2 / 5
五月雨と秋雨の間⑵
しおりを挟む
「え、藤森さん? 私はそこまで仲がいいってこともないかな。」
みっちゃんこと三条未知に、塾で今朝の出来事を話した。みっちゃんはちょっと不思議そうな顔をしてから話し出した。
「そういや、この間たまたまみんなで二組の前を通ったときにね。薫って今ちょうど窓際の席じゃん? だから薫の顔が見えてて。そしたら藤森さんが『あの子知ってる?』って聞いてきたから、あれが我がT小始まって以来の天才、清水薫です、って教えてあげただけ。」
「何を大袈裟に言ってんの!」
みっちゃんは大きな目をさらに拡げた。
「少なくとも私はそう思ってるよ。あとは家が割と近いことと、勉強は得意だけど体育はいまいちなことは教えてあげた。」
私はため息をついた。
「で、藤森さんはどんな子なの?」
「どんな、って……普通の子だよ。おっきいけど。」
「それは見れば分かる。他は?」
「バスケ部でスポーツができる感じ。性格はよく分からないな。私と違うグループの子と仲良しだもん。変な噂は聞かないし、まあ悪い子じゃないんじゃない?」
みっちゃんは特に藤森さんには興味がないようだった。
「それよりさ、数学の宿題で分からない問題があるからちゃちゃっと教えてよ。」
その日の寝る前、私は入学式で配られた「入学者一覧」を見直した。クラスごとに担任と入学者の名前があり、横に出身小学校が書いてあるだけのA4一枚の紙。確かに、三組の欄に「藤森愛実 U小」とあった。でもあまりにも情報量が少なすぎる。同じクラスでU小出身の柳くんか鳥羽くんに聞くしかない。でも、いきなり藤森さんのことを聞いたら変に思われそう……。私はもやもやと考えながらベッドに入った。
しかし、次の日のお昼休みにチャンスがやってきた。白衣を着た理科の先生が教室に来て、「鳥羽くんと清水さんは5時間目の実験の準備を手伝って。そのまま授業だから教科書とノートも持ってきてね。」と言ったのだ。鳥羽くんが私と同じ理科係なのをすっかり忘れていた。鳥羽くんは舌打ちをしながら、私はいそいそと先生の後ろを歩いた。
「ついてねぇな。昼休みはせっかく漫画読もうと思ってたのに。清水さんも本を読むとか、勉強するとか、やることがあっただろ? な?!」
鳥羽くんはこんな感じで誰にでもフレンドリーなので、クラスの人気者だ。だけど特定の誰かとつるむということもない。
「私は別にいいかな。ちょうど本を読み終わったんだもん。」
「何だよ、そのいかにも優等生な返事はよ!」
先生が振り返って笑う。
「二人にはビーカーとフラスコと試験管を席に並べてもらうからよろしくね。」
理科室に着くと、先生の指示通りに二人で実験器具を机に置いていった。
「あ、鳥羽くん、乱暴に置いたらガラスが割れちゃうから、もっと静かに。」
「はーい。」
「清水さんはね、こっちにある温度計も各机に一つずつ置いてくれるかな?」
「分かりました。」
結局、10分もしないうちに、実験の準備ができた。
「ありがとう。じゃあ、先生は一回職員室に戻るから、二人も授業が始まるまで自由にしていいよ。」
先生が理科室を出て行った直後、鳥羽くんが言った。
「こんなん、先生一人でできるじゃん! 俺たちに頼まなくてもよ、なあ?」
「そうだね。」
今日は昨日と違って晴れている。梅雨の合間。窓は開いていて、白いカーテンが風で揺れている。私は話を切り出した。
「ねぇ、鳥羽くんってU小だよね。藤森さんのこと知ってる?」
鳥羽くんは頷いた。
「ああ、藤森、あのデカいやつだろ。知ってる。」
「どんな子なのかな?」
鳥羽くんは少し首を捻った。
「どんな……あいつ、5年のときに転校してきたから、昔から知ってるわけじゃないんだ。なんか岐阜だか長野だか、遠いところから来たんだよな。」
藤森さんのイントネーションが他の人とちょっと違うのはそういうことだったのか。
「それで、他には?」
「んー、スポーツができる。目立つタイプではない。何度か話したことはあるけど、悪いやつじゃないと思う。以上。ってか、三組の女子に聞いたほうが良くね?」
私はため息をついた。
「三組の女子に聞いてよく分からなかったから鳥羽くんに聞いたのよ。」
「まあ、そんなに印象に残るタイプのやつではないよな。三組の女子が分からないなら、よく分からないやつってことでいいんじゃね?」
そのうちに、クラスの男子が理科室にやってきて鳥羽くんに声をかけたので、話はそこで終わりになった。
「鳥羽! 清水のことナンパしてたのかよ。」
「そうだよ。今振られたところ!」
鳥羽くんはおどけてそう言った。男子はニヤニヤしながら鳥羽くんと私の顔を見比べている。
「違うよ、普通に世間話をしてただけなのに……」
鳥羽くんは私の話をぶった切って言った。
「清水さんには他に好きな人がいるから俺は無理なんだってさ。」
男子はより好奇の目を私に向ける。はっきり言って気持ち悪い。
「清水、好きな人って誰?」
「そんな人はいません!」
私は持っていた教科書とノートを机に叩きつけた。バシッと乾いた音がして、その衝撃で丸底フラスコが倒れた。
「おお、こえー。」
「何だ、何だ?」
後から理科室にやってきた子たちが私たちの周りに集まる。
「本当に何でもないから。」
私は理科室の、自分の席について黙って俯いた。その直後、チャイムが鳴って先生もやってきたので騒動は収まった。しかし、私は藤森さんのことがますます分からなくなって、もやもやはより大きくなってしまった。
