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第4章 幻の花ユグドラシルフラワー

39話 草の言葉はざまあみろ

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 プランだ……。
 プランがいる。
 自分たちの元パーティーメンバーで、追放したプランがワイバーンを倒してくれた。

 一撃で。
 自分たちは手も足も出なかった相手を、だ。

「ぷ、プラン……。お前、どうして……」

 血まみれのカルゴが、震える声でプランに言う。

 そしてプランはというと、近くに生えていた草を抜いた。
 山に生えていたその草は、上級薬草だ。それをプランが手に持った瞬間、【草取り】の能力が発動して、品質が上がる。
 さらに、それを握り潰せば、薬の出来上がりだ。

 プランはそれを、地に倒れているカルゴたちへと振りかけた。

 それだけだった。

 すると、血まみれの三人の体が少しずつ治っていった。完全とまでは言えないが、これで死ぬことはないはずだ。

「おい、プラン……。お前、さっき、どうやってワイバーンを倒したんだ……」

「……あれは葉っぱカッターだよ」

 ……葉っぱカッター。
 それは、葉っぱのカッターだ。

 信じられないことだが、プランは葉っぱ一枚でワイバーンを倒したのだ。

 自分たちも、それをこの目で見た。間違いなく、プランが倒していたのだ。

 だが……ありえない。
 なぜなら、こいつは雑魚だからだ。
 このパーティーにいた時も、戦闘では全然使えなかった。

 もしかして……パーティーから追放した後に、力をつけたのだろうか。

 ーーいや。

「!」

 ……ここで、カルゴはようやく思い至ることがあった。

 プランとカルゴは同じ村で育った。
 そしてカルゴの親は村長で、その村長命令で、プランはカルゴの付き添いとして冒険者になることになったのだ。
 それは、自分の息子の盾となる囮役のため。プランには両親もいないため、それはすんなりと決まったことだった。

 それからというもの、二人は冒険者になるために、街に来て実際に依頼を受け始めた。
 その際に、何度か死にかけたことがあったのだ。

 敵の攻撃を受け、カルゴが死にかける。
 そして、いつの間にか戦闘が終わっていた。どんな魔物を相手にしても、そうなっていた。

 絞め殺されたように倒れている魔物。その傍らに倒れているプラン。

 ……偶然かと思った。誰かがやってくれたんだろうと思っていた。
 だけど、それは……プランがやってくれていたのだ。

 死ぬと同時に発動するプランの【草取り】のスキル。
 それにより、プランが倒してくれていたのだ。

 思い出してみると、いつもそうだった。
 だけどカルゴは大して気にも止めていなかった。
 なぜならプランの【草取り】の能力は、草を引っこ抜くしか能のない使えない能力だと、決めつけていたからだ。

 だけど、違ったのだ。
 プランには元から、そういう能力が備わっていたのだ。

 だから、ここでワイバーンを倒しても、おかしくはない。
 一撃で、葉っぱカッターで、ワイバーンを倒す。
 プランは先日Aランク冒険者へと格上げされて、元々それに見合うだけの実力を持ち合わせていたのだ。

