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3.仲間
第4話
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3 仲間
涙をこぼす毛むくじゃらの獣に抱きつかれている俺のこの状況も、草原の風に揺れる可愛い小花のおかげで、だんだん落ち着くことができてきた。
恐る恐る獣を見下ろして、よくよく見てみると、引き締まった筋肉質な身体は、赤茶色の泥でコーティングされた半裸で、葉っぱの腰蓑だけを付けている。
最低限隠すところを隠しているその文化的な姿に俺は、ある可能性に賭けてみた。
「もしかして……、人間さん……ですか?」
俺の質問に、獣さんが即座にガバッと顔を上げる。
「ひぃっ」
怖い怖い、顔の彫りが深くて怖いよ!
ビビりながら、できるだけ薄目で、伸び放題の髪と髭に覆われた顔を見る。その奥にある大きく見開いて涙を溢れさせている瞳と、視線が合った。
瞳の色が、見慣れない青灰色だと気づいて、日本語では通じないのかもとアワアワする。
「アー、ジャパニーズ、スピーク、オケィ? ワタシ、ジャパニーズ、オンリー。ソレイガイ、オー、ノー」
いやぁ、絶対通じない英語を話すの、めっちゃ恥ずかしい。
もはや英語でもない部分も混じっているけど、でもコミュニケーションを試みるのは大事なんだよ。
だって、奇跡が起きたのだ。
「ォ……お前……。やっぱり俺と……、喋れるのか……?」
キタァァー!
キタきた来た日本語、キター!!
年齢不詳の、ガラガラに嗄れた男の声だったけど、それは確かに耳に馴染んだ言葉だった。
「まじかよォ! ソッチ日本語できるの!? なんで? なんでこんなところに居るの? なんでそんな格好してるの? なんで俺を襲ってきたの!? めちゃくちゃ怖かったじゃん! 大声もびっくりしたし! コケたのも痛かったァッ……うぁぁああっ、バカバカバカぁぁ!」
沸き上がる疑問をぶつけてるうちに、怒りと安堵が入り混じって、今度は俺が涙を溢して、がっしりとしている男の、泥で汚れた肩をぽかぽか叩く。
それなのに、男は涙を流したまま突然笑い出して立ち上がると、俺を高い高いして上下に振り回しながら、クルクルと回転しだした。
草原で戯れる、スーツ姿で号泣する俺と、泥だらけで泣き笑い続ける腰蓑男の奇妙なダンスは、俺が目を回してぐったりするまでしばらく続いた。
「すまない……奇跡が起きて、嬉しくて、ちょっとはしゃぎすぎた……」
草の上でくたりと横たわる俺の顔を、申し訳なさそうに男が上から覗き込んでくる。
「オェッ……、ほんとですよ……」
胃の中をめちゃくちゃにされて、世界がまだ回っている。
「まったく……。どんだけ人と喋ってなかったの? そもそも、人を寄せ付けないの、その格好の所為じゃないです? 何年も遭難してたみたいな格好になってますよ」
「…………」
「まさか……、そうなんですか……あっ、いや遭難ですかじゃなくて、そうという事かっていう、そうなんですかっていう……」
あぁもう、日本語ややこしい。
「……そうなんです……」
ほら、気を遣わせちゃったよ。割とシリアスな話なのに、なんかクスッとしちゃうじゃん。
「それは、タッ大変な目に……」
惨事に遭った人を笑うのはダメだと思うのに、声が上ずってしまう俺を、恨めしそうに見つめる青灰色の瞳は、もう怖くなかった。
なんだか締まらない空気を元に戻す為に、咳払いを一つ入れて、俺は寝転んだまま彼に首だけ傾けて話を続ける。
「遭難とは……大変な目に遭いましたね。というか、俺も似たような状況に陥っているみたいで……。ここは……どこなんでしょうか。記憶にもない場所なんで、困り果ててたんです。わかる範囲で教えてもらえませんか?」
俺の問いに、男はすぐ横に体育座りで腰を下ろすと、真っ直ぐに、どこか遠くを見つめる。
これは話が長くなりそうだ。
「二年前……」
二年分かぁ。
俺は、途中で茶々を入れないように気を引き締めた。
涙をこぼす毛むくじゃらの獣に抱きつかれている俺のこの状況も、草原の風に揺れる可愛い小花のおかげで、だんだん落ち着くことができてきた。
恐る恐る獣を見下ろして、よくよく見てみると、引き締まった筋肉質な身体は、赤茶色の泥でコーティングされた半裸で、葉っぱの腰蓑だけを付けている。
最低限隠すところを隠しているその文化的な姿に俺は、ある可能性に賭けてみた。
「もしかして……、人間さん……ですか?」
俺の質問に、獣さんが即座にガバッと顔を上げる。
「ひぃっ」
怖い怖い、顔の彫りが深くて怖いよ!
