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第1章
21話 気に病まなくていいと思います。
しおりを挟む馬車が走っていく。
「テオ、すごいね! 私、馬車に乗るのは初めてだよ……!」
馬車の中にいるテトラが、窓の外を見ながら目を輝かせている。
隣に座っている俺もテトラと一緒に流れる景色を眺めていて、ほどよく揺れる馬車の中でテトラの様子も見守った。
「ふふっ、テトラさんは元気な方ですね」
そう言って優しく微笑んだのは、反対側に座っているソフィアさんだ。
彼女の提案で、街まで馬車に乗せてもらうことになった俺たち二人。
不思議なことに、彼女は俺の腕輪に宿っていたテトラの姿を軽々と見破っていた。
だから、これ以上隠しても意味がないと判断し、テトラは腕輪から姿を現した。
そのことに対し、ソフィアさんが驚くことはなかった。出てきたテトラと普通に挨拶を交わしていた。
そして普通に馬車に乗らせてもらい、俺たちは馬車で移動をしているというわけだった。
「メテオノール様も、馬車の乗り心地はどうでしょうか」
「は、はい……。とてもいいです……」
「それなら良かったです。もし、乗り物酔いで辛くなったら言ってくださいね」
隣に座っているソフィアさんが俺の手を握りながらそう言ってくれる。
「あ~~! テオってば、ソフィアちゃんと手を繋いでる……! て~お~~! ダメなんだからね~~!」
「て、テトラ……」
「ふふっ」
テトラが反対側から俺の腕に抱きついて、頬を膨らませて怒っている……。
その様子に、顔を綻ばせるソフィアさんは楽しそうにしていた。
「でも、びっくりしたな。ソフィアちゃんって聖女なんだもん」
「はい。聖女のソフィアです」
そう……彼女はなんと聖女とのことだった。
「テトラさんと同じ聖女です」
そして彼女はテトラが聖女だと言うことに、気づいているようだった。
「私とは……違うよ。ソフィアちゃんは私とは比べたらだめだと思うの……。だって私は自分のために逃げたんだし……自分勝手だと思うから……」
そう言ったテトラは引け目を感じた顔をしていて、あの夜の出来事に未だに思うところがあるようだった。
聖女の役割を放棄して教会から逃げた。
色々な事情があったものの、それはダメなことだったとも思っている。
だからこそ……今こうしていることが正しいのかは、未だに分からない。
しかし……。
「ふふっ、テトラさんもメテオノール様もお優しい方なのですね。ですが、それに関しては気に病まなくてもよろしいですよ。お二人の行動は正しい行動だったのですから」
ソフィアさんは穏やかな表情で、そう告げてくれた。
「お二人が村を出ようとした時の夜のことは、私も見させてもらいました」
「「……見させてもらった……?」」
「ええ、神父の視線を通じて、バッチリ見ておりましたの。他の聖女たちも、お二人のことを見ておりましたのよ」
「「……!?」」
他の聖女も……!?
……どうやら聖女には、教会で契りを結ぶと、そういうことができるようになるらしい。
つまりソフィアさんはそれを知った上で、こうして俺たちと会話をしているようだった。
他の聖女に、テトラのことや、村から出ようとしたあの夜のことが知られたら、テトラはまた教会から狙われることになる……と心配だったものの、今のところ彼女からそういう雰囲気は感じられない。
「あの時のお二人は様々な事情があったのですのよね。そもそもあれは神父が強行したことですので、そちらの方が許されざる行いだと判断されております。彼は教会に仕える身でありながら、神への信仰を無下にしました。ですので、お二人が気に病むことではありません。それに罰ならお二人はすでに受けているではありませんか」
「「罰を……」」
「テトラさんはその命を一度失いました。そしてメテオノール様はテトラさんを失った悲しみを知りました。十分すぎるほどの罰を二人は既に受けております。だから、これ以上はもう苦しまなくていいのです」
「ソフィアちゃん……」
彼女は俺を挟んで、隣に座っているテトラの手を握る。
「それに一人の聖女は言っておられました。メテオノール様とテトラさんの行動は、むしろ多くの者を救う方向へと働いていた、と。だからテトラさん、あなたが気に病むことはありません。そもそも聖女というのは、人になれと言われてなるものではありませんもの。あなたはテトラさんとして、胸を張って生きていいのです」
「ソフィアちゃん……、ありがとう……」
そう言って、少し涙ぐんだテトラが、彼女と二人で笑みを浮かべあった。
まるで、心のつかえが取れたように晴れやかな顔になったその姿を見ていると、こっちまで安心できた。
「……あ、しかし、その聖女はこうも言っておりました。テトラさんには聖女とは違う真逆の力も宿っている……と。さすがにその場合には私も見過ごすことができなくなりますので…………それだけはお気をつけください、ね?」
『テオ……どうしよう!?』
腕輪を通じて、テトラの助けを求める声が聞こえてきた。
テトラが魔族であることは、未だに知られてはいないみたいだ。
今の感じだと彼女は薄々感づいている気配もあるのだが……知らないふりをしてくれているのかもしれない。
「でも……そこまで色々教えていただいてもいいのでしょうか……」
「ええ、これぐらいなら構いません。メテオノール様に信頼をしてもらうためには、必要なことだと思いますので」
信頼……。
「はい。信頼です。……だってメテオノール様は出会ってから今までずっと、私を警戒しているような顔をしているんですもの……っ」
彼女はそう言うと、俺の方を見て少しだけ頬を膨らましていた。
「私……メテオノール様に信頼されていません……」
「そ、そんなことはありませんよ……」
「そうでしょうか……。だってメテオノール様は私と言葉を交わすとき、目を合わせてくれませんし、たどたどしい言葉遣いになるんですもんっ」
「あ、ソフィアちゃん。それは違って、テオはただ女の子と喋るのが苦手なだけだよ?」
テトラが弁解するように言う。
そして俺の顔を見ると、ふにゃりと顔を綻ばせて、俺を抱きしめながら彼女に顔を近づける。
「あのねソフィアちゃん、テオは女の子と喋ると、緊張する喋り方になるの」
「あら、そうなのですか……?」
「うんっ。だってテオはそういう一面もある男の子なの。そういうテオも可愛いし、きっと今もソフィアちゃんが隣に座ってるから、緊張してるだけだと思うの~」
「まあ……っ!」
パッと明るくなる彼女の顔。
「メテオノール様は私に緊張してくださっているのですか……っ!」
「そうだよ。ほら、テオの心臓に耳を当てると、鼓動が早くなってるのが分かるよ!」
「あら、本当です……! もうっ、メテオノール様ったら……っ」
「そういうテオも素敵……っ」
「「えへへっ」」
俺の胸に耳を当てて、明るく微笑む二人。
「…………」
俺は自分の心臓に耳を当てている二人のそばで、固まることしかできなかった……。
その間も馬車は進んでいく。
草原を進むガタゴトと揺れる馬車の中で、それからもテトラとソフィアさんは打ち解けたように、会話に花を咲かせていくのだった。
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