転生したらとんでもないトコロをイケメンにされた

餅月ぺたこ

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4.一日目

第6話

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  4 一日目 

  

 案内されたマティアスの住処は、想像の百倍くらいワイルドだった。 

「ねぇ……屋根は? 壁は? 二年間何してたの!?」 

 人様の家にご厄介になるクセに、ずいぶん失礼な事を言っている自覚はあったが、これは酷い。

「いつでもここを離れて人里を探すつもりだった。最低限の手入れしかしていない」

「最低限の手入れもしてないよっ。木の上で寝てただけじゃん! ナチュラル100パーセントじゃん! よくこれで俺を招けたね」

 俺は一体どこで寝ればいいのか。

「ちなみに食堂はその切り株で、トイレは向こうの川の下流を使ってくれ」

 なるほど。自然をこよなく愛する彼が、半裸の毛むくじゃらになっているのは、必然だったのだ。

「うあぁぁぁ……。お金があってもどうにもならない事って、あったよ。こんなことになるなら、神様に衣食住の確保をちゃんとお願いしておけば良かったよぉー」

 がくんと膝を地面について、落ち葉の溜まった地べたに座り込む。

 そして、仰向けでパタリと大の字に寝転ぶと、我慢できなくなって、不貞腐れて駄々を捏ねた。

「綺麗なお家で、フカフカのベッドに寝転んで、おいしいご飯が食べたかったー! 佐田だけズルいー! 俺も幸せになりたいー!」

 ジタバタと両手足をうごうごさせる俺を、憐みの目で見つめるマティアスの視線が痛い。

「寝床は太い枝の間に横枝を渡せば寝られるし、雨が降った時には大きな葉を屋根にできる」

 だから大丈夫だという意味なのだろうけれど、全然大丈夫じゃない。

 これで数ヶ月もすれば、俺もめでたく腰蓑ブラザーズの仲間入りだ。

「毎日DIYしてやる……」

 当面の目標ができた。

 腰蓑以外の文化を発展させねばならない。

 しかし、俺がやる気に燃えたところで、すぐに現状を変えられるワケもなく……。

「川は浅く見えても、少し入ると深くなる。気をつけるんだ」

 俺はマティアスに言われて、木をくり抜いたお手製の入れ物を持って、川で汲んだ水を住処まで運ぶことを三往復と、焚き火用の湿気っていない枝を拾い集めるというシンプルな仕事を与えられる。日が暮れかかる前に、汗だくになって両手いっぱいの枝を抱えて戻ってきた時には、木の上に寝床が組まれていて、大きな葉っぱで作られた鍋に何かのスープが出来上がっていた。

「マティアスすげぇ……」

 俺が水汲みと枝拾いをしていた時間で、大変な仕事が終わっている。

 俺一人では、あんな太い枝を切ることも、その枝を木の上に何度も運ぶことも、葉っぱを鍋にして調理することも、何もかも無理だ。

(全部無理だ……。こんな生活が毎日続くの? 明日も? 明後日も? 無理だよ。俺、生きる術を、何も知らない……)

「カイト……どうした?」

 鍋で煮ているのが何なのかは分かんないけど、俺は自分の考えの甘さに気がついた。

 これは、ほんとのサバイバルなんだ。

 口うるさいだけの奴なんて、簡単に淘汰される厳しい場所で、俺の命はマティアスに掛かっている。

「あの……マティアス、さっきは失礼なこと言ってごめんね……。俺、何にも出来ないクセに、超失礼なこと、いっぱい言った……」

 屋根も壁も無くても、二年もこんな生活で生き延びてきた彼を、心から尊敬する。

 ごめんなさい、と頭を下げて涙を溢れさせた俺に、マティアスがオロオロして、そっと髪を撫でてくれた。

「カイト、働かせ過ぎたか? ホームシックか? 大丈夫だ。俺も最初は辛くてよく泣いた。そのうち泣かなくなるから」

「うん……」

「お前は一人じゃ無い。俺がいる。……泣きやんでくれ……」

「……うんっ」

 優しい言葉って、どうしてこんなに心に染みるんだろう。

 彼の優しさが伝わってきて、俺をどんどん泣かせにくる。

 泣き止まない俺に、マティアスも困り果てているようだ。

「泣かないでくれ……。あんまり泣くと、カイトが可愛く見えてしまう」

 マティアスの言葉に、俺は鼻をすすりながら苦笑する。

「何ソレ……やっぱ子供に見えるって?」

「いや……、子供じゃなくて……、レディー?」

「ふはっ、なんだよソレ」

 男の泣いてる姿が、なんでレディーなんだよ。

 てゆーか、レディーて。初めて聞いた。

 マティアスの中世ギャグに、カラ元気だけど鼻をすすって、なんとか俯いた顔を上げる事ができた。

 泣いて瞼を腫らした俺の顔を笑って、マティアスが、スープを差し出してくれる。

「これは泣き虫に効くスープだ。たくさん飲め」

「うぅ……ありがとう。…………うん、すげぇまずい」

 どう見ても食材をお湯の海水割りで煮ただけなんだから、おいしいはずもない。

「俺も最初はそうだった。まぁそのうち」

「美味しくなる……?」

「ああ。やみつきになる」

「うわー、楽しみー」

「感情がこもってないぞ」

「そういうマティアスだって、まずそうにすすってるじゃん」

「俺はもう泣き虫じゃ無いからまずくていいんだ」 

 二年経ってもまずいままなら、俺にだってこのスープの良さが分かる日はこないだろう。

 だけど、俺、マティアスの良さは、もうわかっちゃったなぁ。 
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