草むしりでもしてろ!と草をぶちまけられた草取り少年、葉っぱカッターを覚える 〜お花の国にご贔屓にされた僕は、花壇でのびのびと無双する〜

カミキリ虫

文字の大きさ
39 / 51
第4章 幻の花ユグドラシルフラワー

39話 草の言葉はざまあみろ

しおりを挟む

 プランだ……。
 プランがいる。
 自分たちの元パーティーメンバーで、追放したプランがワイバーンを倒してくれた。

 一撃で。
 自分たちは手も足も出なかった相手を、だ。

「ぷ、プラン……。お前、どうして……」

 血まみれのカルゴが、震える声でプランに言う。

 そしてプランはというと、近くに生えていた草を抜いた。
 山に生えていたその草は、上級薬草だ。それをプランが手に持った瞬間、【草取り】の能力が発動して、品質が上がる。
 さらに、それを握り潰せば、薬の出来上がりだ。

 プランはそれを、地に倒れているカルゴたちへと振りかけた。

 それだけだった。

 すると、血まみれの三人の体が少しずつ治っていった。完全とまでは言えないが、これで死ぬことはないはずだ。

「おい、プラン……。お前、さっき、どうやってワイバーンを倒したんだ……」

「……あれは葉っぱカッターだよ」

 ……葉っぱカッター。
 それは、葉っぱのカッターだ。

 信じられないことだが、プランは葉っぱ一枚でワイバーンを倒したのだ。

 自分たちも、それをこの目で見た。間違いなく、プランが倒していたのだ。

 だが……ありえない。
 なぜなら、こいつは雑魚だからだ。
 このパーティーにいた時も、戦闘では全然使えなかった。

 もしかして……パーティーから追放した後に、力をつけたのだろうか。

 ーーいや。

「!」

 ……ここで、カルゴはようやく思い至ることがあった。

 プランとカルゴは同じ村で育った。
 そしてカルゴの親は村長で、その村長命令で、プランはカルゴの付き添いとして冒険者になることになったのだ。
 それは、自分の息子の盾となる囮役のため。プランには両親もいないため、それはすんなりと決まったことだった。

 それからというもの、二人は冒険者になるために、街に来て実際に依頼を受け始めた。
 その際に、何度か死にかけたことがあったのだ。

 敵の攻撃を受け、カルゴが死にかける。
 そして、いつの間にか戦闘が終わっていた。どんな魔物を相手にしても、そうなっていた。

 絞め殺されたように倒れている魔物。その傍らに倒れているプラン。

 ……偶然かと思った。誰かがやってくれたんだろうと思っていた。
 だけど、それは……プランがやってくれていたのだ。

 死ぬと同時に発動するプランの【草取り】のスキル。
 それにより、プランが倒してくれていたのだ。

 思い出してみると、いつもそうだった。
 だけどカルゴは大して気にも止めていなかった。
 なぜならプランの【草取り】の能力は、草を引っこ抜くしか能のない使えない能力だと、決めつけていたからだ。

 だけど、違ったのだ。
 プランには元から、そういう能力が備わっていたのだ。

 だから、ここでワイバーンを倒しても、おかしくはない。
 一撃で、葉っぱカッターで、ワイバーンを倒す。
 プランは先日Aランク冒険者へと格上げされて、元々それに見合うだけの実力を持ち合わせていたのだ。