「……ぷ、プラン!」

 カルゴは、そんなプランの名前を呼んだ。

 プランがカルゴの方を見る。
 言うべき言葉は一つだけだった。

「お、お前……。本当はすごかったんだな……。俺たちはお前に支えられていたんだな……。だから、どうだ!? うちのパーティーに戻ってこないか!?」

 そうするしかなかった。
 なぜなら、今までのカルゴの冒険者生活はプランがいてくれたからこそ、成り立っていたものなのだから。

「…………」

 そんなプランは口を開くことなく、未だに地に這いつくばっているカルゴたちの元へとやって来た。
 そして、その頭に何かを乗せた。

「!」

 それは……一本の草だった。
 プランが花の国フラワーエデンから出発した際に、シトリアという少女からもらった草だった。

「ごめん、カルゴ……。誘ってもらえるのは嬉しいけど……もうできないんだ」

 ……そのプランは、どこか大人びた顔をしていた。
 まるで植物が成長し、伸びていくのと同様に、プランも成長していたのだ。

「だから、その代わりに、この草をプレゼントするね」

「プラン……、お前……」

 カルゴは頭に草を乗せながら、口をパクパクとしていた。
 言葉が出なかったからだ。

 プランは同様に他二人の頭にも、丁寧に草を乗せていく。

 なんの草なのかは分からなかった。

 だけど、綺麗な草だと言うのは分かった。

 そしてプランはカルゴたちに別れを告げると、静かに三人の前から去っていった。



 * * * * * *



 ーー後日ーー

「ワイバーンは倒せなかったが、この草はきっと上等なものだぜ……!」

「ああ!」

「僕たちは、ここからやり直すんだ!」

 なんとか、街に戻ってこれたカルゴたちは、冒険者ギルドへと足を踏み入れていた。
 結局、ワイバーン討伐は失敗してしまったのだが、代わりに別の素材を手に入れることができた。

 それはプランがくれた、謎の草だ。

 この草からは、とっておきの魔力を感じる。
 それもそのはず。この草は古代に咲いていたと言われている、とっておきの草だからだ。

 そして草にも、花と同様に花言葉がある。
 草に込められている言葉。つまり草言葉。とっておきの草には、とっておきの草言葉も備わっていたりする。

「この草を買い取ってくれ」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 ギルドの受付で、カルゴはその草を提出した

 果たしていくらになるだろうか。
 こんなに、いい草なんだ。もしかして、金貨に化けるかもしれない。

「お待たせしました。こちらは……銅貨一枚になります」

「「「な、なんでだよ……!」」」

 ギルド内に響いたのは、三人の悲痛な叫び。

 銅貨三枚、つまり捨て値だ。

「この草は現代の技術ではどうにもできない草です。だから価値をつけられません。珍しいので、飾りにぐらいにはなりますが……」

 ギルドの職員が困り顔で、説明する。

 しかし、その通り。
 そもそも、プランはその価値を知って、三人にこの草を渡したわけじゃない。

 故に、その草に込められている草言葉も知らない。
 それでも、その草言葉は、今の三人にはぴったりな言葉だった。

「なんだ、この騒ぎは……?」

「あ、ギルド長」

 やってきたのは、ギルド長。
 受付で、査定の結果に納得できずにいる三人の元へと歩いてくる。

 そして、

「こ、この草は……!?」

 草を見て驚くギルド長。

「ギルド長!? その草を知っているんですか!?」

「ああ……。この草は、古代に咲いていたと言われる草だ。名称はない。しかし、その草言葉の意味は知っている」

「「「そ、それって……!」」」

 ギルド長の言葉に、ギルドにいる者たち全員が固唾を飲んでいた。
 純粋に気になったからだ。

 そして、ギルド長はたっぷり溜めた後、ついに草言葉を言った。

「この草の草言葉は、『ざまあみろ』だ!」

「「「……!」」」

 その瞬間、ギルド内が爆笑の渦に包まれる。


「「「「ぎゃはははははは! なんだよ、その草言葉は……! ひっでー意味だな!」」」」


 それは、純粋に草のことを笑っていた。

 草の言葉は『ざまあみろ』

 この草言葉を最初につけたものは、一体どんな気持ちでつけたのだろう。
 そう思うと、笑いがこみ上げてきたのだ。

「「「ち”、ち”ぐじょう……!」」」

 その中で三人は、恥をかいたように、ぶるぶると震えていた。
 自分たちが笑われた気分になったのだ。
 しかし、周りの冒険者たちはそんなつもりはなく、それどころか三人には目もくれていないことに、さらに恥が襲ってきた。

 そして、この草を送った本人のプランにも、そういう意図がないのもすぐに分かった。
 やつは、そういうことをするやつではないのだ。ただ良かれと思って、この草を送ったのだ。

 それを察すると、また恥をかいた。
 どうせなら、そういう意図があって送った方がどれだけ良かったことか。

 誰も、カルゴたちには興味を示していない。

 今この場において、

 草 > カルゴたち、

 なのだ。

 つまり自分たちは雑草以下。

 それは【草取り】の能力を馬鹿にしていた者たちの、悲しい最後でーー。


 ……その後、カルゴたちは心を入れ替えて、細々と冒険者稼業をやり直すことにしたそうだ。

 まず、初めに受けたのは、薬草採取の依頼だったそうだ。
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