを仕掛けてくるつもりだ」
アレクシスは、机の上に広げられた、王都の地図を睨みつけた。
「隣国の王子が、親善のために、この国を訪れている。国王陛下をはじめ、王族、そして、各国の来賓が、一堂に会する、この機会に……」
彼の視線が、ある一点で、止まる。
それは、明後日に予定されている、アルメリア王国王子を歓迎するための、パレードの経路図だった。
「……まさか」
「ええ。これ以上の、好機はございませんわね」
パレードの最中に、テロ行為を起こし、王族と、隣国の王子を、同時に亡き者にする。
そうすれば、我が国は、指導者を失い、大混乱に陥る。
そして、その混乱の責任を、アルメリア王国に着せられ、両国の関係は、破滅的なものとなるだろう。
それが、リリアナの、真の狙い。
王国転覆どころではない。
戦争の、引き金を、引こうとしているのだ。
「すぐに、衛兵たちに、警戒態勢を……!」
「待ってくださいまし、兄様!」
アレクシスが立ち上がろうとしたのを、アナ殿下が制した。
「今、下手に動けば、相手に感づかれてしまいますわ。リリアナは、計画を変更し、また、水面下に潜ってしまうかもしれない」
「では、どうしろと!」
「……泳がせるのですわ」
アナ殿下の言葉に、私たちは、息を呑んだ。
「計画を、実行させる、その寸前まで。そして、全ての悪事が、白日の下に晒された、その瞬間に、一網打尽にするのです」
それは、あまりに、危険な賭けだった。
だが、敵の陰謀を、根こそぎ断ち切るには、それしか、方法はないのかもしれない。
アレクシスは、しばらくの間、地図を睨みつけていたが、やがて、覚悟を決めた顔で、頷いた。
「……わかった。その作戦で、いこう」
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