「……ぷ、プラン!」

 カルゴは、そんなプランの名前を呼んだ。

 プランがカルゴの方を見る。
 言うべき言葉は一つだけだった。

「お、お前……。本当はすごかったんだな……。俺たちはお前に支えられていたんだな……。だから、どうだ!? うちのパーティーに戻ってこないか!?」

 そうするしかなかった。
 なぜなら、今までのカルゴの冒険者生活はプランがいてくれたからこそ、成り立っていたものなのだから。

「…………」

 そんなプランは口を開くことなく、未だに地に這いつくばっているカルゴたちの元へとやって来た。
 そして、その頭に何かを乗せた。

「!」

 それは……一本の草だった。
 プランが花の国フラワーエデンから出発した際に、シトリアという少女からもらった草だった。

「ごめん、カルゴ……。誘ってもらえるのは嬉しいけど……もうできないんだ」

 ……そのプランは、どこか大人びた顔をしていた。
 まるで植物が成長し、伸びていくのと同様に、プランも成長していたのだ。

「だから、その代わりに、この草をプレゼントするね」

「プラン……、お前……」

 カルゴは頭に草を乗せながら、口をパクパクとしていた。
 言葉が出なかったからだ。

 プランは同様に他二人の頭にも、丁寧に草を乗せていく。

 なんの草なのかは分からなかった。

 だけど、綺麗な草だと言うのは分かった。

 そしてプランはカルゴたちに別れを告げると、静かに三人の前から去っていった。



 * * * * * *



 ーー後日ーー

「ワイバーンは倒せなかったが、この草はきっと上等なものだぜ……!」

「ああ!」

「僕たちは、ここからやり直すんだ!」

 なんとか、街に戻ってこれたカルゴたちは、冒険者ギルドへと足を踏み入れていた。
 結局、ワイバーン討伐は失敗してしまったのだが、代わりに別の素材を手に入れることができた。

 それはプランがくれた、謎の草だ。

 この草からは、とっておきの魔力を感じる。
 それもそのはず。この草は古代に咲いていたと言われている、とっておきの草だからだ。

 そして草にも、花と同様に花言葉がある。
 草に込められている言葉。つまり草言葉。とっておきの草には、とっておきの草言葉も備わっていたりする。

「この草を買い取ってくれ」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 ギルドの受付で、カルゴはその草を提出した

 果たしていくらになるだろうか。
 こんなに、いい草なんだ。もしかして、金貨に化けるかもしれない。

「お待たせしました。こちらは……銅貨一枚になります」

「「「な、なんでだよ……!」」」

 ギルド内に響いたのは、三人の悲痛な叫び。

 銅貨三枚、つまり捨て値だ。

「この草は現代の技術ではどうにもできない草です。だから価値をつけられません。珍しいので、飾りにぐらいにはなりますが……」

 ギルドの職員が困り顔で、説明する。

 しかし、その通り。
 そもそも、プランはその価値を知って、三人にこの草を渡したわけじゃない。

 故に、その草に込められている草言葉も知らない。
 それでも、その草言葉は、今の三人にはぴったりな言葉だった。

「なんだ、この騒ぎは……?」

「あ、ギルド長」

 やってきたのは、ギルド長。
 受付で、査定の結果に納得できずにいる三人の元へと歩いてくる。

 そして、

「こ、この草は……!?」

 草を見て驚くギルド長。

「ギルド長!? その草を知っているんですか!?」

「ああ……。この草は、古代に咲いていたと言われる草だ。名称はない。しかし、その草言葉の意味は知っている」

「「「そ、それって……!」」」

 ギルド長の言葉に、ギルドにいる者たち全員が固唾を飲んでいた。
 純粋に気になったからだ。

 そして、ギルド長はたっぷり溜めた後、ついに草言葉を言った。

「この草の草言葉は、『ざまあみろ』だ!」

「「「……!」」」

 その瞬間、ギルド内が爆笑の渦に包まれる。


「「「「ぎゃはははははは! なんだよ、その草言葉は……! ひっでー意味だな!」」」」


 それは、純粋に草のことを笑っていた。

 草の言葉は『ざまあみろ』

 この草言葉を最初につけたものは、一体どんな気持ちでつけたのだろう。
 そう思うと、笑いがこみ上げてきたのだ。

「「「ち”、ち”ぐじょう……!」」」

 その中で三人は、恥をかいたように、ぶるぶると震えていた。
 自分たちが笑われた気分になったのだ。
 しかし、周りの冒険者たちはそんなつもりはなく、それどころか三人には目もくれていないことに、さらに恥が襲ってきた。

 そして、この草を送った本人のプランにも、そういう意図がないのもすぐに分かった。
 やつは、そういうことをするやつではないのだ。ただ良かれと思って、この草を送ったのだ。

 それを察すると、また恥をかいた。
 どうせなら、そういう意図があって送った方がどれだけ良かったことか。

 誰も、カルゴたちには興味を示していない。

 今この場において、

 草 > カルゴたち、

 なのだ。

 つまり自分たちは雑草以下。

 それは【草取り】の能力を馬鹿にしていた者たちの、悲しい最後でーー。


 ……その後、カルゴたちは心を入れ替えて、細々と冒険者稼業をやり直すことにしたそうだ。

 まず、初めに受けたのは、薬草採取の依頼だったそうだ。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...