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第4章 幻の花ユグドラシルフラワー

42話 明るく芽吹く二人の花

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「プランくん! 休憩だって! 一緒にお休みしよ!」

 天気のいい、昼のことだった。
 その日も花の国、フラワーエデンは暖かい風に包まれていた。


 国の外に肥料を採りに行ってから、数日が経ち、あれからも穏やかな時間が続いている。
 今日も僕たちは、この国に来てから日課になっている花壇の手伝いをしていた。

 今は昼。
 アリアさんが僕の手を握りながら、明るい顔を向けてくれる。

 風が吹き、その風に肌が撫でられるのを感じると、清々しい気持ちになれた。
 息を吸い込むと、感じるのはどこからともなく香る甘い香り。いつもこの国は良い香りに包まれていることもあり、息を吸うだけで落ち着けるから、いつも穏やかでいられる。

 この国に来て、もうしばらくになるけど、毎日が楽しかった。

「あ、そうそう! あとで、カレストラ様が城においでって言ってたけど、聞いた?」

 花壇の隅っこにある、葉っぱでできたベンチに座りながら、アリアさんが聞いてくれる。

「はい。今日辺りでそろそろだから、と聞きました」

「楽しみだよね!」

 アリアさんがキラキラとした目を向けてくれる。
 僕も楽しみだった。

 今日はついに、あれが咲きそうな気配があるらしい。
 だから、時間があれば、城においでとカレストラさんが誘ってくれた。

「「「プラン様~! 雑草のジュースができましたので、ぜひ飲んでみてください!」」」

 休んでいる僕たちに向かって手を振ってくれているのは、この花壇を担当している人たちで、その手には緑色のジュースが持たれていた。

 あれは雑草のジュースの、改良版だ。

 雑草のジュース。
 あれ以来、何度も試作を重ねていて、こちらもようやくものになってきたとのことだった。

「行こ!」

「はい!」

 アリアさんと一緒に、そこへと向かう。

「プラン様、アリアさん! お待ちしておりました!」

「いらっしゃい。今度のはとっておきのやつだから、楽しみにしててね」

 そこで待っていてくれたのは、ローズマリーさんとフレーシアさん。
 雑草のジュース(改)は、二人が先頭に立って作ったものだから、飲んだら、感想を聞かせて欲しいとのことだった。

「私も、もちろん飲むわ。もし不味かったら、胞子を飛ばすから、覚悟してね」

 フレーシアさんの加護は【胞子】。

「「「じゃあ、いっせーの、で飲みましょう!」」」

 みんながコップを手に持ち、ぐいっと緑色の雑草のジュースを一気に飲んだ。


 ぼん!


「胞子、飛んじゃったわ」

「「「やっぱり、だめだったかー!」」

「「ふふっ」」

 青空の下に飛び上がる胞子。
 それを見たローズマリーさんとアリアさんが可笑しそうに微笑んだ。

 僕たちが今いる国。フラワーエデン。
 そんな花の国フラワーエデンは、今日も平和だった。



 * * * * *



「プラン様、アリアさん。お待ちしておりました。ちょうど、今咲くところです」

「どうぞ、こちらに」

 カレストラさんの執務室のテーブルの上。そこに置いてあるのは、植木鉢だ。

 カレストラさんとリーネさんがそれを見守っていて、僕とアリアさんも急いでそこへと向かう。
 鉢のそばでしゃがんで、四人でその時を待つ。

 そして、ついに、鉢に変化が訪れた。


 にょき……っ。


「「「「おお……!」」」」

 土から、芽吹いたのは小さな芽。
 土をかき分けて、姿を見せてくれたその芽は小さいものの、しっかりと自分で立っていた。
 これは、ユグドラシルフラワーの芽で、自力で出てきてくれた芽だ。

「いい感じに肥料が効きましたね!」

「ええ、それにプラン様がタネ自体に【草取り】の能力を詰め込んでくれたおかげで、しっかりとした芽が出てきてくれました」

「すごい! ようやく、咲かせることができそうな予感がします! このままプラン様にお願いして、一気に成長させればーー」

「「それはだめです! また、枯れてしまいます!」」

「ぶぅ~」

 頬を膨らませるカレストラさん。

「「か、可愛い……」」

 そのカレストラさんを見て、リーネさんとアリアさんが微笑んでいた。

 実はユグドラシルフラワー関連のことも、あれから何度か試行錯誤している。

 その結果、ユグドラシルフラワーは、草取りの能力で一気に成長させるよりも、ゆっくりと肥料の中で育たせた方がいいという結論になったのだ。
 だからタネ自体に能力を発動させておいて、あとは自然に芽が出るようにゆっくりと植木鉢の中で見守ることになった。

 それがこれだ。
 上手く行けば、数ヶ月後には、このまま最後まで花が咲くことになると予想されている。

「ようやくですね!」

「ええ。せっかくですので、私はシトリアに自慢してこようと思います」

「お供します!」

 そう言うと、アリアさんとリーネさんは「行ってきます!」と言って、部屋から出て行った。

 そして、ここに残ったのは僕とカレストラさんの二人だけになった。
 カレストラさんは、見守るような眼差しで、なおも芽吹いたユグドラシルフラワーの芽を見ている。

「……やっとですね。これも全てプラン様のおかげですね」

「あ、いえ……。この国の人たち全員のおかげだと思います。皆さんが頑張ってくださったから……」

「ふふっ。プラン様なら、そう言うと思いました。優しい方ですもの」

 くすりと頬を赤く染めて微笑んだ、カレストラさん。
 そして彼女は僕の目を見ると、ゆっくりとお礼を言ってくれた。

「プラン様には色々良くしていただいています。初めて会った時も、この国に来てからも、感謝してもしきれません」

「カレストラさん……」

「私はそんなプラン様のことが大好きです……。だからプラン様、カレストラはプラン様をお慕えしております。ちゅっ」

「あっ……」

 口づけだった。
 カレストラさんが僕の肩に手を置いて、口づけをしてくれていた。

 カレストラさんの唇が僕の唇に触れ、目を閉じている彼女の顔がすぐそばにある。
 暖かい体温が唇を通じて伝わってくる。カレストラさんは一旦唇を離すと、僕の目を見つめ、今度は僕を抱きしめながらキスをしてくれた。

「プラン様……大好きです。ようやく、こうすることができました……。私もお仕事頑張った甲斐がありました。だからプラン様も……んっ」

 そしてもう一度……。

 彼女の金色の髪が、窓から差し込む日差しを浴びて眩しく輝いている。
 そんな彼女は僕の頭をゆっくりと撫でながら、もう一度口づけをしてくれていた。

 そうしていると、なんだか懐かしい気持ちになった。

 どうしてだろう……。
 カレストラさんとこうするのは、初めてではないような気がする。

 確かあれは……初めてカレストラさんと出会った時…………。

 ……だめだ、よく思い出せない。

 だけど、この温もりを感じたことがあるのは確かだった。

 温かくて、落ち着く、優しい彼女の温もりで。
 それが深くまでじんわりと伝わってきてくれる。
 まるで、植物が絡みつくように……。

「プラン様、これからもよろしくお願いしますね」

「は、はい……」

「ふふっ。顔が赤くなっています。そんなプラン様も素敵です。ちゅっ」

 そんなカレストラさんが、僕を抱きしめながら愛でるようなキスをしてくれて。

 その傍らでは、ユグドラシルフラワーの芽が、静かにぴょこっと芽吹いていたのだった。
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