ビビりながら、できるだけ薄目で、伸び放題の髪と髭に覆われた顔を見る。その奥にある大きく見開いて涙を溢れさせている瞳と、視線が合った。
瞳の色が、見慣れない青灰色だと気づいて、日本語では通じないのかもとアワアワする。
「アー、ジャパニーズ、スピーク、オケィ? ワタシ、ジャパニーズ、オンリー。ソレイガイ、オー、ノー」
いやぁ、絶対通じない英語を話すの、めっちゃ恥ずかしい。
もはや英語でもない部分も混じっているけど、でもコミュニケーションを試みるのは大事なんだよ。
だって、奇跡が起きたのだ。
「ォ……お前……。やっぱり俺と……、喋れるのか……?」
キタァァー!
キタきた来た日本語、キター!!
年齢不詳の、ガラガラに嗄れた男の声だったけど、それは確かに耳に馴染んだ言葉だった。
「まじかよォ! ソッチ日本語できるの!? なんで? なんでこんなところに居るの? なんでそんな格好してるの? なんで俺を襲ってきたの!? めちゃくちゃ怖かったじゃん! 大声もびっくりしたし! コケたのも痛かったァッ……うぁぁああっ、バカバカバカぁぁ!」
沸き上がる疑問をぶつけてるうちに、怒りと安堵が入り混じって、今度は俺が涙を溢して、がっしりとしている男の、泥で汚れた肩をぽかぽか叩く。
それなのに、男は涙を流したまま突然笑い出して立ち上がると、俺を高い高いして上下に振り回しながら、クルクルと回転しだした。
草原で戯れる、スーツ姿で号泣する俺と、泥だらけで泣き笑い続ける腰蓑男の奇妙なダンスは、俺が目を回してぐったりするまでしばらく続いた。
「すまない……奇跡が起きて、嬉しくて、ちょっとはしゃぎすぎた……」
草の上でくたりと横たわる俺の顔を、申し訳なさそうに男が上から覗き込んでくる。
「オェッ……、ほんとですよ……」
胃の中をめちゃくちゃにされて、世界がまだ回っている。
「まったく……。どんだけ人と喋ってなかったの? そもそも、人を寄せ付けないの、その格好の所為じゃないです? 何年も遭難してたみたいな格好になってますよ」
「…………」
「まさか……、そうなんですか……あっ、いや遭難ですかじゃなくて、そうという事かっていう、そうなんですかっていう……」
あぁもう、日本語ややこしい。
「……そうなんです……」
ほら、気を遣わせちゃったよ。割とシリアスな話なのに、なんかクスッとしちゃうじゃん。
「それは、タッ大変な目に……」
惨事に遭った人を笑うのはダメだと思うのに、声が上ずってしまう俺を、恨めしそうに見つめる青灰色の瞳は、もう怖くなかった。
なんだか締まらない空気を元に戻す為に、咳払いを一つ入れて、俺は寝転んだまま彼に首だけ傾けて話を続ける。
「遭難とは……大変な目に遭いましたね。というか、俺も似たような状況に陥っているみたいで……。ここは……どこなんでしょうか。記憶にもない場所なんで、困り果ててたんです。わかる範囲で教えてもらえませんか?」
俺の問いに、男はすぐ横に体育座りで腰を下ろすと、真っ直ぐに、どこか遠くを見つめる。
これは話が長くなりそうだ。
「二年前……」
二年分かぁ。
俺は、途中で茶々を入れないように気を引き締めた。
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