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3.仲間
第5話
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男は自分に起きた事と、知っている事をポツポツと話してくれた。
久々に声帯を使うのだろう嗄れた声は、随分聞き取りにくかったのだが、話すうちに本来の声音を取り戻し、徐々に驚くべきイケボに変化していく。
その美声で語られる話を、俺は夢中で聞くことになった。
男が語ったのは、まるで物語みたいな話で、ひととおり話を聞き終わる頃には、俺の身に何が起きたのかもだんだんわかってきた。
男はマティアスと名乗った。
兄と一緒に故郷から出稼ぎで、国の都で傭兵?を生業として暮らしていて、二十二歳の時に単独で依頼を受けた護衛任務で、乗ってた船が難破して、ひとりだけ森の向こう側に広がる海岸に打ち上げられ、それからかれこれ二年ほどが経つらしい。
そして、彼の話に出てくる単語や、国や都市の名前を聞けば聞くほど、ここは日本じゃなくて、そもそも地球でもない星の、聞いたこともない国の、小さな島の端っこなのではないか、と推測された。
(遭難したのに、役所とか大使館とかを頼る考えもないみたいだし、コンビニとかインターネットなんて言葉も一切出てこない……。代わりに電気やガスに頼らない生活に慣れてて、武器を使って魔物(!?)や獣から身を守る術を持っているって……)
トドメに「俺に魔法属性があれば、あの時に船も無事だったのに……クソッ」などと、いい歳した大の大人に真面目な顔で言われれば、さすがの俺にだって、ココが佐田の大好きな、中世異世界、俗に言うナーロッパなのだろうと思い至る。
ちなみに、この島が絶望の無人島なのかと聞くと、無人……ではないらしい。
ないのだが……。
ここから森に沿って草原を四日ほど歩けば、一年ほど前に同じように遭難してきた、別の男が住む場所があることをマティアスは把握していた。
しかし、その男とは言葉も通じず、しかも相手がかなり好戦的で、マティアス曰く、もう二度とソイツには会いたくないとのこと。
一瞬、俺と出会ったときみたいに「うおー!」とか叫びながら走り寄って、敵認定されたんじゃないのか、と思ったが、心のシャッターを下ろしたマティアスからは、これ以上多角的な意見を望めそうにないので、機会があれば自分で確認するしかない。
てゆーか、確かに無人じゃないけど、ほぼ絶望の無人島じゃん! 遭難した奴しかいないじゃん!
とまぁ、こんな状況でマティアスが二年もほぼひとりで過ごせたのは、この島が年間を通して気候が温暖なのと、マティアス自身にサバイバルの知識があったからだろう。
魔法の存在する異世界と思われるこの場所で、なぜマティアスと俺が日本語で意思の疎通ができるのかは分からなかったが、スーツ姿の俺は、マティアスの故郷で馴染みのある格好だったようだ。
そして、出会い頭に、背中を見せて一目散に逃げ出した、弱者ムーブの俺を無害だと判断し、人恋しさも爆発して激し目のハグをしてしまったらしい。更に、パニックの俺がツラツラと喋る言葉が全部理解できると知って、涙腺が崩壊してしまったのだと、恥ずかしそうに髭の生えた頬を掻く姿は、同年代の青年っぽくて、獣と見間違えていたのが申し訳ない。
依然として俺たちの状況は、先も見通せないほど最悪だったが、マティアスはついに出会えた俺という仲間の登場に終始ウキウキしていて、そんな彼を見ていると、なんだか俺も肩の力が抜けてくる。
「とりあえず、ご飯とかどうしてるの? やっぱ狩りとか? 大変?」
年も近いことが分かったし、この際言葉遣いもフレンドリーにしてみる。
そんな俺に怒ったりもせず、マティアスはすんなり受け入れて言葉を返してくれた。
「基本的には自分で調達だ。まあ、お前の走る姿を見たが、あまりセンスはなさそうだ」
「はは……そうだよね……」
昔から鬼ごっこじゃいつも真っ先に捕まってたし、狩りやキャンプどころか、バーベキュー系のアウトドアすらしたことないもん。
ほんとにこの世界で、俺はやっていけるのか……?
不安しかないけれど、何とかするしかないだろう。そもそもひとりぼっちのスタートと今とを比べたら、マティアスの存在はデカすぎる。
そうと決まれば行動あるのみ。
眩暈も治ってきて、よっこらせと起き上がる。
相変わらずのいい天気だけど、話を聞く限り地球と同じでいずれ夜になるようだ。明るい今のうちに、安全な場所を確保しなければ。
……マティアスの住処に身を寄せた方がいいだろうか。
「マティアスは森で寝てるの? 今夜は俺も近くで寝ていい?」
「攫ってでも一緒にいるつもりだが?」
「怖いし重いよ!」
立ち上がって、ズボンのお尻に付いた草をぱんぱんと叩いて落とし、俺はマティアスと一緒に森へ向かうことにする。
「ところでお前、名前は?」
「あれ、まだ言ってなかったっけ? 海斗だよ。三澄海斗」
「カイト……。家名があるなら、カイトは貴族なのか?」
「えぇ? そんなわけないじゃん。二十歳の庶民だよ」
「二十歳……。もっと若く見える」
「童顔は気にしてるから言わないで!」
「背が低いから子供かと」
「そっちかよ!」
ぷりぷり怒る俺の顔を見て、マティアスが楽しそうにアハハと声を出して、意外に爽やかに笑う。
その横に並び、俺はこの世界の事を聞きながら、二人で森の奥に入っていった。
久々に声帯を使うのだろう嗄れた声は、随分聞き取りにくかったのだが、話すうちに本来の声音を取り戻し、徐々に驚くべきイケボに変化していく。
その美声で語られる話を、俺は夢中で聞くことになった。
男が語ったのは、まるで物語みたいな話で、ひととおり話を聞き終わる頃には、俺の身に何が起きたのかもだんだんわかってきた。
男はマティアスと名乗った。
兄と一緒に故郷から出稼ぎで、国の都で傭兵?を生業として暮らしていて、二十二歳の時に単独で依頼を受けた護衛任務で、乗ってた船が難破して、ひとりだけ森の向こう側に広がる海岸に打ち上げられ、それからかれこれ二年ほどが経つらしい。
そして、彼の話に出てくる単語や、国や都市の名前を聞けば聞くほど、ここは日本じゃなくて、そもそも地球でもない星の、聞いたこともない国の、小さな島の端っこなのではないか、と推測された。
(遭難したのに、役所とか大使館とかを頼る考えもないみたいだし、コンビニとかインターネットなんて言葉も一切出てこない……。代わりに電気やガスに頼らない生活に慣れてて、武器を使って魔物(!?)や獣から身を守る術を持っているって……)
トドメに「俺に魔法属性があれば、あの時に船も無事だったのに……クソッ」などと、いい歳した大の大人に真面目な顔で言われれば、さすがの俺にだって、ココが佐田の大好きな、中世異世界、俗に言うナーロッパなのだろうと思い至る。
ちなみに、この島が絶望の無人島なのかと聞くと、無人……ではないらしい。
ないのだが……。
ここから森に沿って草原を四日ほど歩けば、一年ほど前に同じように遭難してきた、別の男が住む場所があることをマティアスは把握していた。
しかし、その男とは言葉も通じず、しかも相手がかなり好戦的で、マティアス曰く、もう二度とソイツには会いたくないとのこと。
一瞬、俺と出会ったときみたいに「うおー!」とか叫びながら走り寄って、敵認定されたんじゃないのか、と思ったが、心のシャッターを下ろしたマティアスからは、これ以上多角的な意見を望めそうにないので、機会があれば自分で確認するしかない。
てゆーか、確かに無人じゃないけど、ほぼ絶望の無人島じゃん! 遭難した奴しかいないじゃん!
とまぁ、こんな状況でマティアスが二年もほぼひとりで過ごせたのは、この島が年間を通して気候が温暖なのと、マティアス自身にサバイバルの知識があったからだろう。
魔法の存在する異世界と思われるこの場所で、なぜマティアスと俺が日本語で意思の疎通ができるのかは分からなかったが、スーツ姿の俺は、マティアスの故郷で馴染みのある格好だったようだ。
そして、出会い頭に、背中を見せて一目散に逃げ出した、弱者ムーブの俺を無害だと判断し、人恋しさも爆発して激し目のハグをしてしまったらしい。更に、パニックの俺がツラツラと喋る言葉が全部理解できると知って、涙腺が崩壊してしまったのだと、恥ずかしそうに髭の生えた頬を掻く姿は、同年代の青年っぽくて、獣と見間違えていたのが申し訳ない。
依然として俺たちの状況は、先も見通せないほど最悪だったが、マティアスはついに出会えた俺という仲間の登場に終始ウキウキしていて、そんな彼を見ていると、なんだか俺も肩の力が抜けてくる。
「とりあえず、ご飯とかどうしてるの? やっぱ狩りとか? 大変?」
年も近いことが分かったし、この際言葉遣いもフレンドリーにしてみる。
そんな俺に怒ったりもせず、マティアスはすんなり受け入れて言葉を返してくれた。
「基本的には自分で調達だ。まあ、お前の走る姿を見たが、あまりセンスはなさそうだ」
「はは……そうだよね……」
昔から鬼ごっこじゃいつも真っ先に捕まってたし、狩りやキャンプどころか、バーベキュー系のアウトドアすらしたことないもん。
ほんとにこの世界で、俺はやっていけるのか……?
不安しかないけれど、何とかするしかないだろう。そもそもひとりぼっちのスタートと今とを比べたら、マティアスの存在はデカすぎる。
そうと決まれば行動あるのみ。
眩暈も治ってきて、よっこらせと起き上がる。
相変わらずのいい天気だけど、話を聞く限り地球と同じでいずれ夜になるようだ。明るい今のうちに、安全な場所を確保しなければ。
……マティアスの住処に身を寄せた方がいいだろうか。
「マティアスは森で寝てるの? 今夜は俺も近くで寝ていい?」
「攫ってでも一緒にいるつもりだが?」
「怖いし重いよ!」
立ち上がって、ズボンのお尻に付いた草をぱんぱんと叩いて落とし、俺はマティアスと一緒に森へ向かうことにする。
「ところでお前、名前は?」
「あれ、まだ言ってなかったっけ? 海斗だよ。三澄海斗」
「カイト……。家名があるなら、カイトは貴族なのか?」
「えぇ? そんなわけないじゃん。二十歳の庶民だよ」
「二十歳……。もっと若く見える」
「童顔は気にしてるから言わないで!」
「背が低いから子供かと」
「そっちかよ!」
ぷりぷり怒る俺の顔を見て、マティアスが楽しそうにアハハと声を出して、意外に爽やかに笑う。
その横に並び、俺はこの世界の事を聞きながら、二人で森の奥に入っていった。
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