転生したらとんでもないトコロをイケメンにされた

餅月ぺたこ

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2.異世界

第3話

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 2 異世界



 晴天だった。

 日差しは真夏を思わせるような、じりじりとした強さだが、風は海が近いのか、潮の香りがして爽やかだ。視界の先には地平線が見えるほどの、だだっ広い草原が広がっている。

 俺が立っているのは、その草原の端の、森の入り口。

 木漏れ日の下で、夏のそよ風に吹かれながら、最期の舞台で着ていた衣装の、スーツ姿のままの身一つで、ただそこに立ち尽くしていた。

「暑ッつ。……あれ?」

 呆然と、世界と自分の立ち位置を把握して、キョロキョロと辺りを見回す。

「あれ……、俺……」

 俺は、俺だ。

 よく知っている。

 間違いなく俺は三澄海斗で、相方・佐田の進化素材で、転生するために今さっき泡になった男だ。

「転生……って、赤ちゃんになって、新たな人生を歩むんじゃないの?」

 佐田のよく話してくれる界隈のことにあまり詳しくないから、自分の置かれた状況がイマイチよく分からない。そして、建物も人も、何も見当たらないのも謎だ。

「飛行機も飛んでないし、電柱すら一本も無い……」

 とんでもない田舎と思いたいが、この様子では、それどころじゃないド田舎に飛ばされてしまっているんじゃないか?

 自分の置かれた状況に、急にゾッとする。

「じ……冗談キツいよ……! 大自然にひとりぼっちじゃ、誰とも喋れないし、笑いあえないよ! アイツやっぱ神様のバイトだったんだよ! やられたぁッ!」

 やり場のない怒りを、姿の見えない責任者に叫んでいた時。背後の森の方から草をかき分ける音が聞こえて振り返る。

 自分以外の生き物の存在発見に、嬉しそうな笑顔を浮かべていた俺の表情筋が、茂みの奥から登場したモノを見て、笑顔のまま動かなくなった。

 そして次の瞬間、回れ右して全力で草原に駆け出す。

「ぎゃあああぁぁ! けも……っ、けものぉぉ!」

 あのね、俺よりデカい赤褐色の猿みたいな獣と遭遇して、背中を見せてはいけない、とかね、そんなこと素人がとっさに判断できると思う?

「いやぁぁっ! アイツ絶対肉食獣じゃん! 毛むくじゃらじゃん! 狩る気満々で出てきたじゃん!」

 半狂乱で隠れるところもない草原へ駆け出したことは、直ぐに後悔することとなる。

「ぎゃぁーッ、早っ、アイツ足早っ! 捕まっ……だァッ!」

 あっという間に追いつかれて足にタックルされると、草の上にビタンッと転んで、這って逃げ出す前に組み敷かれる。

 馬乗りになった獣に見下ろされて、あっけないほど簡単に万事休すとなってしまった。

「うわあぁんっ、食べても美味しくないですー! 痛いのもホントやだぁ!」

 いきなり喉元へ噛みつかれて即死とならなかったのは、運が良かったのだろうか、悪かったのだろうか。

 とにかく命乞いをする時間はもらえたみたいで、通じるわけもない嘆願を、俺は一生懸命叫んだ。

「縄張りなんて知らなかったんですぅッ! たまたまここに来ちゃっただけで、すぐに出ていくつもりでした! 見てのとおり肉も付いてないし、僅かな肉も男だから硬いと思います! 絶対マズイです! 食べるとお腹壊しちゃいますよォッ!」

 俺の前世はこの時の為にあったのかと感心するほど、仕事で鍛えた発声と滑舌の良さを発揮して、早口でも一回も噛まずにデカい声で言い切れた!

 新しい人生、誰とも笑いあえなかったけど、全力でいっぱい喋ってやったぞー!

「もう殺るなら、一思いに一気に殺ってくれ!」

 両目をギュッと瞑って覚悟を決めて待ってたら、獣の手が俺の脇に差し込まれて、ひょいっと上体を起こされる。

「ちょ……、食べやすい体勢に整えてるの? できるだけサクッとしてもらえるとありがたいんだけど……もう、おしっこの味つけ付いちゃう……」

 恐怖で漏れそうなのを耐えてんだから、空気読んでほしい。

 それにしても目を閉じたままだから、はぁはぁしてる息遣いだけが聞こえるこの状況が余計に怖い。

「こんな事なら目を開けてたら良かっ――」

 今さらの後悔を呟いていたら、獣は太い両腕を俺の背中に回して身体を締め上げ、空気が震えるほどの雄叫びを上げた。

「うおおおおー!」

「ぎゃあああー! 何、何、ナニ!?」

 てっきり生のまま齧りつかれるんだと思っていたから、いきなり耳元で大声を上げられ、背骨が軋むほど締め上げられて、飛び上がるほど驚かされれば、負けないくらい叫び返すのは作用反作用の法則だから仕方ない。

 食前の儀式がとんでもない種族に捕まってしまったと、頭を抱えたい気持ちで、いつまでも噛みつかれない恐怖に負けて、そっと片目を開けてみたら、なぜか俺の胸で獣が涙を流して泣いている。

「……え?」

 身体を締め上げられているのだと思っていたこの体勢は、どうやら抱きつかれているだけのようで、俺にしがみついた獣は、しばらく嗚咽をこぼし泣き続けていた。

「ええぇ……」

 泣いてる獣から、なんだか爽やかな香りがするのが、何とも言えない違和感だった。
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