みっちゃんこと三条未知に、塾で今朝の出来事を話した。みっちゃんはちょっと不思議そうな顔をしてから話し出した。
「そういや、この間たまたまみんなで二組の前を通ったときにね。薫って今ちょうど窓際の席じゃん? だから薫の顔が見えてて。そしたら藤森さんが『あの子知ってる?』って聞いてきたから、あれが我がT小始まって以来の天才、清水薫です、って教えてあげただけ。」
「何を大袈裟に言ってんの!」
みっちゃんは大きな目をさらに拡げた。
「少なくとも私はそう思ってるよ。あとは家が割と近いことと、勉強は得意だけど体育はいまいちなことは教えてあげた。」
私はため息をついた。
「で、藤森さんはどんな子なの?」
「どんな、って……普通の子だよ。おっきいけど。」
「それは見れば分かる。他は?」
「バスケ部でスポーツができる感じ。性格はよく分からないな。私と違うグループの子と仲良しだもん。変な噂は聞かないし、まあ悪い子じゃないんじゃない?」
みっちゃんは特に藤森さんには興味がないようだった。
「それよりさ、数学の宿題で分からない問題があるからちゃちゃっと教えてよ。」
その日の寝る前、私は入学式で配られた「入学者一覧」を見直した。クラスごとに担任と入学者の名前があり、横に出身小学校が書いてあるだけのA4一枚の紙。確かに、三組の欄に「藤森愛実 U小」とあった。でもあまりにも情報量が少なすぎる。同じクラスでU小出身の柳くんか鳥羽くんに聞くしかない。でも、いきなり藤森さんのことを聞いたら変に思われそう……。私はもやもやと考えながらベッドに入った。
しかし、次の日のお昼休みにチャンスがやってきた。白衣を着た理科の先生が教室に来て、「鳥羽くんと清水さんは5時間目の実験の準備を手伝って。そのまま授業だから教科書とノートも持ってきてね。」と言ったのだ。鳥羽くんが私と同じ理科係なのをすっかり忘れていた。鳥羽くんは舌打ちをしながら、私はいそいそと先生の後ろを歩いた。
「ついてねぇな。昼休みはせっかく漫画読もうと思ってたのに。清水さんも本を読むとか、勉強するとか、やることがあっただろ? な?!」
鳥羽くんはこんな感じで誰にでもフレンドリーなので、クラスの人気者だ。だけど特定の誰かとつるむということもない。
「私は別にいいかな。ちょうど本を読み終わったんだもん。」
「何だよ、そのいかにも優等生な返事はよ!」
先生が振り返って笑う。
「二人にはビーカーとフラスコと試験管を席に並べてもらうからよろしくね。」
理科室に着くと、先生の指示通りに二人で実験器具を机に置いていった。
「あ、鳥羽くん、乱暴に置いたらガラスが割れちゃうから、もっと静かに。」
「はーい。」
「清水さんはね、こっちにある温度計も各机に一つずつ置いてくれるかな?」
「分かりました。」
結局、10分もしないうちに、実験の準備ができた。
「ありがとう。じゃあ、先生は一回職員室に戻るから、二人も授業が始まるまで自由にしていいよ。」
先生が理科室を出て行った直後、鳥羽くんが言った。
「こんなん、先生一人でできるじゃん! 俺たちに頼まなくてもよ、なあ?」
「そうだね。」
今日は昨日と違って晴れている。梅雨の合間。窓は開いていて、白いカーテンが風で揺れている。私は話を切り出した。
「ねぇ、鳥羽くんってU小だよね。藤森さんのこと知ってる?」
鳥羽くんは頷いた。
「ああ、藤森、あのデカいやつだろ。知ってる。」
「どんな子なのかな?」
鳥羽くんは少し首を捻った。
「どんな……あいつ、5年のときに転校してきたから、昔から知ってるわけじゃないんだ。なんか岐阜だか長野だか、遠いところから来たんだよな。」
藤森さんのイントネーションが他の人とちょっと違うのはそういうことだったのか。
「それで、他には?」
「んー、スポーツができる。目立つタイプではない。何度か話したことはあるけど、悪いやつじゃないと思う。以上。ってか、三組の女子に聞いたほうが良くね?」
私はため息をついた。
「三組の女子に聞いてよく分からなかったから鳥羽くんに聞いたのよ。」
「まあ、そんなに印象に残るタイプのやつではないよな。三組の女子が分からないなら、よく分からないやつってことでいいんじゃね?」
そのうちに、クラスの男子が理科室にやってきて鳥羽くんに声をかけたので、話はそこで終わりになった。
「鳥羽! 清水のことナンパしてたのかよ。」
「そうだよ。今振られたところ!」
鳥羽くんはおどけてそう言った。男子はニヤニヤしながら鳥羽くんと私の顔を見比べている。
「違うよ、普通に世間話をしてただけなのに……」
鳥羽くんは私の話をぶった切って言った。
「清水さんには他に好きな人がいるから俺は無理なんだってさ。」
男子はより好奇の目を私に向ける。はっきり言って気持ち悪い。
「清水、好きな人って誰?」
「そんな人はいません!」
私は持っていた教科書とノートを机に叩きつけた。バシッと乾いた音がして、その衝撃で丸底フラスコが倒れた。
「おお、こえー。」
「何だ、何だ?」
後から理科室にやってきた子たちが私たちの周りに集まる。
「本当に何でもないから。」
私は理科室の、自分の席について黙って俯いた。その直後、チャイムが鳴って先生もやってきたので騒動は収まった。しかし、私は藤森さんのことがますます分からなくなって、もやもやはより大きくなってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる