The Load of Chaos ~勇者オシリスの日常的な冒険~

秋野ユーヒ

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The Load of Chaos ~勇者オシリスの日常的な冒険~(3)

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「おっと、大事なことを忘れてもらっては困る。」
ラスボスは遠い目をしてクビスを見た。
「…お前の苗字は何というのだ?」
「私はサラシ。サラシ=クビスだ。」
「ほう。ワシが勝った暁には、お前をその名の通り、さらし首にしてやろう。」
「私は負けない。お前を倒し、ムジューンに無事帰って、ウナージとけ…」
「だから、言っちゃダメ!」
ハラスは人差し指を唇に当てて言い、クビスに最後までしゃべらせなかった。
「じゃあ、次は俺の番だな。」
カタスはイスから立ち上がった。カタスは背が低いほうで、女性であるムネスやハラスにもまだ少し負けている。
「俺はカタス。シジュウ=カタスだ。勇者オシリスとは、腐れ縁っていうの?ちっちゃい時から、ずっと一緒でさ。だからコイツが偉い奴だとしても、今さらそれをあがめろってたってどだい無理な話でさ。俺は全然気は使わねぇんだ。」
「ほう。勇気のあるやつだな、お前は。」
ラスボスは感心している。
「で、お前にも故郷はあるのか?親や兄弟はいるのか?」
「…俺には母ちゃんも父ちゃんもいねぇ。いや、まだいるのかもういねぇのかも分からねぇ。そもそも親の顔を覚えてねぇ。ましてや兄弟のことはさっぱり分からねぇ。」
クビスはカタスの語り口を聞いて、田舎演歌歌手のデビュー曲を思い出した。
「♪あ~こんな俺、嫌だー。」
と、聞こえるか聞こえないかの音量で口ずさんだ。
「故郷もどこか分からねぇ。家もねぇ。とりあえず、だいたいコントーンの街のどこかで寝てる。食いもんは、俺の腕にかかれば、必ず手に入る。食いっぱぐれることはねぇ。」
「ときどきウチの店の廃棄をあさってんのはアンタだね?」
ムネスはギロリとカタスをにらんだ。しかし、口元はニヤニヤとしている。
「…バレちゃ仕方ねぇな。おかげでこの通り元気だぜ。」
カタスは両腕を振りながら2~3回ぴょんぴょんとジャンプした。
「ところでカタス、前から不思議だったんだけどさ。」
ハラスは腰に手を当て、首を少し傾けてカタスを凝視して言った。
「アンタは気が付いたらコントーンの街で一人だったんでしょ?だったらなぜ、オシリスやワキスと同い年って知ってるわけ?」
「それは、母ちゃんが母子手帳を俺の懐に入れといたんだよ。俺は字が読めなかったんだけど、ワキスの父ちゃんが教えてくれてさ。」
「そう、僕の父が、最初はカタスの面倒を見ていたんだ。僕を育てるのと一緒にね。でも、コイツが教会で盗みを働いたので、追い出されてしまったんだ。」
ワキスは淡々と話した。
「へん!俺のほうから出て行ってやったのさ。俺は神様なんか信じねぇからよ。」
カタスは強がっているように見えた。
「以上。俺は基本オシリスと一緒にいる。コイツ、ちょっとわけわかんねぇとこあるけど、一緒にいると楽しいんだ。」
「いや、お前の目当ては城の食べ物だろ?」
「…バレちゃ仕方ねぇな。」
カタスは右手で頭を掻いた。
「はい、次。次はワキス、お前の番だ。」
カタスはワキスを促した。
「僕の名前はニオー=ワキス。コントーンの街にある教会が僕の家だ。」
「ほう、ではお前は、ギャランドゥ教の僧侶か。」
「詳しいな、ラスボス。いかにも僕は、大司教コシノクビレスを父に持つギャランドゥ教徒だ。」
「ギャランドゥ教の教えの中心は、『美しくあれ』だったか。」
「そう。でもそれは、『醜さを否定せよ』という意味ではない。たとえ醜くても、少しでも『美しくしよう』という心が大切なのだ。だからオシリスやカタス、そしてラスボス、お前たちの存在を認めないわけではないから安心してほしい。」
(私の名前は無かったが、彼のこういった高慢な物言いはイマイチ好きになれない。)
クビスは鋭い視線をワキスに向けていた。
「そんなわけで。ギャランドゥ教の教えが少しでも広く浸透するように、僕は普段から布教活動をしているのさ。」
ワキスは手に持っていたスマートフォンを軽く振って見せた。
ワキスには聞こえないように、ちょっと小声でハラスが言った。
「でもお友だちの登録数は、まだ10人もいないらしいよ。しかもほとんどが男の子だってさ。」
「ハンサムなわりにはモテないみたいだね。あの性格じゃ、無理もないだろ。」
ムネスは首筋をボリボリと掻きながら言った。
「さて、僕はおしゃべりが過ぎるのは美しくないと思ってるから、このくらいにするよ。次はムネスの婆さんでどうかな。」
「あたしの紹介なんか誰が聞きたいもんかい。おもしろいことなんか何もありゃせんわ。」
「いや、ワシのストライクゾーンは広いぞ。ぜひともお前のことも聞かせてくれ。」
「ほう、ラスボスとやら。あんた案外見る目があるのかもねぇ。ちょっと気に入ったよ。」
ムネスは少し機嫌を直した。
「あたしはハトゥ=ムネス。コントーンのよろずやの隠居だよ。店は息子のボインズと、その嫁のパイスに譲ってる。あたしの仕事は、薬を調合して店に出すくらいのものさ。孫のペチャスには、面倒を見るふりをしながら、こっそり魔法の使い方を教えてやってるのさ。あの子はわりと、筋がいいね。」
「ほう。ではお前は、魔女の血筋か。」
「そうさ。これでも若い時は、ハラスに劣らぬ絶世の美女と言われたもんさ。」
「へー、本当なのか、それ?」
カタスは疑いの目を向けている。
「嘘なものか。ムナイタスという男に気に入られてね、周りの反対を押し切って、魔女のあたしと駆け落ちしたのさ。そしてこのコントーンで、よろずやを始めたわけ。ムナイタスは、顔はハンサムじゃなかったけど、なかなかいい男だったよ。でも、ボインズが生まれてすぐに死んじまってね。それが残念で、その運命が腹立たしくもあってね、やけ食いしてたらこの体だよ、まいったね!」
ムネスは自分のお腹を叩いた。パン!と良い音が鳴った。
「さぁ、湿っぽい話はここまでだよ。最後はハラス、あんたがまとめな。」
「ようやく、私の番というわけね。」
ハラスはいわゆる踊り子の衣装を身に付けている。太腿から下、お腹や背中、腕など露出している褐色の肌が艶めかしい。ほどよく胸や尻に肉付きがある。大きな瞳、すっと通った鼻、柔らかく艶やかな唇で、大人びたセクシーさもあどけない若さも感じられる顔だちをしている。
「はじめまして。私はサーンダン=ハラス。見ての通り、踊り子よ。この街の酒場で働いてるから、良かったら遊びに来てよね。」
「あいにくワシは今、酒が飲めないのだ。ちょっと前に悪酔いをしてからは、禁酒中でな。」
ラスボスは、胸をさすりながら言った。
「あら、そうなの。でも、お酒を飲まなくても、おいしいおつまみはたくさんあるわよ。それに、私たちの踊りを見に来てくれたら、テンションあがるわよ。」
「ふん。悪くはないが、ワシは見れるなら、ムネスのような老婆の舞いのほうが、見てみたいものだな。」
オシリスたちは想像し、何とも言えない気分になった。
「…あら、そう。まあ、好みはそれぞれよね。気を取り直して続けさせてもらうけど、私の故郷はコントーンの隣だけど、ムジューンとは反対側ね。港町の、サッパリってところ。
私は兄弟が多いの。妹のヘソリーヌと、双子の弟、オナカスとセナカス。パパはアシノツケネスっていうんだけど、漁師をしていて、年中海に出ていてほとんど帰ってこないの。ママはマタグラスという名前だけど、病気がちで寝ていることが多いわ。だから、ヘソリーヌがママや弟たちの面倒を見て、パパや私がなんとか生活費を稼いでるってわけ。」
「へー、あんた若いのに、けっこう苦労をしてるんだね。」
ムネスは老眼鏡の角度を少し変えた。光が反射し、一瞬キラリと輝いた。
「まあでも、酒場の仕事は楽しいし、こうして仲間もいるから私は大丈夫。」
「無理をして、せっかくの君の美しさが損なわれないようにね。疲れたら、私がマッサージしてあげるよ。」
「ワキス、それはあなたの回復魔法でお願いするわ。」
「さて、ラスボスよ。これで我々の自己紹介も終わった。」
オシリスは、ラスボスのほうを見据えた。
「ここで、一戦交えるか?」
クビスは両の拳を握り、少し腰を落として構えた。
「久しぶりの戦いだよ。腕が鳴るねぇ。」
ムネスは右手に杖を持ち、肩から上の辺りに掲げている。
「俺の素早さについてこれるかな?」
カタスは反復横跳びを始めた。
「鳥たちよ、美しく舞い給え。疲れたら、私が癒しを与えよう。」
ワキスは両の掌を合わせて、祈りを唱え始めた。
「私は正直、踊ることしかできないけど、少しでも相手のスキを作るわ。誰でもいいから、私を守ってね。」
ハラスはやや不安な表情ながらも、華麗なステップを踏み始めた。
「さあ、ラスボスよ。機は熟した。いざ、尋常に…」
オシリスは、左の腰に収めている剣の柄を右手で握った。
「…いや、今日はここまでだ。そろそろ帰らねば。戦いはまた今度にしよう。」
ラスボスは椅子から立ち上がった。6人はそれぞれにやり場を失い、クビスはひざを床につき、ムネスは杖を落とした。ワキスは祈りの姿勢で固まっている。カタスは反復横跳びの勢いのまま横にずっこけた。ハラスは床にへたりこみ、思わず開いてしまった脚を急いで閉じた。オシリスの右手は剣の柄を滑り、空っぽの右手が空中でパーの形になった。

つづく?つづけたい
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